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第6話●窓の中から

オレは体育館横の部室棟にある、バスケ部の部室を訪れた。無論、入部届けを提出する為である。


肺炎で死にかけて人生観が変わってしまったオレは、中学の時みたいに部活に全力投球ーーー

なんて気持ちはサラサラ無く、とりあえず所属して、楽しいと思える時だけやれればいいかなって軽い気持ちでいた。


もし毎日の部活動に強制参加!目指せ全国制覇!!みたいなガチのノリだったら、さっさと退部して帰宅部になればいいし。


そんな軽い気持ちで部室に行ったわけだが、健陽高校バスケ部の仕組みは、思ったより先進的だった。いや知らんけど。


本入部後はまず、本人の希望で一軍か二軍好きな方を選択する。


一軍はインターハイ出場目標のガチグループ。

二軍はバスケをただ楽しむ為のサークル活動的なグループ。


一軍は日々の練習やトレーニングなど、本気で部活動に取り組むカリキュラムで、

二軍は好きな時に部に来てバスケを楽しむ自由参加型カリキュラム。


ただし、二軍は当番制で必ず毎日誰かしら部に来て、雑用や清掃などしなければならないし、コートも一軍が筋トレで使わない時くらいしか全面すべては使用出来ない。

しばしば行われる実戦形式の相手を務めることもあるらしい。


原則、大会前1ヶ月以外は、顧問と幹部の審査は必要なものの一軍二軍の所属移動は可能。ごく稀に一軍へのスカウトはあるらしいが、本人の意志に反する二軍降格はないという画期的過ぎるシステムだった。


なんだこれ!最高かよ!!


中学生(ガキ)ん時みたいに熱血一生懸命にやるつもりなんかまっっったくないオレからしたら、バスケやりたい時だけやらせてもらえる二軍で全然OKだわ!


あ、たまに当番で雑用しなきゃいけないんだっけ。


まぁそれも大した問題じゃないだろ。

健陽バスケ部素晴らしいな!


無事に入部が受理して貰えた事で、オレは満足しながら部室の扉を閉めた。


「「ではよろしくお願いします!

失礼しました!」」


ん?

隣から出てきた1年生とタイミングが被ったようで、おまけに退出の挨拶までハモってしまった。


「聖夜? やっぱバスケ部なんだ!」


女子バレー部の部室から出てきたのは、スラリ高身長で明るい髪色なショートボブの健康美少女だった。って、藍じゃねーか。


「お前もバレーか。好きだねぇ。

つっても、バレー以外やってる藍が

想像つかねーわ。」


「ははっ。聖夜こそ、まだ1週間も猶予があるのに

初日から入部決めたんだろ?

やる気マンマンじゃねーか!」


言われてみれば、そう捉えられてもおかしくない。

ただ決めたこと、決まったことはサッサと済ませたい性分なんだよね。


「そういうんじゃねーよ。オレは高校では

本気でバスケやらないって決めたんだよ。

この3年間は、お気楽極楽に

過ごせりゃいーのよ。」


そう言いつつオレは歩みを校門に向けた。今の発言に戸惑った藍も慌てて流れで着いてくる。


「ええええ!!?? 嘘だろ? なぁ!

あんなにスポ根バスケ馬鹿だったのに!

ほんとに? ほんとにもう真剣にやんないの??」


「ああ。そういうのは中学で卒業した。」


藍は相当意外だったのか、かなりしつこく食い下がってきた。


* * *


歩きながらの問答がしばらく続き、ようやく藍も折れてくれた。納得はしてなさそうだが。


「まじかぁ~。そりゃあ聖夜の自由だけどさ~

もったいねぇなぁ。。。


ーーバスケに全力の聖夜好きだったのになぁ。」


「なんて?」


最後のほうは小声で聞き取れんかった。


「いやっ、なんでもない なんでもない。

あっ、そうだそういや亜里紗は高校は弓道やるって

言ってたけど聞いた?」


「え?剣道じゃなくて?」


オレたちは校門を出て駅へ向かった。

学校に最寄りの駅は、オレたちの地元の駅とひとつ隣なので、その気になれば自転車通学出来る距離なのだが、ほら、電車通学って憧れるじゃん。


藍が会話を続ける。


「弓道場にでも行ったのかな?

亜里紗にRAINしてみる?」


「いや、なんかあれば向こうから来るだろ。」


健陽高校には弓道場なんてものはなく、弓道部員はここから徒歩15分ほど離れた、市の総合運動公園にある弓道場を借りて活動しているのだそうだ。


それにしても、小学生は合気道、中学生は剣道、ほんで高校は弓道とかどんだけ武道少女なんだ亜里紗は……。


「そういえば、その亜里紗なんだけどさ、

なんか今日、調子悪かったんかな……。」


亜里紗の名前が藍から出てきて、オレは今日の

ホームルームを思い出した。確かにみんなの前での亜里紗の様子は彼女らしくなかったように思えたからだ。


「ホームルームの時の亜里紗?

てか、亜里紗ってあんなポンコツだったっけ?」


どうやら藍も不思議に思っていたのだろう。


「それ!アタシも意外っつーか

アレ??って思ってさ!」


そうなのだ。

3年間亜里紗と一緒に過ごしてきた、オレと藍からしたら、あの学級委員としての仕事っぷりは明らかにおかしかった。


一緒に進行してた緋月のMCスキルは異次元レベルだったが、それには及ばないにしても、中学時代にクラス委員としてみんなを仕切っていた亜里紗は少なくとも、あんなに挙動不審だったりはしていなかった。


「まぁ、中学とは勝手が違うから、

緊張してたのかもな。」


オレは同意を求めるように藍を見たが、藍は顎に手を当てて考え込んでいた。かと思えば急に思いついたような表情で顔を上げてオレのほうを向いた。


「もしかしたらさ、緋月君に―――――」


「和泉君と、菱浦さん?」


気づけばオレ達はもうすでに駅前まで来ていたのだが、そこでふいに後ろから声を掛けられて、オレも藍も振り向いた。


「辻倉さん?」


「わたしの名前覚えててくれてたんだね和泉君!」


だって、可愛いんだもん。覚えるっしょ。


「辻倉さんも今帰り? アタシと聖夜もこれから

電車乗って帰るとこ。」


「電車通なんだ! わたしん家は総合公園の

ほうだからわりと学校の近くなんだよねー。」


反対方向じゃないですか。


「んで、家帰ったら両親が急用で出掛けてて

ごはんどうしよっかなー、食べに行こっかなー

って駅前まで来たとこ。

世知は前もって言っとかないと

絶対家族と食べるだろうからさー。

あ、駅前まで来ちゃったけど

アディオのフードコートでもよかったかなぁ。」


アディオとは、ここからそう遠くない場所にある、広大なビール工場の跡地に作られた大きなショッピングモールのことである。

つってもオレが産まれる前の話だし。よく知らんけど。


「え、そしたらアタシたちでごはん行く?

今からアディオでもいいし、

駅ビルのファミレスでもいいし!」


言われたら急に腹が減ってきた。

なんやかんやで、もう18時だもんなぁ。

藍の提案に乗りたい。


「んね、和泉くんはなに食べたい?」


「あっ、えっと、ドリンクバー飲みたいから、

駅ビルのファミレスでいいんじゃね?」


「オッケー! アタシもミラノ風ドリア

食べたかったw」


オレと藍は、それぞれの家に夕飯を外で食べてくる旨を連絡したあと、辻倉さんと3人で某イタリアンレストランへと入っていった。


* * *


オレ達はそれぞれ運ばれてきたメニューを食べ終わり、ドリンクバーの飲み物片手に雑談タイムに入っていた。


主に、藍と辻倉さんが。


だって、仕方なくね? オレ人見知りだし。

おまけに辻倉さん、ちっちゃくて可愛いし緊張するし。


でも緋月とすごく仲良さそうだし、雰囲気的に付き合ってるかそれの1歩手前とかなんだろうな。幼なじみだっけ?


オレも欲しかったよ、幼なじみ。

藍も亜里紗も知り合ったの中学からだからなぁ。

ていうか、2人とも親友って言えるくらい仲良いと思ってるけど、付き合いたいか、と訊かれるとなんかすごく違う気がする。


藍はめっちゃ話しやすいし、つるんでて楽しいんだけど、なんかもう男友達みたいで、女の子として見たことないし。

そう!従姉妹みたいな感じ!


亜里紗はしっかりしてて頼れるし、ストイックなとこ尊敬出来るし、ついつい甘えたり任せたりしてしまうというか。

例えるなら姉貴みたいな感じ!


そもそもバスケ馬鹿だった3年間は、女の子とかそういう好きとか二の次だったってのもあるが、今さら2人をどちらか彼女にしたいかというと、本当の本当にそうなった未来が想像出来ない。


オレは、藍の隣に座る辻倉さんを見た。


いや、やっぱり女の子ってこういう感じというか、天然なのかわかんないけど少しあざといとことか、守ってあげたくなるというか、もし付き合うなら辻倉さんみたいな――――


「……!! おい聖夜!!? 聞いてる?」


「和泉くーん、もしもーし??」


あっ


トリップというか考え事してたみたいで。


「あっ、えっと、ハイ、なんでしょう?」


「いやいや、なんかじっと辻倉さんのこと

見つめてたからw」


「待って。和泉君、照れちゃうから。」


いやいやいやいや。

その目は反則!


「いっ、いや、考え事してて、

見てても何も見えてないっていうか、

べつに辻倉さんのこと見てたわけじゃ

ないっていうか、、、」


うわっ、手汗かいてきた。


「聖夜くんは小さくて可愛い子がタイプだもんね~」


いやまじ藍さん黙って。


「あっ、つかでも、ほら、緋月に、悪いんじゃ…」


緋月の名前をつい出してしまったが、辻倉さんは小首を傾げながらアイスティーを飲んだ。


「べつにわたしと世知は

そんなんじゃないんだよね。」


は? (マジ)

釣られてオレもコーラを口に入れた。


「でも小中とずっと一緒だったし、しょっちゅう

そういうの勘違いされてたからめんどくさくて

否定はしなかったかな?」


「いやでもめちゃ美形じゃん緋月君!

しかも学級委員でのあの仕切りとか

めちゃくちゃ頭の回転早そうじゃん!!」


なんか藍が食いついてる。


「うーーーーん。

なんか、今日の世知、

わたしの知ってる世知じゃないっていうか、

あんな世知、ホントに見たことないんだよねー。

朝も宇都宮さんをナンパから助けたりとか。


わたしの知ってる世知は、もっとこう根暗というか

陰気といーーー」


「えっそんなことあったの??!!!

亜里紗と!!!!!????」


藍が身を乗り出して、辻倉さんの言葉を遮った。

その対面にいるオレは静かに澄ましてしているように見えただろうが、実はオレも内心は藍と同じ気持ちというか、かなり驚いている。ホントに。


まず、あの飯原中の格闘女王と名高かった亜里紗に恐れ多くも声を掛けたそのナンパ男を褒めてあげたいし、またその女王に助けを入れるタイミングというか、緋月の立ち回りにもすごく興味があった。


「なんか、そういうトラブルとか世知は

避けて通るタイプだったし、ケンカとかの

揉め事とか想像出来ないひ弱君だったのにさ

スンってスマホで録音とか録画して

キモい兄ちゃん黙らせちゃって。

わたし夢でも見てんのかなとか思っちゃったw」


「あぁ~。なるほどなるほど~。

なるほどね~。それで今日は亜里紗

あんななっちゃったのね~。

あの子の人生、守ってもらったことなんて

今までなかっただろうからね~。」


なんか藍が納得した顔でウンウン頷いてる。


残念だがオレにはいったい何に納得してるのかサッパリわからない。

でもそんなスマートにそういうのに対処出来る奴って、やっぱモテるんだろうな。


「まぁ、でも、実際緋月は今までどうか知らんけど

頭切れてて冷静ぽいし、朝も大事にならなくて

良かったんじゃね?」


勿論、ナンパ男が亜里紗によって酷い目に合わなくて良かったね、という意味なのだが。


「いや~、緋月君は王子だね~!

てゆっかやっぱ中学の時も緋月君モテてた??」


藍って、こんな恋バナ好きだったっけか?

そしてオレも地味にそれには興味があった。


「う~~ん。。

わたしの知らないとこで告られてたり

そこそこ女子に人気はあったと思う。

でもあんまし興味なかったし。」


え、辻倉さんドライすぎんか?


「やっぱりね~。物静かな美形だもんね~。

アタシもちょっとタイプではないけど。

そういや聖夜もちょいちょい女子から

そういう目で見られてたりしてたよね。」


は? 藍さん、それは初耳なんですが。


「え、それは知らんかった。。

言ってくれればいいのに……。」


「だって中学ん時の聖夜ってバスケバスケバスケで

そういう雰囲気まるっきりゼロだったじゃん?

女子も声かけづらかったと思うよ~。

いつもアタシとか亜里紗とか横にいたし。」


知らないところで、

始まる前に終わっていたオレのロマンス。

でもな~

確かにそういうの当時

まるっきり興味なかったからな~。


でも今は欲しいな、とは思う。

高校生活は楽しく生きるって決めたのだ。

オレだって彼女を作って楽しく青春してみたい。


「へぇ~! 菱浦さんたちの中学の頃って

楽しそうで羨ましい!

じゃ、和泉くんは彼女いないんだーー?」


んん? なんかまたぶっ込まれた??

ここは冷静に澄まして答えるんだ聖夜。


「あっ、そうね、()()いないかな。」


()()()()()()、だろ?」


藍さん、そこで真実を言わないで―――


「そうなんだ~。

じゃ、和泉くんは、どんな女の子がタイプなの?」


いつの間にかターゲットがオレになった怒涛の恋バナラッシュ……。

人生初の経験にオレの脳内はフル回転していた。

……オレなりに。


何度も言って申し訳ないけど、中学の頃は本当に女の子とか全然興味なかった。思春期のくせに。


でも高校生になって、楽しく生きたいって思うようになってから、オレも女の子と楽しく話したり遊んだりしたいって思うようになった。人見知りのくせに。


そうだよな。

毎日を楽しく過ごしたいなら、一緒にいてくれるなら楽しい子がいいよな。


「そ、そうだね、、い、一緒にいて

とにかく楽しい子が、いいと思う。」


オレは精一杯、今の本心?をひねり出した。


「わたしも! わたしもどうせ付き合うなら

とにかくめちゃめちゃ楽しい人がいいなって

思ってたんだよね!」


辻倉さんが思いのほか食いついてくれた。

てゆっか、それってホント緋月とはタイプ違いそうね。


オレの表情はたぶん引きつっていただろうと思う。こういう話に免疫がないから、もう限界近いかもしれん。


オレは助けを求めようと、藍に視線を移した―――


……藍はなぜか面白くなさそうに、窓の外を見ていた。

とりあえずここまでアップさせてもらいましたが、続きは少しずつ更新させてもらおうと思っております。

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