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第三十五話「沈黙の金属、揺れる知恵」

 倉庫の片隅に、長いあいだひっそりと眠っていた金属。


 その金属塊(アラゴニウム)は、扱いにくさゆえに誰からも見向きもされず、埃を被っていた。


 クラウス博士が木箱の蓋を開け、ひとつのインゴットを取り出そうとする。

 レンガの半分ほどの大きさ──それでも、指先が触れた瞬間、博士の手が止まった。


 その顔は真剣な表情に変わり、そっと手を離す。



「あら、どうかしました?」


 背後から覗き込んだマリーが問いかける。


「……いや、これは……」


 博士の声には、戸惑いと驚きが混じっていた。


「これは……?」


 ただならぬ空気を感じ、レイディルとアリーシアスがごくりと唾を飲む。


「これは……重い……」


「……重いって……え、それだけですか?」


 思わずツッコむレイディルに、博士が半ば本気の調子で答えた。



「いや、ほんとに。信じられないくらい重いよ!」


「まぁ、それひとつで──およそ二十五キロってとこですかね」


 傍らの職人が、律儀に補足した。



「こりゃ扱いにくいわけだね。

これだけ重いと精密な機械には向かないだろう……」


「そうですか……硬いといえばアラゴニウム、と思ったんですけど……」


「うーん……諦めるしかないですかね?」


 博士の言葉にマリーが肩を落とし、レイディルが顎に手を当て考え込む。



「ヴァルストルム君のパワーなら、部品が重くても多少は問題ないとは思う。

念の為、交換する必要が出た場合使うのは最小限に、機体左右どちらも交換しバランスを取る形にしよう」


「それはいいとしても、どう加工するつもりで?」


 重さはひとまず置いておいて、問題は精度だ。

 並の加工機械では歯が立たない。

 職人の言葉に博士が腕を組み唸る。


「そうだねぇ……」


 博士はインゴットを見つめたまま、眉間に皺を寄せた。

 思考が回っている音が聞こえてきそうだった。



「溶断、鍛造、研削、鋳造……切削……残念ながらそれらを可能にする機械はない……」



 博士の声には、疲労と諦めが滲んでいた。

 倉庫に沈黙が落ちる。


 レイディルも職人も、思案の末に黙り込む。

 重くのしかかる静寂の中──



「……魔術じゃ、だめなんですか?」


 ぽつりと、アリーシアスが呟いた。


 全員の視線が彼女に向く。


「たとえば、金属を溶かす炎とか……切る風とか……そういうものを、うまく制御できれば」


 その言葉に、クラウス博士の目がかっと見開かれる。


「……なるほど! 原理は同じだ!

 温度も圧力も、人為的に再現できるなら、魔術で補っても理論上は──いや、ここは細かい調整が必要だ。出力の加減がしやすい方がいい……」


 博士は興奮気味にまくしたてながら、考えを巡らせる。


 アリーシアスは少し考え、静かに続けた。


「でしたら、水圧はどうでしょう?

 炎や風よりも安定していて、出力の調整も細かくできます。

それに水魔術でしたら比較的扱い易いかと」


 博士がぴたりと動きを止めた。


「……水、か。なるほど……確かに火では加減を誤れば素材を壊してしまうし、風は範囲制御が難しい……だが、水なら冷却も兼ねられる。

それなら温度上昇も抑えられるし、圧力も制御しやすい」


 彼は嬉しそうに頷き、眼鏡を押し上げる。


「水圧による魔術切削、つまりウォーターカッターか……いいね!」


 博士の声が一段高くなる。

 アリーシアスは小さく笑った。


「結果に到達できるなら機械でも魔術でも同じことですしね」



 博士は感心したように頷きながらも、すぐに難しい顔へと戻る。


「ただ、まだ足りないな……この金属はとても硬い……」


 もうひとひねり何か欲しいところ、と博士は言う。

 倉庫の中に、再び思案の沈黙が落ちた。

 そして数秒後、博士が顔を上げる。


「水の魔術使用時に研磨剤を混ぜ、噴射してみたらどうかな」


 博士の提案に、レイディルが首を傾げる。


「研磨剤って……砂ですか?」


「いや、砂では粒が柔らかすぎるね。もっと硬度の高い鉱石粉末──そうだな、ガーネットがいい」


「ガーネット……宝石の?」


 レイディルが驚いたように目を瞬かせる。



「うん。粒が均一で硬度も高い。水の魔術に混ぜれば、強力な切削力を得られるはずだ」


 博士の声に熱が帯びていく。


「魔術による水圧縮噴射、それにガーネット粉末……これならアラゴニウムでも削れるかもしれない!」


「宝石を使うのはなんだか勿体ないですねぇ」


 マリーはキラキラする宝石を砕いて粉末にする光景を思い浮かべて言った。



「いやいや、加工に使うのは宝石として価値のない欠片を砕いたものだよ。

見た目は悪くても、硬さは本物さ」


 博士はにやりと笑い、再びアラゴニウムのインゴットを見下ろした。

 その瞳に、探求者の光が宿る。



「面白いアイデアだな、クラウス博士。

だけどよ、俺も工房の連中もそこまで魔術には精通してないぜ?」


 職人が懸念を口にする。

 現実的な問題が、場の熱気をほんの少しだけ冷ました。


「そうですね、この場合だと……衛兵さんの力を借りましょう。

加えてわたしがみなさんに魔術指導をします」


 アリーシアスが一歩前に出て言う。

 その口調は落ち着いていたが、瞳はどこか誇らしげだった。



「よし、それなら他の連中にも声をかけておくか。

ここにあるアラゴニウムも運び出さなきゃな。

ちょっくら準備してくるわ!」


 壮年の職人が腕をまくり一足先に倉庫を後にした。


 目下のところ目標への道筋は見えた。

 あとは準備に取り掛かり実行するだけだ。



「これで、強度は問題ないだろうね。

精度は職人がなんとかしてくれるだろう」


 博士はまず問題のひとつは片付いた、と言った。

 その視線を落とし、木箱の中を見る。


「あとは重さ……ね」


 マリーが声を漏らす。


「機体に比べれば部品は小さいとはいえ、積み重なるとバランスも崩れるからねぇ……」


 バランスが崩れることによる弊害が出るかもしれない。

 出来ることなら重さも近づけたいところだ。

 一同は考え込むが、都合よく良いアイデアは出てこなかった。



「あー、こんな時ウェリィちゃんがいれば何か閃いてくれるんだろうけど……」


 博士の口調には、昔を懐かしむような柔らかい影が差す。

 思わず遠い目をし、倉庫の隅に積まれたアラゴニウムを眺めた。


「ウェリィ?」


 初めて聞く名に、レイディルがオウム返しをする。


「ああ──10年前に技術開発局に入り浸ってた()でね。名前はウェリティア・リンツェと言うんだ。」


 博士は続けた。

 その少女は三つ編みおさげを両肩から下げ、縁の太い眼鏡をかけた娘で、些細なことから閃きを得ることを得意としていたという。


 大人しい少女であったが、僅かな資料をもとに閃きと計算によって答えに辿り着く力は、誰にも真似出来なかった。


「彼女はね、何気ない独り言からでも答えを導くような子だったんだ。

まるで思いつきのように解いてしまうこともあってね」


 博士の声には自然と柔らかくなり、遠い記憶に浸るように視線を漂わせる。



「いや~、当時は何をやっても僕ら大人が驚かされっぱなしだった。

ああいう娘を天才って言うんだろうねぇ」


 少し間を置き、博士は口元に笑みを浮かべながら続ける。




「いまは留学中でね、本当ならそろそろアルバンシアに帰ってきてもいいはずなんだけど……」


 せっかくの才能だ、様々な場所で知識と知見を深めて貰いたいという思いから、他国への留学を勧めたのだ。

 博士自身、目の前で何度も驚かされたあの少女の閃きが、より広い世界で花開くことを期待していた。


 だが留学期間が終わっても未だ戻ってきてはいない。



 天才という言葉を聞き、レイディルがふと呟いた。


「天才……博士みたいなもんですかね?」


 レイディルの問いに、博士は肩をすくめ、静かに言った。


「天才っていうのは、人が気づかないことを独自に考えつく人のことさ。

僕の考えることなんて、いずれ他の誰かが気づくだけだよ」


「つまり、博士は『数歩先を行く人』ってやつですね」


 レイディルの言葉に、クラウス博士は一瞬きょとんとした顔を見せた。

 少し間を置き、肩を揺らして笑う。


「あはは、いいねそれ! 気に入ったよ!

天才扱いされるより僕にはずっとピッタリだ!」


 倉庫には博士の笑い声が木霊した。

 ひとしきり笑ったあと、溢れた涙を指先で拭い、気を取り直す。


「さてさて、呼び名はともかく、素材の重さは今はどうしようもない。

しばらくは、できることから始めていこう。

とりあえずは──アリーシアス君の言う通り、魔術の扱いに慣れた人手が必要だね。

この街の衛兵騎士長に相談してみようか」


 そう締めくくると、四人は倉庫を後にして大工房の出口へ向かった。



「おっと、その前にヴァルストルム君の様子を見ておきたいな」


 博士はそう言うなり、くるりと回れ右をして歩き出した。


 レイディルとアリーシアスは苦笑しつつ、その背を追う。


「はいはい、職人のみんな、ごめんね、通してね~」


 博士はヴァルストルムの前にできた人だかりを、遠慮なくかき分けて進む。

 そうして機体の目前に立つと、各関節をじっくりと見回した。



「今のところは……問題なし、かな」


 ひとしきりのチェックを終えると、博士は安堵したように息を漏らした。



「いやはや、しかし……あー……しかし、僕も大したもんだね」


 一瞬、何かを言いかけたようだったが、すぐに誤魔化すように続けた。


「確かに大した発明だ。あのギガスが相手にならないときたもんだ」


 その場にいた職人の一人が、感嘆混じりに声を上げる。


「そうでしょう、そうでしょうとも……」


 博士は自慢げに胸を張るが、その姿勢にはどこかぎこちなさがあった。



「──とりあえず、職人のみんな。

これから少しこの機体のことで、操縦者の彼と話し合いたいんだ。

機密事項だから、悪いけど解散してもらえるかな」


 そう言うと、集まっていた職人たちは残念そうにしながらも、素直に引き上げていった。


 人気(ひとけ)がすっかり引いたのを確認し、クラウス博士は腕で額の汗を拭った。


「危ないところだった。

うっかり『大した技術だ』って、他人事みたいに言うところだったよ」


「ふふ、間一髪でしたね」


 マリーが軽く微笑む。


「アルバンシアで開発したことになってますからね」


 レイディルの言葉に、博士は苦笑を浮かべる。



「なんとか誤魔化せたかな?」


「……まあまあの演技だったんじゃないですかね」


 ともすれば皮肉にも聞こえるような言葉を、アリーシアスは淡々と放った。



「アリーシアス君、なんとなく今日、僕に当たり強くない?」


「気のせいですよ」


「そうかなぁ」


 もしかしたらヴァルストルムでの移動を根に持たれてるのかもしれない──博士の頭をそんな考えがかすめたが、すぐに忘れることにした。



 そうして博士は改めてヴァルストルムを見上げる。


「僕も解析魔術(アナライズ)使えればいいんだけどねぇ……」


 クラウス博士はしみじみと言葉を吐き出した。


「昔習ったけど、残念ながらその才能は僕にはなかったんだよね」


「性格的に向いてそうなのに……」


 レイディルがぼそりと漏らす。


「魔術の才覚は、性格に左右されるものではありませんよ」


 アリーシアスがさらりと補足する。


「おお、手厳しいなぁ……」


 博士は苦笑しながら頭をかいた。


「本当、才能依存の魔術って……」


 なにか思うところがあるのか、マリーの口から滑り出た言葉には、どこか影が差していた。



 その空気を切るように、レイディルが思い出したように声を上げた。



「──あ、解析で思い出した……! そういえば博士に動力炉の解析結果、伝え忘れてました」


「もしかして、駐屯地でムチャな解析してたあのときの?」


 アリーシアスが思い当たる節を突く。


「あの鼻血の時の……」


 マリーもすぐに思い当たったらしい。

 レイディルはバツの悪そうに頬を掻きながら、こくりと頷いた。



「……解析したあとも、タイミング逃して言いそびれたしな」


 そして、動力炉──『サイリンク・リアクター』について、今わかっている情報を三人に伝えた。



――――




「んんん? もう一度言ってくれるかな……?」


「いま、どえらいこと聞いた気がしますけど……」


 クラウス博士とアリーシアスが、揃って固まった。

 レイディルは首を傾げながら、もう一度説明を繰り返す。


「えっとですね、『サイリンク・リアクター』は精神力を増幅し、機体を動かす動力炉です。

機動馬車が魔力で動くようなもんだと思います」


 淡々と説明をこなすレイディルとは対照的に、二人の額にはじっとりと冷や汗が浮かぶ。


博士は息を呑み、額を押さえた。


「いやいや……いや、ちょっと待ってくれ……せ、精神力がなんだって?」


 いつもは軽快な口調の博士の声色が焦りを帯びる。


「精神力は魔力と同等の性質を持つんですよね? つまり魔力駆動ってことじゃないですか?」


 珍しく取り乱した博士に、レイディルは不思議そうな顔をする。



「いえ、あの……精神力はいいんです」


 アリーシアスが真剣な表情で口を開く。


「その前の……えぇっと……その単語が問題なんです……」


 珍しく言葉を詰まらせながら続ける。 



「──単刀直入に言います。『増幅』これが、とんでもないことなんです」


 その声は、かすかに震えていた。

 博士はアリーシアスと視線を交わす。

 互いに同じ結論へとたどり着いたのだ。

 レイディルは未だ『?』を浮かべた表情をしている。



「いいですか? この世界には──魔力を『増幅』する(すべ)は存在しません。

たしかに、精神力と魔力は性質こそ同じです。

だとすればヴァルストルムさんの動力炉は、この世界で誰も成しえなかったことを実現しているんです」


「そう、数百年前から研究は山ほど行われてきた。

結果として杖による術の『射程延長』こそ生まれたけど……でも肝心の『増幅』は誰も成功していないんだ」


 クラウス博士の声には、畏怖と興奮が入り混じっていた。



「えーと、つまり……」


 レイディルが戸惑いながらも言葉を発するが、それを遮りアリーシアスが言う。


「つまり、この技術が世界に広まれば、魔術界のバランスが覆ります……最小の力でも、魔力が少ないものでも威力の高い魔術を行使できる可能性があるということです。

もっともその増幅度合いによりますが……」


 アリーシアスの言葉に、博士はわずかに表情を曇らせて言葉を継ぐ。



「その先に待っているのはこの技術の競争だろう。如何に効率よく強力に増幅させられるかの技術合戦だ」


 博士はずり落ちてきたメガネを人差し指で持ち上げ続ける。



「恐ろしいのはこの技術が帝国に知られることだ。

そうすればより強力なギガスが生まれる可能性がある。

例えば……一魔術師が大型ギガスを生み出せるようになる、とかね」


「そうですね……どれだけ人の防御魔術が強くなろうとも人体そのものの防御力は据え置き。

大軍と化した大型ギガスを止めるのは困難でしょう。

この技術は……人を守るより、壊すために使われやすいということです」



 二人のやり取りを聞きながら、レイディルは背筋に冷たいものが走るのを感じた。

 言葉の端々から伝わるのは、ただの技術論ではない。

 この世界の均衡そのものが揺らぐかもしれない、という現実だった。



「便利さが華やかな未来ばかりを連れてくるとは限らないってことさ……もっともどういう原理で増幅しているかは、わからないから今の段階でどうこう言う話でもないけどね……」


 今まで瞳を閉じて黙していたマリーが、ゆっくりと目を開けた。

 そのまま、落ち着いた声で言う。


「でも、これは重大な技術ね。

出来ればこの情報は、わたしたち四人だけに留めておきたいわ」


 その声音には、慎重さが滲んでいた。


 博士とアリーシアスは軽く頷いた。



 レイディルは三人の様子を見ながら、ようやく事の大きさを理解した。

 自分が乗っているものは、世界の常識を覆しかねないものを内包しているのだ。

 彼は改めてヴァルストルムの強大さを思い知った。

 その力は、この世界の人間が扱うには、あまりに大きすぎるのかもしれない──そう思わずにはいられなかった。



 そう思いながらもレイディルは考えを整理し、話題を元に戻すことにした。



「えぇっと、それでですね──」


 レイディルは動力炉の話に戻り、自分が気になった点を三人に伝える。




「ふむ……これだけ高度な科学力にも関わらず、僕たちと同じ魔力駆動なのが気になると」


 『増幅』という凄い技術が入ってはいるが、根本は同じだろう。

 レイディルはそこがどうにも引っかかっていた。



「それだけ精神力や魔力というものが、汎用性が高いということでは?

突き詰めた先が似通うなんて、よくある話だと思います」



「うーん……アリシアの言いうこともわかるけど、それが正解って感じでもないんだよなあ」


 武器を搭載しているヴァルストルムは、おそらく兵器だ。

 その兵器が人の精神力や魔力という搭乗者の出力に左右されるものでいいのだろうか、と彼は問う。



「確かに誰が乗っても、誰が使っても同じ効果が出ることこそが道具には相応しい。

だけど現状なんとも言えないねぇ…… いずれにしろ、解析を進めれば答えは出るさ」


 一筋縄じゃいかないだろうけどね、と博士は付け加えた。



「じゃあ……博士がもし『搭乗型の機械』を作るとしたら、どうします?」


「うん、そうだね……僕なら……もしもの時に備えて『予備動力』を持たせるかな」


「予備動力……」


 博士の言葉にレイディルは呟き返した。



「そう、予備動力。

何があっても動くように備えをさ」


 博士はそう言いつつ、思い出したように続ける。



「そうだ! ちょうど機動馬車に、その予備動力を積み込む算段をしているんだった!」


 博士が手を打った、その瞬間だった。


 大工房の扉が重々しい音を立てて開き、いくつもの木箱を載せた馬車が中へ入ってくる。

 静まり返った工房に、車輪の軋む音だけが響いた。



「噂をすれば……博士の必要とした部品が届いたみたいですね」


 レイディルはタイミングの良さに小さく笑みを浮かべた。


 その視線の先、木箱を載せた馬車がゆっくりと停止する。



「資料に書いてあった部品集めてきました」


 御者台から女性の職人が降りる。



「残念ながら大型クリスタルムは見つかりませんでしたが……」


「ありがとう、いやいや、これで十分だよ。

クリスタルムの方はお偉いさんと相談して何とかするよ」


 博士は荷台に近づき、「よっこらせ」とひとつ木箱を下ろす。

 中には金属板や魔道管、大小さまざまな部品がぎっしりと詰め込まれていた。



「……これはまた、随分と部品多いですね。

これで何を?」


 アリーシアスの言葉に博士は目を輝かせながら告げる。



「ふふふ、機動馬車の大改造さ!」



 博士は意気揚々と荷台の部品を抱え上げ、声を弾ませた。


 数多の部品が、これから丹念に組み込まれ姿を変えていくのだろう。

 当の博士には、静かだが確かな熱気が満ちていた。

 その足取りは、軽やかで迷いがなかった。

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