第四十八話「霧から氷へ」
本隊と合流したレイラは、着実に戦線を押し上げていた。
霧が消えたことで、視界は一気に開け、小型ギガスを含む帝国の混成部隊に対しても優勢を保っている。
レイディルは操縦席越しに、その様子を少しの間眺め、そして深呼吸をする。
(向こうは大丈夫そうだ……でも、さすがにちょっと疲れたな)
とはいえ、いつまでも休憩をしている時間はない。
レイディルはレイラ大隊から、その逆のルートを進軍するエリオス大隊へと視線を移す。
大隊長のエリオスの指揮は、終始そつがなかった。
敵の配置を見誤らず、無理をせず、しかし躊躇もしない。
レイディルたちが霧への対処に当たっていた間も、前線は止まっていない。
小型ギガスを確実に排除し、戦線を維持したまま、部隊は前へと進んでいた。
しかし、このまま進めば……
レイディルは、視線の先にある山道の途中を思い浮かべる。
エリオス大隊の通る道の先には、山頂砦よりも手前に、巨大な山門が待ち構えている。
そこで、進軍は必ず止まるだろう。
解析魔術によって把握した情報が、脳裏に浮かぶ。
山門周辺に集結しているのは、大多数の中型ギガス。
これを討伐するのはレイディルの役目だ。
そして──
「……さらに、魔術師か」
呟きと同時に、嫌な記憶が蘇る。
トレルム前の森での戦い。
動きを奪い、判断を鈍らせた、あの凍結魔術。
霧は裂いた。
だが、次に立ちはだかるのは、もっと分かりやすく、もっと厄介なレイディルにとっての“壁”だ。
「帝国もそれなりの対策をしてきてるだろうな」
レイディルはそう呟き、山門に向かうべくヴァルストルムを跳躍させた。
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山道を跳躍し、いくつかの尾根を越えた先で、ヴァルストルムはエリオス大隊より先に、目的地の目前へとたどり着いた。
岩肌を削って築かれた、巨大な石造の山門。
山そのものを削り出したかのような重厚な構え、そしてそこに設けられた頑丈そうな鋼鉄の門。
それらが威圧感を放ちながら、進軍路を完全に塞いでいる。
砦よりも手前に設けられた、帝国側の防衛線。
山頂砦へ至るための、最初の関門に過ぎない。
レイディルは操縦席の中から、その門をじっと見据えた。
(……ここか)
解析で何度も確認した場所。
中型ギガスが集結し、魔術師が控えているとされる地点。
だが、思っていたよりも、あたりは静かだった。
風の音すら、ほとんど聞こえない。
それが、最初の違和感だった。
次に覚えた違和感は、ヴァルストルムの足元だった。
山道の脇に生える雑草に、薄く霜が降りている。
「……霜?」
まだ日は高い。
この高度で、自然に霜が降りるはずがない。
さらに言えば、リオ山道は海から流れてくる暖かい風のお陰で、比較的温暖な気候だ。
さらに数歩、慎重にヴァルストルムを進める。
機体の足裏から伝わる感触が、わずかに変わった。
乾いた土ではない。硬い感触。
違和感は、次第に形を持ち始め──やがて、確信へと変わる。
前方を注視すると、岩壁も、森も、そして──道ですらも……
すべてが、凍てついた氷に覆われていた。
「霧の次は氷か……嫌な手ばかり考えるな」
レイディルはそう言葉を漏らした。
氷の魔術による山道の凍結。
普通なら必要のない氷結用の装備をアルバンシアが用意しているはずはないだろう。
帝国が築いた門までは、まだ二キロほどある。
無理に進軍すれば、機体だけでなく、生身の兵士たちも確実に足を取られる。
上り坂の凍結路では、隊列そのものが崩れかねない。
溶かして進もうものならば資材であれ魔力であれ、消耗を強いられる。
「どうやら帝国は徹底的に消耗作戦に出る気か」
アルバンシアの目的は、山道より先のエルバルト港の奪還。
つまりはそこが本番。帝国は山道を“守る”のではなく、利用し消耗させる場として選んだというわけだ。
レイディルは前方を見渡し、思考を重ねた。
(森も岩壁も凍らせているのは、横道対策か……かなりの範囲だな)
レイディルは魔術のことは詳しくない。
余程の腕の術者がいるのか、それとも魔術師の数が多いのか……そこまでは読み切れなかった。
(アリシアが見たら看破してくれそうだな)
などと余計なことを考えつつ、自分に余裕を持たせてみる。
「さて、エリオスさんの部隊が到着するまでに何とかしないとな」
魔術師の数は不明。
だがレイディルにとってそのことは、なんら不利になりえなかった。
解析魔術の魔力が、静かに解き放たれる。
余分な情報を削ぎ落とし、知りたい情報だけに絞る。
脳裏に流れる周辺の状況。人数。ギガスの有無。
──門前方、放射状に約一キロ八百メートルの範囲が凍結。
凍結した森に伏兵は存在せず。
中型ギガス、門より前に六。小型十八──
「あとは……」
──門の前と上、そして裏、人間の数、合わせて約二百──
レイディルの想定よりも、いや戦場の定石よりも人間の数が少なかった。
「おそらく、前線をギガスに任せ、魔術師による後方からの攻撃か」
ある程度の消耗を押し付けられれば、門は破られても構わない。──そういう算段なのだろう。
「よし」
悠長に状況を観察し続けるわけにもいかない。
レイディルは意を決して氷の領域へ足を踏み入れた。
機体の足裏が、きしりと乾いた音を立てる。
土でも岩でもない、異様に滑らかな感触が伝わってきた。
だが、ヴァルストルムの制御は失われない。
高度な技術で作られたであろうこの機体は、氷の上でもバランスを崩さなかった。
しかし、戦闘機動となるとどうか。
レイディルの中に、大丈夫だという確信はなかった。
山門まで、残りおよそ八百メートル。
この距離なら、互いの存在を視認できる。
単眼鏡越しにヴァルストルムの影を捉えるには、十分すぎる距離だ。
(……ここから、か)
ヴァルストルムは、氷に覆われた坂道を慎重に進んでいた。
そのときだった。
前方、白く曇った斜面の上方から──ごろり、と、低く重い音を立てて、何かが転がり出てくる。
「……マジかよ」
それは、ただの落石ではなかった。
直径、およそ八メートル。
ヴァルストルムの胴体の半分ほどもある、巨大な氷塊。
ご丁寧にもその表面にはいくつもの棘が備わっていた。
それが斜面を滑り、回転しながら、勢いを増して迫ってくる。
この坂、この凍結、この質量──ぶつかれば、機体といえど無事では済まない。
「──ッ!」
レイディルは迷わず、操縦桿を引き、左腕を振り抜く。
ヴァルストルムの手に握られた斧が、氷塊へと叩き込まれた。
ギィンという、高く乾いた衝撃音。
次の瞬間、巨大な氷は粉砕され、白い破片となって斜面へと散乱する。
だが、それと、ほとんど同時だった。
砕けた氷の向こう側から、重い足音が響く。
氷霧の中を割って現れたのは、中型ギガス。
いや、一体ではない。
二体、三体──
勢いよく駆け下りてくるその足裏には、鋭い突起が並んでいた。
氷を噛み、滑ることなく、斜面を踏みしめている。
「……なるほど」
レイディルは、わずかに口元を歪めた。
「氷対策、か。──そりゃ、そうか」
帝国は、ただ凍らせただけでは終わらせていなかった。
最初の一体が、斜面を蹴って踏み込んでくる。
「……!」
中型ギガスの氷を噛む突起の足が、滑る気配すら見せず、一直線に距離を詰めてきた。
振り下ろされる斧を、レイディルはヴァルストルムの右足を半歩下げ、身を捻ってかわす。
が、右足が接地する瞬間、わずかに足裏が外側へと余分に逃げた。
「うっ……!?」
ほんの数センチ。
だが、それだけで、重心は大きく崩れる。
その隙を、逃す相手ではなかった。
すぐ背後から、二体目が踏み込んでくる。
「くそっ!」
レイディルは咄嗟に盾を構え、斜め上から振り下ろされる槌の一撃を受け流した。
金属同士がぶつかる、鈍い衝撃音。
だが、逸らしたはずの衝撃は、想像以上に重かった。
盾越しに伝わる力に、機体が耐えきれず──ヴァルストルムの巨体が、大きくよろめき、氷の斜面に叩きつけられる。
「ぐあっ……!」
衝撃は操縦席にまで伝わり、視界が一瞬、揺れる。
すぐに体勢を立て直そうとするが、足裏が、思うように噛まない。
(思った以上に……厄介だな、これは!)
凍結した地面を砕きながら、槍を突き立て、なんとか立ち上がる。
次いで迫り来るギガスに一撃を加えた。
しかし、上手く重心の乗らない攻撃はギガスを後ろに押す程度に留めた。
なんとか対抗手段を模索する。
(出力を上げて、力で押し切るか……?)
一瞬、そう考える。
だが、氷上では踏み込みが甘くなる。
この状態で無理に力を出せば、今度こそ完全に足を取られる。
(跳ぶのもダメだ。着地が制御できない)
空中では回避できても、降りた瞬間が致命的になる。
レイディルは、短く舌打ちした。
「……違う」
今必要なのは、機動じゃない。
まず──足元だ。
(いや、待て。足元、か……?)
迫り来る三体のギガスを槍で牽制しながら、レイディルは、相手の足元に視線を走らせた。
氷を噛む、鋭い突起。
滑らぬように設計された、あの足裏。
(……そういえば)
ふと、ひとつの記憶が、脳裏をよぎる。
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カーネスで、彼女が不思議そうに尋ねてきたときのこと。
「この……踵にあるものは、武器か何かですか?」
踵と足裏を指差していた、あの仕草。
「それは確か……ラディアント・ブラスターを撃つ時の、固定用のスパイクだったかな?」
凄まじい反動を受け止め、機体を地面に縫い止めるための装備。
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そう──武器じゃない。
だが、今、この状況では……
「……なるほどな」
レイディルは、口の端を、わずかに吊り上げた。
「使いどころ、今だったか」
レイディルは足元のペダルの脇にある補助制御ペダルを、強く踏み込む。
瞬間。
ヴァルストルムの踵部から、鈍い金属音とともに、鋭い杭状のスパイクがせり出した。
次の踏み込み。
ガリ、と、嫌な音を立てて、鋼鉄の爪が氷を穿つ。
逃げかけていた足裏が、今度は、確かに斜面を噛んだ。
「よし!」
体勢が、一気に安定する。
重心が戻り、視界が正面に収束する。
ちょうどその瞬間、最初のギガスが、再び斧を振り上げていた。
今度は、滑らない。
ヴァルストルムは、氷を砕きながら、真正面から踏み込んだ。
一閃。
ヴァルストルムの体重を乗せた槍の一突きが、ギガスの胴を穿ち抜いた。
「滑らなきゃ、普通の地面と一緒だ」
レイディルは残った中型ギガス二体を瞬く間に制圧し、門への距離を縮めた。
間髪入れず更に迫り来る二体の中型ギガスとその後方に十八体の小型ギガス。
中型は斧を、小型は大砲を装備している。
門まで残り五百メートル。
機械の巨人目掛け、中型ギガスを避けるように大砲の弾が飛来する。
ヴァルストルムは慎重に軌道を選びながら躱す。
しかし、その大砲の弾の影から、氷の礫が弾き出されるように現れた。
中型ギガスを防衛ラインに立て、大砲と凍結魔術の嵐だ。
レイディルは堪らず、射線を切るため後方へと跳んだ。
中型ギガスが追撃してくる気配はない。
おそらく、一定の距離まで近づいた相手のみを迎撃するよう、操られているのだろう。
踏み込めば、中型を相手にしながら、門に陣取る魔術師と小型ギガスによる一斉射撃を受ける。
その配置の厄介さに、レイディルは思わず舌を巻いた。
しかし、あるひらめきが彼の頭に過ぎった。
レイディルはひらめきを確かめるため、ヴァルストルムを再び前へと出す。
即座に、大砲の豪放。
小型ギガスの砲口が火を噴き、砲弾が一直線に飛来する。
ヴァルストルムは一歩、前へ踏み込んだ。
砲弾はその直前を通過し、背後で氷を爆ぜさせる。
(来る!)
次の瞬間、氷の礫が降り注ぐ。
白い軌跡が空を裂き、機体を狙って迫る。
一度、大きくバックステップ。
間を置かず、跳躍するかのように、またもや前進する。
砲撃は、来ない。
大砲に弾を込めるためのインターバル。
確信と同時に、ヴァルストルムは斜面を蹴り、踏み込んだ。
中型ギガスへと、槍を叩きつける。
右半身を砕かれ、ギガスはその場に崩れ落ちる。
一体を屠ると、防衛線が目に見えて歪んだ。
その瞬間、後方から飛んでくるのは──凍結魔術だけ。
飛来する氷は、どれも鋭いが、威力はない。
おそらくは威力を削り、凍結そのものに絞った構成。
実行言語を切り詰め、変更し、成立速度と凍結を優先した術だ。
──アリーシアスが、いや。魔術師が状況次第で使う手法。
だが、この間隔と速度で撃ち続けている。
(……敵にも、いい腕の魔術師が揃ってるってことか)
レイディルは素直に関心を示した。
瞬く間にヴァルストルムへと迫る氷礫。
機体に受けるか。
盾で受けるか。
否。
(当たるなら……道具だ)
ヴァルストルムは、取り出した斧を左手に持ち前に突き出した。
礫が、斧を直撃する。
白い霜が一気に広がり、刃を覆い尽くした。
ずしり、と重量が増す感触が、操縦桿ごしに伝わった気がした。
次の瞬間。
凍り付いた斧を振り抜き、ヴァルストルムはもう一体の中型ギガスへと叩き込んだ。
氷と岩殻がぶつかり合い、鈍い破壊音が戦場に響き渡った。
崩れ落ちるギガス。衝撃で、斧に纏わりついていた氷塊が弾け飛ぶ。
氷の破片がキラキラと光を反射させ砕け散った。
ギガスが倒れようとも、魔術の嵐は止まない。
間髪入れずヴァルストルム目掛けて飛ぶ凍結魔術。
一瞬、レイディルの脳裏を過るのは、かつてのレイラとの特訓。
彼女の剣に比べれば、凍結魔術も目で追える速度。
さらに、単純な直線軌道だ。
ならば、今の自分なら対処できる。
レイディルはギガスを潰した斧で、直撃しそうな氷の魔術だけを叩き落とした。
そしてそのままさらに前進し、弾を込めている小型へと肉薄する。
ヴァルストルムが接敵する直前、小型ギガスの砲身に弾が込め終わる。だが撃つには、遅すぎた。
右手に構えた槍が、横薙ぎに振るわれる。
数体の小型ギガスの胴が砕け、砲身ごと吹き飛ばされる。
以降、砲撃が飛ぶことはなかった。
ヴァルストルムが距離を詰めるたび、小型ギガスは槍と斧の間合いに沈み、
砲身を向ける暇すら与えられず、次々と斜面に倒れていった。
氷の道に転がる残骸は、十八。
門まで三百メートル。
立ちはだかる中型は、あと一体だけだ。
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レイディルが奮闘している頃、二号車の中は不思議なほど静かだった。
アリーシアスは、その最後尾に腰掛けるジルベルトをじっと見つめている。
「ん、なになに? あたしの顔になんかついてる?」
「いえ。ジルベルトさんが前線に出ないのが、少し意外で」
「あたしが? 働き者だと思われてた?」
へらりと笑うジルベルトに、アリーシアスは首を振った。
「ジルベルトさんほどの人が、です」
「そうね」
その言葉を、静かに引き取ったのはシエナ姫だった。姫は後ろに軽く振り向き続ける。
「彼女は、こちらにとって切り札ですもの」
アリーシアスが前方席の姫へと視線を向けると、姫は穏やかな表情のまま続ける。
「この山道は前哨戦。消耗する場所ではないわ。強力な魔術師ほど、必要な時まで温存すべき……それが、私の提案」
「で、それを将軍が了承した、ってわけ」
ジルベルトは肩をすくめる。
「でも最終的に決めたのは、あたし自身よ。出ないって」
軽い調子だが、その言葉には一切の迷いがなかった。
「でも、ジルベルトさんはよく働いてくれているわ。
これまでの実績を考えれば、好きに動くことを誰も咎められないもの」
と、シエナ姫。
アリーシアスはうんうんと頷き同意する。
ジルベルトに憧れるアリーシアスが知り得るだけでも数多の実績があった。
「お国の一大事ですからね~。
さすがに逃げるほど薄情じゃないわよ」
当の本人はなおも軽く言ってのける。
「っつーかさ、ディル坊もあたしくらい気楽に生きりゃいいのよ。
あいつ、全部背負い込むでしょ?
ああいうの、損するタイプなのよね~」
「それには激しく同意します……」
アリーシアスは目を伏せ、なにか思い出しながら首を縦にふった。
「あら、それでも操縦士さん、頑張ってるわよ
前だってちゃんと断ったし」
シエナ姫がそっとフォローを促した。
「あれでようやくスタートラインってトコかしらね~」
ジルベルトは背もたれに身体を預け、車内の天井を見上げた。
「……お嬢様」
「は、はい!」
唐突に声をかけられたアリーシアスの声が上擦る。
「アイツのお守りお願いね~」
「は、はぁ……」
何を言われるのかと思えば、お守り。
「もう既に十分やっていま……あっ……」
言いかけて止める。
言わなくていいことを口走ってしまった。
「いや~、お嬢様は言いたいこと言っちゃうタイプねぇ。ディル坊に爪の垢飲ませたいわ」
ジルベルトにそう言われ、恥ずかしさのあまりアリーシアスは小さく縮こまってしまった。
「さて、話は戻るけれど帝国は消耗作戦をけしかけてきたわ。ジルベルトさんを温存して正解ね」
姫の穏やかな声、しかしその言語選択にやや棘が含まれていた。
「ここで無理に出て、後で必要な時に動けなくなる方が、よっぽど困るでしょ?」
アリーシアスは一瞬、言葉を探し、そして、小さく頷いた。
「……港、ですね」
「そ。そこで呼ばれたら、その時はちゃんとお仕事するわ」
ジルベルトはそう言って、背もたれに体を預ける。
「それまでは、のんびり待機」
その余裕のある態度に、アリーシアスは再び窓の外へと視線を移した。
すると、運転席から声がした。
ウェリティアが窓を開け、何やら報告を受け取っているようだ。
「あー……そこのお三人。盛り上がってるところ悪いんだけどさ。
こっちの道に門、設置されてるって報告きたよ。
このまま進むと、カチ合いそう」
ウェリティアが目を細め、遥か前方を見つめる。未だ門は視認できないが、この山道に進軍を阻む構造物が築かれているらしい。
「……なるほど」
シエナ姫は短くそう答え、すぐに思考を切り替える。
「こちらを止めに来た、ということね。
門があるということは、罠も妨害も然るべき、ですもの」
シエナ姫は短くそう言ってから、後ろの座席へと視線を向けた。
「こうなると、あちらにも門はありそうですね」
顎に手を添えながら視線を横に向け考え込むアリーシアス。
(罠、妨害……消耗は避けられませんね……果たしてあの人は持つのやら……)
アリーシアスの思考は、自然と前方へと向いた。今もなお、どこかの山道で最前線に立っているであろう操縦士のことを、気にかける。
「ディル坊が行ったし、まぁ何とかするんじゃない? んー……問題はこっちかしらね」
ジルベルトは飴の棒を口で揺らして言葉を続ける。
「さてさて……どうするかな」
ジルベルトの呟きに、誰も言葉を発しなかった。
前方では、レイラ大隊が帝国部隊を退けながら進軍を続けている。
二台の機動車もまた、その背を追うように、静かに走っていた。




