港街
ナトがある程度回復した。
「お詫びと言っちゃなんだけど...、コレあげるからちょっと楽しんできなさい!」
そういって渡されたのは、”期限今日まで!市場の食材、材料、素材合わせて20%オフ!!”と書かれたチケットだった。
「あっちの部屋の整理をしなきゃだし、外へ出かけてきなさい!」
「要するに、片付けするからどっかいけってことか。」
「まぁまぁ、こっちに来るのも久しぶりなんだし、そのチケット使ってちょっとバカンスしてきな。」
このじじいにしては気が利くな。
俺は目をこすってるナトを抱え、足の踏みどころのない廊下を進み家を出た。
「ちょっと師匠!どこ触ってるの!?」
「別に、脇腹だ。もっと痩せろ。後筋肉つけろ。」
「...師匠ってデリカシーないよね。」
「おまえはもっと俺にリスペクトを持て。」
ぶつぶつ言いあいながらふと後ろを振り返って見た。
「ん?師匠、どうしたの?」
「いいや、この家もここの街並みも変わりないなって。」
「急に思い出にふけっちゃって~。」
俺はナトを地面に落とした。
「あぶなっ!おろすなら先に言ってよ!」
「ん。悪い悪い。手が滑った。」
後ろの方で顔を膨らませているナトを置いて先に進んだ。
石畳の道を道なりに歩いていると、目の前に海と露店が見えてきた。
ちょうど昼間の時間帯だったので、お昼ご飯を買いに来てる主婦や、子供、観光客などで賑わっていた。
後ろからトコトコ走ってくる音が聞こえる。
「師匠、詫び求む。」
「んぁ?じゃぁこれでなんか買ってこい。」
チケットと有り余っている小銭を少し与えた。
ナトは目を輝かせ、露店の方へと走っていった。
「前、ここに来たときは確かあっちら辺に噴水があったな。」
記憶をたどりに足を運んでいくとちょろちょろと水が出る噴水が見えてきた。
以前のように綺麗な水が勢いよく出ている状態とは違い、今にも途切れそうな少しの水しか出ていなかった。
噴水のそばにある寂びれたベンチに腰を下ろす。
どことなく先ほどの露店街とは違い人気が少ない気がした。
噴水を眺めていると隣から声をかけられた。
「お兄さんはこっちとあっち、どっちが好み?」
「ん?それは場所という話か?」
「えぇ。」
「そうだな、俺はこの噴水が好きだ。あっちの方はまだあまり見ていないから何とも言えないが、現段階ではこちらの方が好みだな。」
話しかけてきたのはやや高身長の腰に剣を携帯している女性だった。
「あなたは?」
「んー。私もこっちの方が好きね。」
「そうか。」
会話が途切れたところで女性が俺の隣に座ってきた。
「名前を聞いても?」
「俺は、クロナ。君は?」
「私はクレハ。よろしく。」
容姿端麗でそこら辺の男どもには刺激が強いだろう。
まぁ俺は何とも思わんが。
「今、露店の方に弟子のナトというガキを行かせているんだ。」
「へぇ~。」
「以前にもこの街には来たことはあるんだが俺の知っている街はすぐそこまでだった。いつの間にかこんなにも変わっていたとは。」
「知ってる?ここは今旧街と呼ばれているのよ。あっちの海沿いの露店がある方が新街、今の港街と言えばあっちなの。」
「嬉しいようで、どこか悲しいな。」
「わかるわ、その気持ち。」
「あぁ、一方的に話をしてしまい申し訳ない。」
「いや、いいの。あら、この後予定があるの。息抜き出来て楽しかった。またどこかでクロナ。」
そう言うとクレハは、さっと立ち、軽い身のこなしで走り去っていった。
噴水の水の出が少し良くなっているのを感じた。
一匹の蝶がとまった。
すると水が勢いよく出て、俺が昔見たあの噴水のような姿になっていた。
溢れんばかりに噴き出る水は枯れた水路に運ばれた。
そこに両手に何かをいっぱい抱えたナトが走ってきた。
「ししょー。これ持って!」
「買いすぎだろ。チケットは使ったか?」
「チケット...あ。」
とりあえず頭に一発げんこつをおみまいした。
「お前は先にじじいの家に戻ってろ。あいつのことだから保存系の開発もしてるだろ。ほらチケット寄越せ。」
「何か買うの?」
「気になった物があったらな。」
ここでナトと別れて、俺は露店街の方に向かった。