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友引駅  作者: もち雪
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彼女とふたたび出逢う

 次の日、僕は会社近くの駅のホームに夜の8時20分に立っていた。

 家に帰ったところで何もない、だから僕は寝袋とライト、そして食べ物を持ってただそこに居た。それだけだ。


 そして24分、1分の狂いもなく電車は僕の前に滑り込む。人々の様子は立っている人も結構いる状態、そして2つ過ぎた駅で、扉の近くで立っていると、入ってくる男と目が合った。彼は僕に怯えたようにビクッと後ろずさると、違う車両へと行ってしまう。


 その男を目で追い、扉が閉まると扉に反射した車内の様子が見えた。僕の後ろには誰も居ない。それどころか、慌てて振り返った僕は信じられない風景を見た。


 辺りを見回しても、その車両には僕以外、人っ子一人居ないのだ。

 隣の車両へ見に行くと、先ほどの男が怯えるよに僕を見返してきた。


「次は友引駅、友引駅、御降りの方は忘れものにご注意ください」


 それを聞き、僕は慌てて引き返す。しばらく待って開いたドアから降りると、その先には無人のホームがあった。そしてあの怯えていた男も立っている。何故か? 


 しかしあの男のビクビクしている様子から見て、好奇心で話しかけてホームへ飛び出されても危ないと考え聞けなかった。


 では、お約束をやってみる。ポケットから出した携帯は通じず、カメラのシャッターも降りないか、撮影された画像は真っ黒なままだ。


 そこへホームへとある男が現れた。服装は違うが、今日も小奇麗なスーツを身にまとっている。


「やはり来ると思っていました」

「あっ、はい」


 しかし彼は、もう一人の男を見て怪訝な顔をする。


「御二人ですか……、すみません私はよっぽどの特徴がなければ、人を見分ける事が苦手なのです。ですので、このまま始めてしまいましょう。改札口を挟んで右と左のライト、それぞれの下に貴方がたの大切な人が居ます。彼女たちを背負ってここまで来てください。しかしここで注意点が3つ。今回は貴方の大切な方々は黄泉の国にから出る事はかないませんが……」


「こっ、ここは黄泉の国なのですか?」目の前の彼は、大変同様しているようだ。


 僕から見て、彼は老人にとって完全な招かざる客で、僕から見てただ時間を浪費するだけの人物。そんな彼は体を震わせ、老人に聞いている。


「知りません。半分そうであると言えますが、そうではないとも言えます」


 それだけ言うと老人はうーんと言って、僕ら二人を見た。


「あの……」


「これは失礼、時間を浪費してしまいました。1つ目、黄泉から出る事は出来ませんが、試練を潜り抜けて話すことが出来ます。逆に言うと試練を乗り越えないと話すことが出来ません。そして試練と言うのは世界共通の振り向かない事です。2つ目、この出来事は引き継がれます。つまりこれまで私の言った事と、これから行う事を時期が来たら行って貰いたいのです。具体的にはこうやるべきはわかりますが、それをどうやるかは貴方にお任せします」


 そう言って老人は僕の目を見た。だいたい僕が正解だろうと目星をつけたようだ。


「3つ目、これは申し訳ない事ですが、2人目は想定外です。死が絡む事です。何かしらの穢れの要素が混じってしまった可能性を強く感じます。つまり黄泉が貴方がたを引っ張り込もうとしているのかもしれません? 正確には私が選んだだろう者をですが……」


 彼は水のポットからコップに注いだはずなのに、コーヒーが出て来たくらいには困惑している。


「飯島です」僕はそう言った。実は全然飯島ではないが、下手に本名を言うのも良くないような気がした。


「あ……山田です」

「私は残った方にのみ名前を伝える事にします。車掌とでも呼んでください。では、向かって」


 そう言われ僕らはそこからはじけ飛ぶ様に、互いのライトの方へと走っていく。久しぶりの彼女は以前の美しいままであるが、少し心あらずのようである。けれど僕の手を取り、静かに涙していた。


 僕たちは静かに見つめ合い泣く。


「母さん、会いたかった! さぁ、行こう背中に」

 振り向くと、あの男が母親らしい女性と手を取り合っている。


 その時、智子の手が僕の両頬を触った。「智ちゃん?」聞いても答えはやはり答えは返ってこず、智子の手はそのままの状態であるようにと、少しながら力が加えられていた。


 僕が振り向いたばかりに、試練が始まってしまったようだ。


 彼女を背負い歩く、やはり全体的に冷たくはあるが違和感は感じない。


 しかし改札口前に来ると、山田はやはり怯えた目で「飯島さんあんた、なんてものを背負っているんだ」と僕に言い放す。


 彼の母は、背中で顔をうずめている。もしかして小刻みに震えているのかもしれない。しかし彼の母はどう見ても人間で、不安だけが胸につのっていく。僕には失敗のリスクは、やるだけやった結果から来ている。まあ、そういう事もある。


 しかし倫理的に、怪物を世に放ってしまったら申し訳ないので、その時は頑張るくらいしかない。


「山田さん、相手を無暗に不安にさせる言動は控えてください」と少し車掌さんは厳しく言うが、そんな車掌さんとも、もう彼は話そうとしなくなってしまった。


「では、きさらぎ駅のように地元の町まで戻るのが良いようです。しかし黄泉の物は、町の明かりに触れる事は出来ません。その前で彼女たちとはお別れとなります。たぶん時間は瞬く間に過ぎてしまう。それを心に刻みこの道をまっすぐ進むといいでしょう」


 そういうと彼は少し眉間に皺を寄せる。


「すみません、少し言葉を訂正します。もう一人の人物が素直に貴方を帰せばですが……十分に注意してください」


 彼は責任者らしく振る舞うが、こっちは久しぶりの逢瀬だ。気が緩むが、彼女だけでも死ぬ気で逃がさなければ、死ぬほど痛いのは一回で十分なはずだ。


「あのこの紙袋を彼女に手渡して貰っていいですか? そして良かったら肉まんですが、御1つどうぞ。でも、ヨモツヘグリになってしまうかな?」


「私は寿命も近いので頂きますが、いろいろな条件がありそうですからね。 黄泉ヘグリにはあたいしないとは思いますが、私も所詮人間ですし」


「しかし彼女と黄泉に渡るなら、本望かもしれません」そういうと彼女が僕の頬を軽くつねる。


「駄目なようですね」

「そうみたいですね。世の中ままなりません」


「ですが、ふたたび出会えた。頑張ってお帰りなさい」

「そうですね。このたびはありがとうございました」


 そして僕たちは別れた。無人駅に切符と寝袋を置いていくことなったが、それはどこへ行くのだろう? そんな事を考えながら、彼女を背負い暗がりの中を行く。


 しばらくすると、先ほどの母親が月明かりの下に一人たたずんでいた。彼女が振り向く寸前で、彼女が僕の目を隠す。彼女が何を隠したかったのかわからないまま進むと、遠くから声がする。そしてビシャシャと不快な足音までも……。


「待ってください。待ってまぁてええぇ…………おねがぁ……ぃぃぃ……」


 明らかに様子がおかしい。山田さんであるだろうが、その確証が持てない。


 その時、ガサゴソと紙袋を漁る音がして、彼女の体が僕から離れる」


「智ちゃん! 危ない! ちゃんと掴まっているんだ!?」僕がそう言うと同時くらいに「アハハハハー……」地中の底から響くような声が聞こえた。


 それでも振り返る事はできない。しかし街の明かりが見えて来た頃、彼女の僕の首にまわった手の、温かさが伝わって来た。彼女は僕の首に顔をうずめる、温かい吐息、彼女の肌のぬくもり、そして髪の柔らかさ。


 どれももう望んでも得られないと思っていたのに、今は僕のそばで、仮初であるが大切な生を受けている。しかしもうしばらくすれば、空は白みはじめて朝を迎えてしまうだろう。


        続く

見ていただきありがとうございます!


またどこかで。

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