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第九話・幕間「叫んでこそ」

「ところで、シアちゃんはどう思った?」


 グレナウの市長が用意してくれた食料や備品などを、いそいそと運ぶアリーシアスにマリーが声をかけた。


 

「なんですか藪から棒に」


 馬車への積み込みの手を止め、反応を返す。


 マリーはアーヴィングについて聞いているようだ。

 アリーシアスはしばらく沈黙し、口を開く。



「そうですね。帝国の人には珍しく魔術も達者なようですね。

魔力を行使する際の流れに淀みがないです。

ギガスの腕に魔術付与しているのも面白い感じですね」


 少し考えるように視線を巡らせてから「多少ですけど」と付け加える。

 マリーは「なるほど」と小さく呟いた。



「強敵と戦いたいとか、敵に強くなってもらいたいとか、あぁいうのは全く理解できませんね。

なんていうか時代遅れの武将という感じです。

変な人ですね」


 アリーシアスの辛辣な評価をマリーは苦笑しながら聞いていた。




「そんな事より、この箱を積むの手伝ってくださいよ。重いんですから」


「あらあら、気が付かなくってごめんなさい」


 アリーシアスが苦戦していた木箱を、マリーはヒョイっと持ち上げ、何気なく馬車へ積み込んだ。



(片手で……)


 アリーシアスは目を瞬いた。


「い、意外と力持ちなんですね……」


 驚く彼女の表情など気にも留めず、マリーは次々に荷を運んでいく。



「あら、そうかしら?」


 マリーは照れ笑いを浮かべ、指先で髪を軽くいじる。その仕草には、どこか嬉しさがにじんでいた。




 



「重量物を運んでもらって悪いね」


 博士が馬車下から、声をかけた。

 解放戦で氷の上を走るという無茶をしたおかげで、馬車下の衝撃吸収機構に少し負担がかかったらしくレイディルと共に整備をしていた。



 博士の意欲作を整備できるとあって、レイディルは喜び勇んで手伝いをしている。



「まぁ僕はあんまり重いもの持てないんだけど……あ、そこの取り付け部を調整してくれるかな?」


 博士は冗談を言いつつ、指示を出し二人はテキパキと作業を進める。



「整備は私たちじゃあ出来ないから仕方ないわ」


 マリーも納得してくれているようだ。




 しばらくしてレイディルの作業は終わり、ニコニコとした顔で馬車の下から出てきた。

 いやぁ凄かった、と一人感心している。



「で、さっきは何の話してたんだ?」


「マリーさんが帝国元帥の人の事を聞いてきたので答えてたんですよ。

ギガスの腕を飛ばすのが面白いという話でした」


 マリーはそんな話だったかと首をかしげたが、すぐに思い直した。



「なんて言ってたかしらアレ」


「イクトゥスウォランスと言ってましたね」


 帝国元帥がよく通る大きな声で叫んでいたので、アリーシアスはその言葉をしっかり覚えていた。

 ただ、聞き馴染みのない言葉だった。



「えーっと……飛翔する打撃……って意味かしらね。帝国の言語の一部みたい。」


 マリーの説明を聞き、レイディルが首を傾げた。



「何故叫ぶ必要が……?」


 その疑問を聞いた二人が、目を見開いて驚いた表情をする。



「え? 必殺技だから叫ぶ……のよね?」


 マリーはまるで当たり前のことのように言った。



「そうですよ、叫ぶものですよ」


 アリーシアスも当然のようにうなずく。


 レイディルは自分が変なのか? と思いながら、二人の反応に困惑した。



「叫ばないと、技の威力が出ないのか……?」


 レイディルはさらに困った顔をしてつぶやいた。



「多分威力としては変わらないと思いますけど……」


 アリーシアスはそういう問題ではないと言いたげな顔をした。



「じゃあ、わざわざ叫ぶなんて、敵に何をしようとしているか教えるようなものじゃないか」


 レイディルはますますよく分からなくなってきた。



「違うんですよ。必殺技は叫ぶんですよ。そうした方がカッコイイでしょう?」


「カッコよさのために叫ぶのか……」


 レイディルはさらに混乱して言葉を詰まらせたが、アリーシアスの言うことに納得しきれない様子だ。



「でも、アリシアだって無言で魔術使ってるし、叫んでないよな?」


「わ、私のは必殺技じゃないですし……それにちゃんと魔術名は言ってますよっ!」


 アリーシアスは少し語気を強め言う。



「周りに聞こえないくらいの声でですが、魔術名を言わないと術は発動しません」


「だとするとイクトゥスなんちゃらも、腕を飛ばすための魔術名だったんじゃ……」


 レイディルの疑問を遮るかのようにアリーシアスが口を挟む。



「いえ、あれは絶対、必殺技名ですよ。」


 何故だか自信満々だ。



「じゃあ、私も魔術名叫びます。

『氷槍 フロスト・インペイル!』とか、

『炎貫 ブレイジング・アーク!』とか叫ぶんで、レイディルも必殺技作って叫んでくださいよ。

そうしたらきっと、叫ぶ意味が分かるようになると思います」



(あの魔術はそんな名前だったのか……)


 レイディルはそちらのほうが気になったが、マリーの追撃を受ける。



「そうねディル君も必殺技作るべきね。

絶対カッコイイもの!」


「えぇ……オレがですか?」


 グイグイと推してくる女子二人のテンションに若干引き気味で答える。

 しかし、そんなレイディルの反応は無視をする彼女たち。



「折角剣を装備したんだから縦一文字に斬ったり、炎魔術をチャージしたフレイムソードとか

カッコよさそうね」


「射撃系の必殺技も捨てがたいですね。

どうせなら胸から熱線とか目からビームとか耳から冷凍光線とか出ればいいのに」



「耳から……?いや、それはないだろ。

……ないよな……?」


 レイディルの困惑も蚊帳の外、マリーとアリーシアスは更に盛り上がっていた。

 するとレイディルの背後から、馬車の下からゆっくりと這い出るように、ニュッと博士が現れた。



「いいねぇ、必殺技。

いっそ敵を魔術で動きを止めてブチ込むとか。

ヴァルストルム君が変形して突っ込むとかあれば面白いね」


 無茶苦茶な事を言いつつ、博士も加わり会話はヒートアップした。



「あとは……是非色んな武器をヴァルストルム君に装備させて撃ち放って貰いたいねぇ」


「あら、弓とかハンマーも良さそうね!」


 博士の言葉にマリーも嬉しそうに答える。


 三人のテンションにレイディルは、取り残されつつあった。



「そうなると、ヴァルストルムの肩の火砲や件の光の大砲……にも必殺技らしい名前欲しいですね」


 アリーシアスはこともなにげに言う。



「それをオレが叫ぶのか……」


 レイディルはイマイチ腑に落ちなかった。



『必殺技は叫んでこそ!』


 三人の声がひとつになり、辺りに響き渡った。


 レイディルは無言でただ立ちつくすしかなかった。


◆補足◆


○ブレイジング・アーク

二話で使用した火の魔術

二話では急を要したので実行言語は短縮版になっています。

以下、実行言語全文


炎よ、集え、我が魂の叫びに

灼熱の息吹を束ねて燃やせ

穏やかな灯を捨て、業火となれ

全てを焼き尽くす炎を解き放て

闇を貫き、凶禍を灰燼に帰せ

炎の咆哮を天地に響かせ

揺らめく炎を力に変え

空を焦がす一閃を呼び起こせ

我が意志を紅蓮の怒りに乗せ

全てを溶かし尽くす烈焔を迸らせ

業火、我が意志を振り上げ

剛威の炎で世界を貫け





魔力フロスト・インペイル

同じく二話初使用した氷の槍。

八話後編にて凍結優先版使用。


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