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第四章 かべちょろ一匹

「これから、鳳蝶幹部会議を始める」

そういって瓦礫山の頂上に座り込む玄斗。

「…とその前に、今日は例の新人を連れてきているから、皆よろしく。」

そういって玄斗は千影に目線を落とした。千影は貴臣に背中を押され、慌てて前に出る。

「えっと、切尾千影です。よろしくお願いします」

瓦礫の麓にいるがたいの良い大男が「ふぅん」と言った。「どうしようもない暴れ馬って噂は嘘だったのか?随分とおとなしいじゃねェか」

その近くにいた着物を着崩して上に隊長服を羽織り、手に煙管を持った女性がふふ、と粋に笑った。「そりゃあ、いきなり幹部会なんて連れてこられたら誰だって借りてきた猫みたいになるさ」

玄斗は呆れた様な表情をした。「拾矢、姐さん、あんまり新入りいじめないでよ」

2人はハイハイ、といって笑った。「玄斗のお気に入りだもんなァ、仕方ねェや」

玄斗はムッとした顔をした後、すぐにいつものすんとした顔に戻った。「別にそんなんじゃねぇ」

「あっそうだ、せっかくだし、3日毎ごとくらいに色んな隊見て回ってこいよ、挨拶ついでに」

玄斗がにやりと笑った。「どの隊も個性が強くて面白いぞ」

「個人の自己紹介は後にするとして、隊くらいは紹介しておこうか」と横にいた裕貴が千影に耳打ちをした。

「あそこの青いラインの入った服を着てるのは二番隊。ルイはあそこの副隊長だよ。」

ルイの横に立つのは二番隊の隊長だろうか。紺藍の髪の毛を二つに分けて、隊長服らしきジャケットを袖を通さずに羽織っている。ルイの横にいるからかもしれないが、長身で姿勢が良く、全体的にきちんとした雰囲気がある。ただ、ほぼ閉じているくらいの細い目から感情を読み取るのは難しそうだ。

「あっちの女子2人は三番隊」

先ほど喋っていた背の高い着物の女性は三番隊の副隊長らしい。濃い桃色の髪を後ろでまとめて、全体をゆったりと眺めている。その横にいるのは背の低そうな少女…いや、女性だ。綺麗な金髪の髪に黒縁のメガネをかけている。顔立ちからするに、日本人では無さそうだ。千影は顔をよく見ようとして目線が合ってしまい、紅く光る瞳で睨み返されてしまった。独特の瞳だったが、千影と同じく何かのパワーの影響なのかもしれない。

「で、あそこが四番隊」

裕貴が指差した方にはさっきのガタイのいい大男がいた。彼は隊長服を身につけていないが、その側にいる青年との立場関係を見るに、四番隊の隊長のようだ。赤みがかった茶色の髪の毛を横に流していて、身長は2m近い。そのせいで側にいる青年が小さく見えるが、彼も180cm近くの身長はあるだろう。青年の方はピアスを複数耳につけていて、を出して緩く上着を羽織り中にはタンクトップの様なものを着ている。チャラそうな雰囲気を感じるものの、紫色にオレンジのグラデーションがかかった髪を靡かせ、橙色の瞳を見開いた様はさながら少女漫画に出てくるミステリアスな美青年そのものだ。

「次は…」と裕貴が言いかけたところで白衣の男が口を開いたので、五番隊以降の紹介はまた次の機会に回されてしまった。

「さて…アイス・ブレイキングはここまでにして、本題に入ろうか」縁の厚いメガネをかけた、髪がもじゃもじゃの如何にも不摂生の極みと言ったような男が口を開いた。身につけている白衣には「VI」と書かれている。ローマ数字で隊の番号を表しているとは思うのだが、千影には読めなかった。

「クマモト辺りが拠点のヒーローサイドの暴走族、『愚裏厨離(グリズリー)』が最近フクオカにまで出てきて暴れ回っている。」

そう言って不摂生男はメガネを押さえた。

「既に俺ら鳳蝶長の隊員が〆られたっていう報告も出てるなァ。まったく、ナメられたモンだ」

ガタイのいい大男が腕を組んで顔をしかめた。

「引き続き厳重注意ってところだな。とりあえず、遭遇しても無闇に抗争に持ち込まないように各隊で言っておいてくれ。それと、〜」

貴臣が話をまとめて、次の議題へと話は移っていった。



「これで会議は終わりだね。千影くん、お疲れ。

…どうだった、鳳蝶幹部達は。」

出口までの一本道を淡々と2人は歩いていく。

「…まぁ、色んな人が居るなって」

千影はどことなく上の空で、別のことを考えるのに頭を集中させている様だった。会話の途切れを感じて、裕貴も気まずさを感じてきた時。


「あの、」

千影がふいに立ち止まったので、裕貴は驚きの表情を浮かべた。

「どうして俺をここに連れてきたんですか。」

どうしたのかと裕貴が聞き返す暇もなく、千影はどんどん語気を強くして言葉を紡いだ。

「俺はお前らから見たら敵だ。憎むべき…かもしれないヒーローサイドだ。そうだろ!?なのになんで敵をわざわざ組織に招き入れるような真似をして、幹部会議まで連れてきて…!」

千影の握り拳が次第にギリギリと音を立てる。

「それは…」と裕貴が口籠もると、千影は怒りの表情を裕貴へと向けた。

「お前らは俺みたいなかべちょろ(トカゲ)一匹、すぐに潰せるからって野放しにしておいてるのかもしれねぇけど、俺はそう簡単にはやられるつもりはねぇ!

俺はダークサイドが大嫌いだ。俺の大事な幼馴染を奪ったダークサイドが、大嫌いだ!」

そう吐き捨てて、千影は出口へと走り出した。

慌てて裕貴も追いかけるが、千影は人一倍足が速く、距離は離れてしまう一方だ。

どんどん出口へと近づいていく千影に裕貴が諦めかけた時、千影は前から出てきた何かに足を引っ掛けてつまづいてしまった。

「うわっ、」

本日二回目の転倒に苛つきながら体を起こすと、そこには横道からやってきたであろう二番隊隊長が立っていた。

「廊下で走るなんて、マナーのなっていない方ですね。それに、上司の忠告も聞かず逃げようとするなんて。ここは幼稚園でも、動物園でもないですよ」


男は淡々と喋る。改めて思ったが、180cm、いやそれ以上はある。長身で姿勢が良いため見下ろされると圧を感じてしまい、千影もぶるっとその身を震わせた。千影を止めるためにその長い足を出して進行を妨げたのだろうか。ただ千影が本能的に怖いと感じたのは身長のせいだけでない。彼の細い瞳の中には闇があった。光を灯さないその瞳は、空虚や欠落といった言葉を連想させる。それが、恐ろしくて仕方ないのだ。

「文清さん!」

追いついた裕貴と横道から合流したルイが後からやって来た。息を切らしながら走るその顔からは、焦りが滲み出ている。

「すみません、自分の隊の問題なのに…。」

文清と呼ばれた男は、裕貴の謝罪を「いいんですよ」とにこやかに流し、再び千影へと目を向けた。

「さて、この問題児をどうするか…。」

文清が腕を組んで千影を睨みつける。千影は震え上がって指一本動かせなくなってしまった。


「ちょうどいい、文清のとこで3日くらい面倒見て貰えばいいんじゃないか?」

後ろからいつのまにかやって来た貴臣が口を開いた。「せっかくの機会だ、文清に厳しく叩き込んでもらうのも悪くないだろ?」

裕貴とルイは何も言えなくなって、貴臣と文清の顔を交互に見るばかりだ。

それを聞いた文清は少し考え込んでから、「いいでしょう」と微笑んだ。

「切尾千影君、でしたか?二番隊へようこそ。

僕は仙水文清(せんすいふみきよ)、鳳蝶二番隊の隊長を務めています。どうぞよろしく。

…仮在籍とは言え、僕の隊にいるからには規律に則った行動を心がける様に。玄斗君のお気に入りという話は耳にしていますので、期待していますよ」

微笑みは崩さないが、その笑顔の裏が恐ろしくて、千影は「終わった…」と自分の未来に絶望したのだった。

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