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第二十四話「誰かが使って、誰かが直す」

 レイディルは小屋の片隅で腰を落とし削岩機をマジマジと見つめる。

 マイスを含む四人は、興味深そうに後ろから様子をうかがっていた。


「どうです? 直せそうですか?」


「うーん、かなり古い型だからなぁ……でも、一度解析(アナライズ)するしかないか……」


 アリーシアスの言葉にレイディルは答える。

 しかし、その反応は乗り気ではなかった。



「ほぉ、キミは解析魔術が使えるのか!」


 マイス老人は感心したように声を上げる。


「街にも何人かいたのぉ、どいつも変わり者じゃったが……」


 街の面々を思い出し大きな声で笑った。

 工房の街というからには、解析魔術は大いに役に立つのだろう。



「それで……ディル君、なんだか迷ってるみたいだけど……?」


 後ろに膝を支えに中腰で立つマリーの疑問に振り向かず答える。


「ああ──えぇっと、解析魔術使う時に魔力流しすぎると部品を痛める可能性が僅かにあるんですけど、それが古い機械だと調節がちょっとだけ難しくて……」


 二の足を踏んでいる、ということだ。



「そういえばそんな話を聞いたことがあるのう。

場合によっちゃバラして確認した方が良いと言っとった」


「そうなんですよね。

ただ設計図も無い状態で完全にバラすと、今度は組み立てが大変で……」


 マイスの言葉にレイディルは後頭部をかいた。



「どうせ壊れとるもんじゃ、気にせずパーッとやったらええ」


「そうね、いざとなったらツルハシで掘るって手もあるわ!」


 マリーの冗談かのような言動に一同笑うのだった。


「それじゃあやってみるか……!」


 レイディルは古びた道具に手を添え魔力を流す。






 レイディルは解析で得た情報を目を細めながら読み取っていた。



「……《レッドロック機工製 削岩機 RDK-1C ドレイク一型》

最も初期の試験型魔力駆動削岩機の改良機。

現行のクリスタルム対応型か……」



 レイディルは解析結果に、ふむと頷いた。



「魔力駆動と聞こえは良いが……いやぁ、魔力の消耗がひどくての。

三十分も使えばバテバテじゃったよ。

結局、五年もせんうちにクリスタルム対応型に改良されたわ」



 懐かしげに、マイスは昔語りを始める。



「あぁ、技術革新の狭間で生まれた一台、ってわけですね。なるほど」


「確かに古い機械じゃが、当時はこれでも画期的だったんじゃ。

それでも手よりは早かったもんで、交代しながら使っとったよ」



 機械談義に昔話、盛り上がりそうな空気が、ゆっくりと小屋の中に広がっていく。




 しかし──


「……で、結局どこが壊れてるんです?」


 アリーシアスが腰に手を当て、冷めた声で割って入った。

 半ば呆れた表情でジトっとした目でレイディルを射抜いている。

 感心してる場合じゃありませんよ、と言わんばかりだった。


「はっ……いや、悪い。つい興味が先に……」


「いやぁ、ははは、すまんのぉ」


 老人もバツが悪そうに頭をかく、レイディルも頬をかきながら姿勢を正し、再び削岩機へと向き直った。







「ふんふん……これは手持ちの部品でいけそうだな。ああ、ここは錆びてる……一度取り出して磨くか」


 今度はちゃんと内部を解析し、うんうんと一人うなづいてる。



「なにかわかったか?」


 改めて老人が声をかける。


「結構傷んでますけど──時間をかければ動きそうです」



 その言葉を聞きマイス老人は良かったと顔をほころばせた。



「とりあえず……そうですね。

明日まではかかると思いますが……」



「とすると、寝る場所がいるのお……

ウチに泊めてやりたいが……」


 老人の言葉にレイラが即座に反応した。

 

「そ、それでしたら、外に……テントを張ろう……と思います」


 レイラは小屋を一目見たあと、少し戸惑いながらもそう口にした。



 老人が一人で住む小屋は狭く、とても全員が寝泊まりできるとは思えなかった。

 老人も自分が使っている簡素なベッドを、年頃の娘達に使わせるのは気が引けた。



「手狭ですまんな……」


 マイスは申し訳なさそうに頭を下げる。



「いえ、お気遣いなく」


 アリーシアスは静かに言い添え、


「レイラさん、手伝います」


 と、続けて声をかけると、二人は連れ立って外へと向かった。





 二人が出たあと、レイディルも小屋を見渡す。


「ここじゃ確かに狭いな……オレも外で作業することにします」


 そう言い、削岩機を抱え、外に出て行った。




「それじゃあ私は、お夕飯の下ごしらえでもしておこうかな……」


 残されたマリーはぽつりと呟き、それからふと思いついたように、マイスに向き直った。



「……あの、もしご迷惑でなければ、マイスさんもご一緒にどうですか?」


 遠慮がちではあるが、そこにはせっかくならという温かい気持ちが込められていた。



「おぉ、ワシの分まで……こりゃ、ありがたい。

良けりゃ、この家にある食材を使ってくれ。

狭いがキッチンも使ってくれてええ」


 マイスも嬉しそうに笑みを返した。









 岩山の間に、赤く燃える夕日が沈もうとしていた。

 テントの設営を終えたレイラとアリーシアスは、やっと一息ついたところだ。


 一方、小屋の中ではマリーがじゃがいもの皮を剥きながら、かまどでパンを焼いている。

 香ばしい匂いが静かに室内に広がりはじめていた。



 レイディルはというと、跪いたヴァルストルムの足のあいだ──ちょうど股の下あたりに布を広げ、その上で削岩機をばらしていた。


 手元を照らす魔道ランプの淡い光が、金属部品にちらちらと反射している。



「お前もこれくらい簡単にバラせたらいいんだけどな~」



 目線を少し上げ、彼はヴァルストルムに向かって軽く言葉を投げた。

 もちろん返事など返ってはこない。

 だがそれでも、レイディルは妙に楽しげだった。




 しばらく作業を続けていると、小屋の中から食事の声がかかる。

 レイディルは集中していると、普段なら食事も睡眠も忘れて作業を続けてしまいがちだった。

 だが、さすがに用意してもらった食事を無視するわけにはいかなかった。


 



 小屋の中では、温かい食事が振る舞われていた。

 マイス老人は「人に作ってもらった料理はいつぶりかのう」と感慨深げに呟きながら、料理を口に運んでいた。



「思えば帝国のヤツらが来るまでは街の連中ともこうして笑いながら食事しておったな……

変わり者が多かったが、どいつも愉快な奴らじゃった」


 マイスは遠くを見つめながら、しみじみと告げた。


「だから、わしは少しでも早くあいつらを助け出したいんじゃ。

こんな風に、またみんなで飯を囲みたいからのう」


 小屋の中に、ひととき静寂が訪れる。


「っと、いかんいかん。

すまんの、歳を取るとすぐに湿っぽくなってしまう」


 そう言って、取り繕うかのようにマイスはパンを手に取る。



 焼いたばかりのフワフワのパンが、食欲をより一層そそった。


「ぬっ!? なんじゃこりゃ!

めちゃくちゃ美味いぞ!」


 老人は先程の空気とは裏腹にパンの美味しさに目を丸くする。



「確かに、マ、マリーさんのパン、すごく美味し……!」


 これにはレイラも感極まったらしい。


「一流のパン屋さんにも引けを取りませんね……恐るべし……!」


 アリーシアスも太鼓判を押す。


「ふふっ、ありがとう。

でもマイスさんがとても良い小麦粉を分けてくださったおかげよ」


 マリーはそう言って微笑んだ。

 パンの香りと味が、小屋の空気をふわりと明るく変えた。




「……ディルくんは、どうかしら?」


 パンを手にしたまま視線を落とし、横に座る未だ反応のないレイディルにそっと尋ねる。


 

「……」



 返事はない。

 マリーの笑顔が、疑問を帯びた表情に変わりかけた──そのとき。


 


「マリーさん、マリーさん」


 アリーシアスがそっと袖を引き、レイディルの口元を指さした。


 


 レイディルは夢中でパンを頬張っていた。

 むぐむぐと口をいっぱいに膨らませ、言葉どころか息をするのも忙しそうだ。

 その姿はまるでリスのようだった。


 

「あ、あらあら……」



 マリーは思わず口元に手を当てる。

 その笑顔は、自然と照れ笑いに変わっていた。



「ものすごく気に入ってくれたみたいね」



 そう言いながら、水の入ったコップをレイディルに差し出すのだった。








 食事が終わるころには、外はすっかり日が暮れていた。

 天幕を下ろしたかのように、あたり一面が黒に染まっている。



「食べすぎた……」


 マリーの焼いたパンが美味しかった。

 美味しすぎたため、つい限界まで食べてしまった。


 レイディルは満腹になったお腹を擦りながら、再び作業に取りかかる。


 


 しかし、辺りはすでに暗闇だ。

 灯りといえば、少し離れた小屋の明かりとテントから漏れ出る光くらいのもの。


 作業場の布の上には魔道ランプがひとつ置かれていたが、それだけでは手元を照らすには心許ない。

 


「禁断の〜、二個使い〜っと」



 レイディルは陽気にリズムをとりながら、腰掛けた地面の横から二個目のランプを取り出す。

 そして一度立ち上がり、器用にヴァルストルムの足へと引っ掛けた。


 わざわざこんな場所で作業をするのは、ランプの光で皆を邪魔をしたくなかったからだ。





 壊れた部品を交換し、錆びた部品を磨く。

切れた線を繋ぎ直す。

 レイディルはしばらく無言で作業を続けた。



「面白いですか?」


「んー、面白い……ってワケでもないな」


 ふいに横からかかる声に対し、機械から目線を外さず何気なく答えた。


「ん……?」


 ふと横を見やると、アリーシアスがしゃがみ込んで頬杖をついていた。

 膝に肘を乗せ、顎を手のひらに預けたまま、じっとこちらの手元を見つめている。


「うわっ! びっくりした!!」


 アリーシアスの存在に気づいた瞬間、反射的に声が出た。



「そんなに大きな声で驚かなくてもいいじゃないですか」


 チラっと目だけでレイディルを見る。


「いつの間にいたんだ……」


「そうですね。『きんだんのぉ~にこづかいぃ~』の時からですかね」


 わざとらしく声真似をしながら説明した。


「失敬な……そんな変な歌い方はしてないぞ……

ってかほとんど最初からじゃないか」


「気付かない方もどうかしてますよね」


「暗いから気付かなかったんだよ……」


 レイディルは少し拗ねた感じで返答した。



「それで、面白くないんですか?」


 アリーシアスは、レイディルの態度など気にした様子もなく、先ほどの返答に改めて疑問を投げかける。


「まぁ、作業自体は細かいし……そうだな、面倒くさい」


「意外ですね。楽しんでやってるものかと……」


「実際はな、整備とか直してる途中は大変だし、面倒だし、時間もかかるしで……楽しくは思わないな。 いや、たまに楽しい時もあるが」


 言いながら、レイディルは一度手を止め、夜空を仰いだ。

 地上はランプの灯りがなければ暗闇に包まれるというのに、空だけは澄んでいて、星々が瞬いていた。



「だけどまぁ、ちゃんと直った時は達成感がある。たぶん、それが楽しいんだ」


 レイディルは作業中の手元に目線を戻し言葉を続ける。



「それに道具ってのは、ただの鉄の塊じゃない。

誰かが使って、壊れて、それでも誰かが直そうとしてきたものだ。

そういうの見ると……もう一回動けるようにしてやりたくなるんだよな」



 その目はただの物に向ける目ではなく、道具にもまた敬意を払うような眼差しだった。



「そういうもんですか」


 少女はふーんと呟く。


「そういうもんだ」


 青年はふふんと笑って見せた。




「わたしには機械のことはわかりませんけど……」


 アリーシアスはそっと立ち上がる。


「きっとレイディルに向いてることなんでしょうね」


 アリーシアスはフフッと柔らかい笑顔でレイディルを見下ろす。


 夜風が銀の髪を優しく撫でる。

 少女は揺れる髪を手で少し押さえる。


 レイディルはその顔が珍しかったのか、はたまた違う理由か、少し無言になりジッと見ていた。


 つい手に持っていた部品を落としてしまった。


「さて、言っても聞かないとは思いますが、

あまり夜更かししすぎないようにしてくださいね」


 彼女はそう言うと、くるりと周りテントに戻って行った。






 太陽が岩間から昇る。

 一日の始まりを告げる、静かな光だ。


 鳥のさえずりが聞こえはじめる。


 レイディルは背を伸ばし、作業で固まった身体をゆっくりとほぐした。


「こんな岩ばっかのところにも、鳥っているもんだな」


 などと感心しながら立ち上がる。

 削岩機の修理は、無事に終わっていた。


(……結局、徹夜してしまったが……)


 顔を洗おうと、小屋の台所を借りることにした。



 老人を起こさぬよう、そっと扉を開ける。

 が、すでにマイスは起きていて、椅子に腰かけていた。



「おはよう。その様子は……直ったらしいな?」


 老人はニカッと笑い、何度も「ありがとう」と頭を下げた。


 台所にはマリーの姿があった。


「おはよう、ディル君。

待っててね、今、朝ごはん作ってるから」


 彼女はいつもより早く朝食の準備を始めていた。


 その姿はいつもの修道服ではなく──

 淡いグリーンのブラウスに腕まくりをした細い腕。

 落ち着いた色味のロングスカートに、白い布のエプロンをかけている。

 赤い髪は後ろ手でひとつに束ね、ポニーテールにしていた。


 その格好のせいだろうか。

いつもよりもずっと、親しみやすい雰囲気をまとって見えた。



「わぁ〜、マリーさん! なんだか今日はお姉さんって感じですね〜!」


 レイディルの背後から、アリーシアスがひょっこり顔を出す。

 普段とは少し違うマリーの姿に、どこかテンションが上がっているようだった。



「みなさん、朝早くからお揃い……ですね」


 額に滲んだ汗をタオルで拭いながらレイラが小屋に入ってくる。

 上着を脱ぎ、動きやすい運動用のインナー姿。

髪はアップに纏めている。

 その顔はスッキリとしていた。


「もしかして、鍛錬してたんですか?」


 レイディルが尋ねる。

そんな格好ならば、一択だろう。



「えぇ……私、たまに身体を動かさないと自信がなくて……動かしてもあまり自信はないですけど……」


 と、レイラは答え頬をかく。



「えらく自信なさげじゃが……お前さんら、横穴空いたら潜入するんじゃろ? 大丈夫なんかのぉ……」



 マイス老人の心配も、もっともだった。

しかし……


「大丈夫です。

こう見えて、レイラさんは頼りになります」


 アリーシアスが、さらりと言葉を返す。



 レイディルたち三人は、まだ彼女が戦っているところを見たことはない。

 それに口調も自信がなさげに聞こえる。

 けれど、それでも彼女を信頼できる理由があった。



 これまでの指示の的確さと、落ち着いた判断力。

 そして、出発前に部下たちがかけた数々の声。


 思い返してみれば、そこには誰一人として、重苦しい心配の言葉などなかった。

 むしろ気楽な声を上げるものさえいた。



 それはつまり彼ら全員が、レイラという存在を『疑いなく信じていた』ということに他ならない。



「ふむ……ならいいが……」


 マイスが頷く。

 レイラはゆっくりとテーブルへ歩み寄る。


「えっと……それでは朝食を食べながら……今後のことを、話し合いましょう。」


 静かな声でそう言った。








 小屋から少々離れた岩山の麓。

 ぽっかり空いた横穴を前に五人は集まる。


「概要としては──」


 レイディルが潜入のための作戦を再確認する。


「あと少し掘れば、工場の近くに穴が空く。

いままでは硬い岩が邪魔しとったが、レイディル君の直してくれたコレがありゃすぐだ」


 マイスは削岩機をポンポンと叩く。


 街の工場は、現在ギガスの武器を製造しており、昼夜を問わず稼働している。

 その騒音が削岩機の音をうまくかき消してくれるだろう。


 開通する穴は工場の裏手──死角となる位置であり、たとえ巡回があっても気づかれにくい。



「わ、私たちは、工場から東へ進み、一番堅牢に改築された大きな館へ向かいます。

おそらく、そこに敵指揮官がいるはずです……」


 レイラが地図を見下ろしながら口を開いた。

 指先で辿るルートは、危険な通路がいくつもあることを示していた。



「途中には兵士も、監視用のギガスも配置されているでしょう。

兵に発見された場合はわたしが魔術で凍らせます」


 そう補足したのはアリーシアスだ。

 静音性の高い氷魔術で、侵入が周囲に伝わる前に無力化する算段だ。



「その監視ギガス、森での感知範囲のデータが役に立つかも。

野営地で聞いたんだけど、大体五十メートルくらいって話しよ」


 マリーは治療の傍ら、様々な人の話に耳を傾けていた。



「五十……結構あるな……気を抜けない距離だ」


 レイディルが眉を寄せ、周囲の街並みに目をやる。


「でも……街は入り組んでいます。建物を障害物としてうまく使いましょう……」


 レイラが告げる。

 市街地の構造は複雑で、確かにうまく動けば死角は多い。



「それと、レイディルの解析魔術ですね。

随時、敵の位置を把握できるのは大きなアドバンテージです」


 アリーシアスが最後に補足し、皆の視線がレイディルへと向く。

 彼はうなずき、手元に視線を落とした。

 解析魔術──自分の役割を改めて意識する。



「で、では……日が落ちたら穴を開通させ、潜入決行です。

潜入は予定通り私たち三人……です」


 レイラの口調は不安げに見えて、その判断には迷いがなかった。


「できれば、街の人らをすぐにでも救出したいが……」


 マイスがぼそりと口にする。

 その声には、長年この街を見守ってきた者ならではの思いが滲んでいた。



「今は……我慢をお願いします。

大人数で動けるほどの余裕は……ないです」


 レイラが珍しく、きっぱりとした口調で即座に答える。

 その言葉に、マイスは少し残念そうな顔をし、静かに頭を垂れた。


「……マリーさん、万が一のために……穴の付近で待機をお願いできますか?」


「えぇ、構わないけどなんの万が一?」


「……逃げてきた街の人たちの、誘導と保護をお願いします」


 その言葉に、俯いていたマイスが、はっとしたように顔を上げた。


「余裕があれば……の話です。

確約はできません。でも……」


 レイラは一度言葉を区切る。

 自分の中にある迷いや不安を、押し返すように。


「この作戦は街を取り戻すためのものです。

街の人たちを……決して見捨てたりはしません……!」


 ふだんはどこか自信なさげなレイラの声。

 だがこの時ばかりは、まっすぐで、力強かった。


 静かな緊張が、場を満たす。



「それでは……皆さん。

日没までに、準備を……」



 レイラの声に、一同が軽くうなずく。


 行動の時間が、刻一刻と近づいている。

おまけ


挿絵(By みてみん)




◆設定的なよもやま話◆


○魔術による掘削


かつて一部の鉱山・炭鉱作業者の中には、魔術を用いて掘削を行う者も存在した。


ただし、対象に応じた適切な威力の調整、精密な魔力制御、さらに地質・削岩に関する専門的知識を要するため、実行可能な人材は極めて限られていた。


この種の技能を有する者は通常、魔術師として別の進路を選ぶ傾向にあり、掘削を生業とする例は稀であった。


後年、削岩機をはじめとする機械技術の普及により、魔術による掘削作業は自然と廃れていくこととなる。


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