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友引駅  作者: もち雪
3/3

いつか、ふたたび逢う時まで

 不吉な夜は消え去り、僕は逢いたいと思っていた大切な人に逢えた。


「智ちゃん……」

 僕の首筋に温かいものがつたう。そして彼女の感触が首から離れた。


「努くん一緒に、肉まん食べようか」


 彼女が僕の背から降りると、さっきまで着ていた白いパジャマのようなワンピースも、彼女よく着ていた白いフリルが控えめについた、流れる波ようなワンピースに変わっている。


 見つめる僕の視線を感じて、「ウェディングドレスもいいかなぁーって思ったけど、努くんと合わせた方がいいかな? って思ったの。でも、努くんがファッションでもっと頑張ってくれないとなー。いつかまた私たちが横に並んだ時、私と努くんの素敵な服を持ち寄ってお似合いですねって言われるコーディネートをしようよ。そして幾つになっても私の努くんはカッコいいと、思うんだからね。私は」


 彼女は呆れたような、困ったような、やはり僕の事を心配している顔で言った。


「それにしても美味しいこの肉まん。私の大好物だからあの日料理途中だったけど、買いに行っちゃった。食い意地が張ってるて、思われたら嫌だから一人で行ったの。だから努くんが気にする事ないんだってば、ねっ」


 そんなわけなかった。彼女の事故現場から、この肉まんを売っている店は真逆の方向で、苦しまぎれの僕のための嘘だろう。


「お父さんにはよく言っておくから毎年、肉まんお願いね。私がいっぱい食べて満足した頃に、今度はちゃん幸せになりなよね」


 彼女は泣くのを我慢しながら笑ってみせた。


「そんなのはいやだ……」


 僕は涙と鼻水を彼女に、見せないように深くお辞儀をした格好で、溢れる涙を止められないまま絞り出す様にそれしか言えなかった。


「努くんは、こんな時本当に泣き虫だな。幸せを我慢する必要はないよって言いたかっただけ、じゃあゆっくり来なよ」彼女はそう言って僕の頭を撫でた。彼女の甘い匂が、舞い落ちる花びらの様に散っていく。


 彼女がそうした事で僕の涙は決壊し、そこに居続ける事が、彼女の望みではない事を胸の内に落としていく。



 そして青空の広がる中昇る朝日を光を浴びながら、僕は動き出し始発で家に帰った。


 その日の昼に、彼女の母親から久しぶりの電話がかかって来た。しかし出てみると彼女の父親からで、彼は「久しぶりですね。元気ですか」と彼女の居た頃と同じように僕に問いかけた。


「今日の夢で、智子が掛け軸の前に座っていたんだ。『そしてこんなに酷い事になっているなんて思わなかった。うちに帰りたい』って言ったんだ。ここがお前のうちだと言っても『努くんの居場所が、私の居場所なの。彼がもう大丈夫って言う、少しの間だけでいいの一緒に……お願いお父さん』なんて言うんだ。辛さを一人で受け止められなくて、君に大変申し訳ない事をしてしまった。ただの夢かもしれない、しかし娘に夢でも、あんな顔はさせられない。智子の望みを叶えてやる事は可能だろうか?」


「この家は彼女の家のなので、いつ戻っても構いません。ただ……彼女を迎え入れるにあたって部屋が……、彼女に怒られ兼ねないほど汚れていまして……」


 そこからハウスクリーニング代を、半額出して貰う事で落ち着いた。情けない僕の生活は、彼女とふたたび出会う事でふたたび動き出したのだった。



 そして僕は仕事帰りに、老人と会った駅に立つ。


 あれから老人とは2度合う事が出来た。1回目は新聞のお悔やみ欄。2回目は彼の葬式。彼はあの日意識不明の重大だったようだ。それなら僕も死の間際の最後の仕事として、誰かを導く事になるのだろう。


 そして僕の問題というか、借りを返す方法について改めて考える。僕を導いてくれた老人が、危惧した障りについてだ。それについて調べてもあまりよくわからなかった。

 わかった事と言えば、肉まんが生け贄の代わりに作られた事だけだった。僕の番には肉まんを常備させるべきだろうか?


 そんなことを考えながら電車に乗ると、見知った人間を見たような気がした。 しかし目を凝らして発車する電車の中からでは、確認する事は難しかった。


 ★


 電車が出発した駅のホーム。


「その駅は友引駅と言って、死んでしまったとても死んだ親しい人々に会える場所です。月に1回、今月も4日、明日の夜9時に山に一番近付く電車に乗り込めさえすれば、どこか謎の駅にたどりつけるらしいという噂です」


「ですが、山田さん本当に会えるのでしょうか?」

 彼は驚きつつ聞くが、彼はもう何かを決めてしまったようだ。


 終わり


見ていただきありがとうございます!


またどこかで。

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