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第5話〇supernova

ご都合主義大炸裂でごめんなさい。

自分に出来そうなことなら、なんでもやろうと決めていた。


あのまま終わっていたかもしれない自分の人生が、いままだこうして続いている。


神様が本当にいるのかわからないが、

今続いてるのはボーナスステージみたいなものだと思っている。


きっと大袈裟なんだろうけど、

こんな風に呼吸出来て、

心臓が動いていること、

生きていることは、

他の人はどうか知らないが、

少なくとも俺には当たり前なことではなかった。

世界と視野の狭い中学生には、

そうとしか思えない日々だったのだ。


だったら、受け身で生きてたらもったいない。

自分に出来ることならなんでも挑戦して、もっと色んなものを見て、色んなものを吸収したい。


昨日から抱えていた想いが、この場で俺からあふれ出したのかもしれない――――


「立候補は男女1人ずつか。

よし。緋月君と宇都宮さんの2人で

決まりでいいかな?

みんな、2人に拍手!!」


気づいたら、俺は学級委員に立候補していた。


クラスメイトの拍手の中、教室を見渡すと、俺と同じように挙手して立候補していた宇都宮さんと目が合った。


俺は笑顔を作って会釈すると、宇都宮さんは慌てたように大袈裟なお辞儀を返してくれた。


最初の印象は、もっと澄ました感じだったけど、意外とお茶目なのかな。


「じゃ、2人とも前に出てきてくれるかな。

軽く挨拶もしてもらおうか。」


担任の基藤(もとふじ)先生の声で、俺と宇都宮さんはみんなの前に立った。


「えっと、緋月世知です。ちょっと入院してて

入学式には間に合わなかったんだけど

色んな事に挑戦してみたいと思って

学級委員に立候補させてもらいました。

こういうのは初めてのことなんで

きっとみんなに迷惑かけると思うけど

頑張って行きたいので、よろしくお願いします。」


幸いなことにみんな大きな拍手で迎えてくれて、俺は少しホッとした。

数日とはいえ、スタートがみんなより遅れてしまったから、こうして俺を認識してもらえればそれもありがたいと思う。


とは言え、今のところ顔見知りは横の宇都宮さんを除けば3人しかいないが。


隣の席だった菱浦さんも、病室も退院の日も一緒だった和泉君も、少し唖然とした顔で俺を見ているが、由美がその中で1番驚いた顔を俺に向けていた。


内気で引っ込み思案でおまけに病弱な陰キャだったもんな、俺。


横を見ると宇都宮さんまで俺を見ていた。


え? え? なんか俺ダメだった??


――そんなに変な挨拶じゃなかったと思うんだが……。


基藤先生が嬉しそうに、俺の挨拶に敬称を外して言葉を繋げてくれた。


「先生は緋月のその気持ちはすごく偉いと思うぞ。

でもまぁ、身体の事もあるから、

大変だと感じたら遠慮なく先生を頼って欲しい。

じゃ、次 宇都宮 挨拶よろしく。」


続いて宇都宮さんが促された。


「……宇都宮?」


「あっ、えっ、ハイ!」


「大丈夫か?」


「はい、大丈夫です!

えっと、宇都宮亜里紗です!

中学校の時もクラス委員やってました!

ふっ、不束者ですがよろしくお願いします!」


「結婚じゃねーんだから!!ww」


誰かの突っ込みで教室が爆笑に包まれた。

見れば、和泉君も菱浦さんもゲラゲラ笑っていた。

宇都宮さんは可哀想に俯いてしまった。


こんなんで本当に、中学の時クラス委員やってこれてたんだろうか。


そんな疑問が頭に浮かんだが、宇都宮さんが俯くのに合わせて俺も頭を下げた。


「よろしくお願いします!」


これが彼女へのフォローになるのかどうかわからないが。


そして俺は頭を上げて、軽く喉を整え、言葉を繋げた。


「では学級委員として、これから皆さんの

他の委員会など決めて行きたいと思うのですが、

先生、このまま僕が進行してもよろしいですか?」


基藤先生までびっくりした目を俺に向けていた。


「おっ? お、おお。緋月、宇都宮、

よろしく頼めるか?」


「頑張ります。」


俺は頷く。


宇都宮さんは、、、


「えっ、あっ、ハイ。」


ごめん。俺のスタンドプレーに付き合わせて。


「じゃ、進行は俺がやるから、

宇都宮さんは黒板への記入とかお願いしていい?」


「あっ、うん! する!」


……この子、ほんと大丈夫なんだろうか。


一抹の不安を覚えたものの、俺は気を取り直し、みんなに向き直った。


思えばコロナ禍の始まった年、俺はまだ小学生だった。

まだ海外勤務に赴く前の父親は、よく自宅でリモート会議をやっていた。


『絶対大人しくしてるから!』


と、いう約束で、父親のリモート会議の様子を同じ部屋の少し離れた、カメラに映らないところからよく見させてもらっていた。


父さんはよく司会進行役のリーダーを勤めていた。

理路整然と議事を進行し、発言者たちの意見を順序よく聞いて整理し要点を簡潔かつ明確にしたあと、それらを束ねて会議をまとめあげていた。


小学生も高学年になると、俺の体調も次第に悪化していき、学校も休みがちになっていたところでのコロナ禍だった。


普段は働きに出ている父さんの働いている姿が、家で頻繁に見ることが出来るのだ。

他の子はどうか知らないが、俺にとっては強烈に父親への憧れを強めるには充分過ぎるほどだった。


加えて、会議の進行の優秀なお手本を連日目の当たりにすることで、俺自身も無意識にそういった司会進行に憧れを抱いていたのだろう。


その憧れを、この瞬間に思い出し、自覚していた。


「先生、とりあえず学級委員以外に

決めないといけない委員会を教えて下さい。」


俺は基藤先生に委員の種類を尋ねると、宇都宮さんに黒板に書き出すようお願いした。


学級委員 男女各1名《決定済み》

風紀委員 2名

図書委員 4名

美化委員 4名

保健委員 4名

放送委員 4名

広報委員 4名

体育委員(体育祭実行委員を兼ねる) 4名

文化祭実行委員 2名

選挙管理委員 2名


…以上、計32名か。

クラスの人数と一致している。


ちなみに4名の委員会は学級外活動があるので、当番制で受け持てるように人数が多くなっているそうだ。


「では、それぞれの委員会が定員になるように

みんなの所属を決めたいと思います。

えっと、どうしようかな、、、


……今から俺のRAINのIDを教えますので、

登録して希望の委員名を俺に送ってください。

それを宇都宮さんに書き出してもらいます。


希望が重なってしまって、定員人数を

オーバーしてしまったらジャンケンしてもらって

残念ながら負けてしまった人は、次の希望の

委員名を送ってください。


ついでに登録してもらったみんなのIDで

俺が連絡用のクラスグループも作成します。

それに招待されたら、俺のアカウントは

ブロックしてくれて結構です。

RAINに抵抗ある人は、メモ紙に書いて

俺か宇都宮さんに渡してください。


で、俺のIDは――――」


* * *


結論から言うと、あっという間にみんなの委員会を決める事が出来た。

基藤先生も『いや!びっくりした!こんな決め方もあるのか!いや緋月、お前やるな!』と舌を巻いていた。


「ひ、緋月君は、すごいな!!」


宇都宮さんが目をキラキラさせながら、俺を褒めてくれた。


「いや、とっさの思いつきだったけど、どうやったら

効率的に決められるかって考えただけだよ。」


「いや!いや!すごい!緋月君はすごい!

私はただチョークを走らせてただけだったのに

緋月君はすごい!!」


宇都宮さんのような、(外見は)知的美人にそう持ち上げられると、さすがにいい気になってしまう。。。


そしてまた嬉しかったのが、クラス全員が俺のIDを登録してくれて、みんなもれなくブロックせずにお友だち登録してくれたということだ。

ただ、和泉君だけはあんまり面白くなさそうな反応でIDを入力してくれていた。


でも、なんかこう、頑張ってやってみたことが、こうして悪くない結果になってくれると、なんとも言えない気持ちの良い達成感を感じさせてくれる。

今まで人の前に立って活動したことのない俺には、初めての経験だった。


―――挑戦って素晴らしい!


そう思わせるには充分な、俺にとっての初めての成果だった。


いや、まだ終わっていない。


次の議題に取り掛からねば。


俺は先ほど基藤先生に手渡されたレジュメに目を通した。


「次に、みんなの所属する部活動についてです。

基本的に部活動への参加は、当校では自由ですが、

最初はみんな、どこかしらの部に

所属しなければいけないみたいです。

明日から1週間、仮入部の期間に入りますので、

今から配る入部用紙に希望の部活動を書いて、

放課後に各部室に提出して来て下さい。」


男子生徒Aが手を上げて質問してくる。


「どんな部があるんすかー?」


隣で宇都宮さんがオタオタしだした。

俺はレジュメにもないアドリブで答える。


「健陽高校のホームページに、部活動紹介の

一覧が載ってるので、それを参考にしてください。

各部室の場所は校内見取り図を見ればいいかな?

わからなかったら先生に聞いてくださーい。」


「ここで俺に振るのかよ!」


基藤先生のおどけた調子に、また教室が笑いに包まれた。


「以上かな? ではMCを先生に返しまーす。」


「いやいや、緋月も宇都宮もご苦労さん。

みんなの委員会もスムーズに決まったし、

よし! 改めて1年間、みんなよろしく!」


なんとか学級委員初仕事は無事に成功で終わったようだった。


俺は宇都宮さんに笑顔で会釈して、席に戻った。


宇都宮さんもはにかみながら


「お疲れ様、ひ、緋月君!」


と、返してくれた。

自分だったら、LINE登録しませんw

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