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幕間③:第泗拾弐話 まごころを、君に。

シンジ&アスカ話の後編です。

2章2話でもわかる通り、真司君は思い込みとモノローグが激しいですw

わりと頭でっかちさんかもしれませんね。


前編があたおかな長さだったのにホント申し訳ないですが、

今回は前後編まとめての更新なので、2話一気に読んでもらうのもアリかなと思います。


でも、合わせて文庫本1冊分の文字数なので、

スキマ時間とかに少しずつ読んでもらうほうが現実的かもしれませんね……。


周回前提な内容も含まれますが、

秋の夜長のお供に是非……w


別に俺っちは"清楚"な女性がタイプってわけじゃなかった。と、思う。

明日香は勘違いしてた気がするけど。


んー。

とは言っても明日香の言う通り、確かに俺っちは最初 宇都宮さんのこと気になってた。と、思う。


でもさ、違うんだよね。

俺っちは宇都宮さんが"清楚"だから気になってた訳じゃなくて、、、


なんて言うのかな。

ギャップ?


第一印象は凛としてて綺麗でピシッとしてる女性だなって思っていたのに、学級委員就任の時の挨拶のポンコツっぷりがやばかった。気がした。

その温度差に1発でやられた感じだった(と思う)。


俺っち、なんて言うか、第一印象を別方向に軽くぶっ壊してくるギャップになぜか昔から弱い気がするんだよね。


まぁ、好きというよりは、憧れとも違うし、うん。"推し"ってやつなんだろなって思う。


そりゃー、もし付き合えたら嬉しいかも!とか思ったりもしたけど、あれよあれよという間に緋月と付き合っちまったし。


自分からどうこうしようとかそういう気概を持つほどじゃなかったし、うん。観賞用?だったんだと思う。

見てるだけで満足する的な?


っと。話が逸れた気がする。


だから俺っちが女の子に心動いてしまうポイントは、どれだけギャップがあるかだと―――――




「し――――んじっ! お待たせっ!」


「あっ、明日香おはよう。」


待ち合わせ場所にしてた西口公園の池の前で、彼女から声をかけられた。


「悪ぃな、ちと色々押しちまってよ……。

その、待ったか?」


「え、俺っちも今さっき来たばかりだと思う。

てかまだ約束の時間前だし。」


俺っちはスマホを閉じて立ち上がり、右手を伸ばす。


「……!! へへっ♪」


その手を彼女が左手で握り返す。

ピンクのニューエラの下に、一面に咲き誇る花畑のような(気がする)笑顔を見せながら。


「んじゃ、行こっか。」

「おうっ♫」


夏休み終了直前の今日、俺っちと明日香のこの夏最後のデートが始まった(気がした)。




ホームにすべり込んで来た水色ラインの電車に乗り込み、2人並んで座る。手を繋いだままで。


「へへっ♪」


明日香が俺っちにほほ笑みかけてきた。


これ! これだよ!!


普段教室ではツンツンしてて、クラスメイトに凄んでいるこの美少女が、俺っちだけに見せる笑顔!!


このギャップにやられない奴いる?

いや、いない(と思う)!!


とは言っても、俺っちが初めて明日香を意識し始めた時、確かに俺っちは彼女に対して強くギャップを感じたからってのはあるんだけど、

実は、いま感じている()()とは、まったく別のギャップだったりする。


そう。遠足の班決めの時のことだった(気がする)。




『ウチが誰とつるもーが勝手だろうが!

お前はウチのいったいなんなん??

つうかよ! 陰キャ呼びとかお前何様なんだ?

他人のこと馬鹿にしくさってっけどよ、

お前はいったいどれほどのもんなんだよ!!』




この時の、明日香の放った言葉で、俺っちの脳天に稲妻が走った(気がした)んだ。




―――俺っちは幼少の頃から、両親や叔父の仕事を遊びのように手伝っていたからなのか、大人と接することや、"業務"と割り切った時は自分でもびっくりするくらい上手く立ち回れた気がする。


でも、なんでか自分でも良くわからないけど、同世代の異性とは上手く絡む事が出来なかった(と思う)。


特に中学の頃は、すぐ挙動不審になってしまうところをめっちゃ同級生にいじられてた。

特にギャル(と言っても中学生相応のだけれど)からは本当に恥ずかしいレベルでからかわれて、それこそトラウマレベルだった(と思う)。




ギャル怖い。

ギャル苦手。




そんな自我を確立させてしまったまま、俺っちは高校生になった。


入学初日に教室に入って思った。




…………ギャルがいる……!!

それも、最強クラスの!!!!




ギャルってのはその場のノリや機嫌のウェイトがデカくて、同調意識が強くて、自分らの価値観で動いてて、どこまでも自分本位なイメージしかなかった(間違いなく)。


だから教室の1番後ろの席でふんぞり返っている、このえらい気合いの入ったギャルもそんな人種なんだろうって思っていた(気がする)。


なのに、俺っちみたいな陰キャにも1人の人間として接してくれて(今まで他のギャル予備軍からは人間扱いとかされたことなかった)、グループのノリとか雰囲気よりも筋とかそういうのを優先して、俺っちの側に立ってくれた明日香に俺っちは、超弩級のとんでもないギャップを感じたんだ(間違いなく)。


そりゃ、偶然バイトが一緒だったり、同じアーティストを好きだったり共通点があったんだけど、それを抜きにしても明日香が俺っちにちゃんと向き合ってくれてることに、本当に衝撃を受けた(確定)。




「―――お? なんだよ? まじまじ見やがって……!

クッソ、照れるだろっ!」


「え、いやっ、ごめん……!」


そんなことぼんやり思いながら彼女を見てたら、俺っちの視線に気付かれてしまった(みたいだ)。


「ハハッ。別にいいけどよ。」


そう言いなら明日香は少し恥ずかしそうに、ピンクのニューエラを深く被り直した。




―――この帽子を贈るのも悩んだよなぁ……。




彼女の誕生日プレゼントに贈った、とあるバンドの限定モデルのピンクのニューエラキャップを、明日香は本当に大事にしてくれてる(って確信してる)。


頑張って勇気を出して本当に良かった(って思ってる)。


班決めの時のそのギャルらしからぬ、明日香の(おとこ)らしい中身に惹かれてしまった俺っちだったけど、もともと自己肯定感がミジンコな俺っちは、付き合うとかそんな大それた事を思えるわけもなく、ただこの気持ちいいくらいさっぱりしたギャルの友人としていられるだけで満足だったんだ(と思う)。


同じ班になって一緒に遠足を回ってから、俺っちと明日香は更に距離が近くなった(気がした)。


不定期に毎日RAINをやり取りしたり(たまに通話したり)、毎週日曜にシフトが被る日は一緒にバイトしたり(更に上がったあと晩ご飯一緒に食べたり)と、流石にギャルの距離感バグってんな?とか思ったりもしたけど、明日香とつるむ毎日が楽しくてたまらなかった(確定)。


もともとギャルどころか異性に不信感持ってて、オマケに自己肯定感が底辺な俺っちなんで、明日香が俺っちのことを異性として見てるとか微塵にも思わなかったけど、確かに(ホント確実に)俺っちはもう明日香のこと大好きになってた(と思う)。


何度も何度も自分の中で否定しようと思ってたんだけど、明日香との時間がやっぱり楽しすぎて、尊すぎたんだ(と思う)。


まぁ、そんな風に自己評価が低い俺っちなんで、例え大好きでも自分が明日香と付き合えるとか付き合うとかそういう考えをとかもってのほかで、ただ"友人"としてこんな俺っちと仲良くしてくれる明日香には、ただただ感謝しかなかった(確実に)。


―――こんな俺っちと友達になってくれてる明日香になにか感謝の気持ちを伝えたい!!


次第にそんなことを思うようになっていた。


明日香とRAINするようになって、アカウントトップページを見て誕生日が近いことを知った俺っちは、「これだ!」とまじで思ったね!


誕プレというかたちで、日頃の感謝を伝えよう!!


そう思って、明日香が俺っちも好きなインディーズアーティスト、WIN-HAZARDのグッズを贈ることにした。


色々迷ったんだけど、別に被らなくても部屋に飾れてインテリアとしても使えるニューエラキャップを選ぶことに決めた。


ちょうど数量限定モデルのピンク色のものがあったので、倍率高かったけどなんとか手に入れる事が出来た。


そんで、別に狙った訳じゃなくてたまたま流れで、明日香が誕生日を迎えた瞬間に立ち会えそうだったので、HEATHに用意しといたブツを、零時迎えた瞬間に贈る事が出来た。




これで俺っちのミッションはコンプリート。

これからもよろしくね。




そんな感じで終わるはずだった(気がした)。




ところが。




明日香は俺っちに抱きついてくるわ、

誕プレ追加要望で勉強教えることになるわで、

その効果が俺っちの想像以上だった(と思う)。


更には今まで以上に、明日香は俺っちにべったりになった(と思う)。


いや、さすがに今みたく手を繋いだりとかはまだなかったけれど―――――




「あ、真司、そういえばこないだ麻理と

話したんだけどよ、、」


明日香がふいに、少し物思いにふけっていた俺っちに話しかけてきて、我に返った。


「ん?岸川さん?」


岸川さんは俺っちや明日香と同じ班になって、一緒に遠足を回ってから急激に明日香と仲良くなった(気がする)女子だ。


彼女は外見超清楚なコミュ力おばけで、誰とでも仲良くなれるわりにさり気なく壁を作ってる。

最初はそんなイメージだった。


でも、明日香と一緒の時はそんな壁をまったく感じさせないというか、ニコイチとはこのことか!と思わせるくらいの仲の良さだ(と思う)。


最初はどうやって明日香が岸川さんの壁を壊したのかなって思ってたけど、なんか見てると岸川さんが明日香を気に入って自分から壁を取っ払った感じがする(たぶん)。




見た目派手な明日香と、見た目清楚な岸川さん。

中身が硬派な明日香と、中身が軽い岸川さん。

実は初心うぶでピュアな明日香と、

実は恋愛経験豊富な岸川さん……。




2人並ぶ姿は、1組の"処女ギャルと清楚ビッチ"って呼ばれてるとか…………。


でもそれ聞いた時、明日香がそんな風に呼ばれるのが俺っちはどうも気に入らなかったんだよね……!


「そうそう! 麻理がよ!

また彼氏と別れたらしくて、ウチとヨイゼで

残念会やったんだけどよ……、、、」


「え、前とは別の……?」


……また別れたんだ……。

俺っちが知ってるだけで3回目かな?(と思う)


「ハハッ。今回は10日くらいじゃねーか?w

ったく風紀委員のくせにアイツまぢで

異性関係激しいよなww でもよ、今回は

流石にフラれるまで早すぎたのか麻理のやつ、

なんか、この世の終わりみてーなツラしながら、

"恋と愛って何が違うんだろう"とか

言い始めやがってよ…………。」


「恋、と、愛……。うーん。。。」


急に哲学的になった(気がする)。


「んで、ウチも一緒になって必死に考えたんさ。

したっけやっぱ、"自分中心"なのが"恋"で

"好きな相手本位で考える"のが、

"愛"なんじゃねーかなって、ウチは思うんさ。」


「なるほどね。俺っちも明日香とほとんど

同じ意見かなぁ……?

ホラ、ドラマとかで相手の幸せのために身を引く、

とかあるじゃない? あれなんか"恋"というより

"愛"って感じだもんね。」


「わかりみ!! それそれ!

そんな感じだよなっ!!!」


同じ価値観なことに安心したのか、明日香は「へへっ」と、また嬉しそうに笑った。


「あ、でも、

恋は奪うもの。愛は与えるもの。

とかもどっかで見た気もする。」

「ん、聞いた事あんな、それ……。

でもよ、なんかそれチープだよなw」


彼女がニコニコしながら俺っちに答える。


明日香のことは、本気で可愛いと思うし、本気で好きだと思う。


一緒にいる時も離れてる時も俺っちは明日香のことしょっちゅう考えてるし、いつだって一緒にいたいって思ってる。


でもこの"好き"な気持ちが、"恋"なのか"愛"なのか、いま明日香から違いを訊かれて、俺っち的にもどっちなのかぼんやりとわからないというかはっきりしない気がする(と思う)。


さっき自分でも言ったように、"愛"だったら相手の幸せを思って身を引く事もあるかもしれないんだけど、、、


俺っち、明日香を誰にも渡したくないんだよなぁ(確定)。


こういう独占欲っぽいのは自己中心的なのかな? こういう気持ちは"恋"なのかな?(って思う)


そんな独占欲が抑えきれなくなって、俺っちから明日香に告ったわけだし………………。




期末テストの結果が、俺っちと一緒に勉強したからか、明日香の順位は中間と比べて100人くらい追い抜いて56位と大躍進の結果になった。

(ちなみに回想だから、文中は"明日香"呼びだけど、当時はまだ付き合ってないので"大島さん"て呼んでた。)


明日香はもともと頭の回転早いほうだし、物覚えも良かったので、ちょっとしたコツとか習慣が身につくだけでこれくらいの実力はあったってことだ(と思う)。


『うひょー!!! ウチ、こんな成績上がると

思わんかった!!! 相原ぁぁぁ!!!!

まぢ恩に着る!! 大感謝!!!!』


とか言いながらみんなの前なのにめっちゃ抱きついてきたもんな…………。


(勘違いするな、勘違いするな!)


っていつも自分に言い聞かせてたけど、この時はさすがに(大島さん、俺っちのこと もしかして本当は好きなのかな……)とか思い始めていた(気がする)。


『お礼! お礼させろ!!

相原がウチに勉強教えてくれたおかげだ!!』


『いやいや。大島さんへの誕プレの

ひとつだったでしょ、と思う。

勉強教えるのって。』


何回かこんな問答してたけど、まわりからどんな風に見えてたのかなって思う。


ギャルと陰キャが釣り合わねーよ!とか思われてたりするのかなって、自己肯定感どん底の俺っちはそんなこと思ってた。

けど、明日香が俺っちと一緒にいる事を選んでくれてるのは、それが明日香の意志なんだろうかなってことも思ったりもしてた。


でも、明日香はギャルな上に、ハイクラスに可愛い。俺っちと違ってスクールカースト最上位クラスのクオリティのルックスだった(確信)。


そんな明日香に俺っちなんかが横にいて、きっと面白く思わない奴もいるんだろうなって思ってた。


球技大会直前に、その懸念が現実になって、俺っちは燕木君に呼び出された。


『オイ相原。お前いい加減、大島から離れろ。

大島が迷惑してるだろ。』


体育倉庫の横で、彼はそんなような事を俺っちに言ってきた。


『あ、それって、大島さんが言ってたってこと?

大島さんが迷惑だって言うなら俺っち離れるけど

本当にそう言ってたか本人に確かめてもいい?』


『あっ! いやっ! ちょっと待て!!

それはやめろ!!』


少し捻った返答してみたら、面白いくらいに燕木君はうろたえた(ように見えた)。


思ったより意地悪が過ぎたかもしれない(と思った)。

見てたらわかるけど、燕木君()明日香の事、大好きだもんな(たぶんだけど)。


初めは2人付き合ってるのかって思ってたくらいの絡みだったし。


でもそれは燕木君のウザ絡みと一方通行な想いだったってすぐわかった。


個人的に燕木君は悪い奴とは思わないんだけど、ちょっと自己中心的というか、自分本位というか、何でも自分の思い通りにならないと気が済まない感じのタイプだった(と思う)。


俺っち達を"陰キャ"呼ばわりして見下してたことを、鎌倉で一応形式的に謝罪してきたけど、あれは明日香に対するアピールだと思ってる。


明日香も俺っちもよく"陰キャ"というワードを使ってたけど、それは便宜上であって、燕木君みたく悪意がこもっていたわけではなかったし(確定)。


まぁ、いいや。


てかどうしようかな。

さすがにめんどくさい(と思う)。


『用事ってそんだけ?

そんなら俺っち、もう行くけど。』


明日香と一緒に帰る約束してたし。


『おい待てよ陰キャ!

お前みたいに冴えない奴に

大島は渡さないからなっ!!』


きびすを返した俺っちの背中に怒鳴り声があびせかけられた(と思う)。




―――あ?




普段温厚な俺っちだけど、なんかカチンと来てしまった(気がする)。


ゆっくり振り返り、努めて冷静に反撃を試みた。


『……渡すとか渡さないとか、なに?それ。

大島さんは"モノ"じゃないんだけど。』


俺っちの言葉を聞いて激高した燕木君が顔を赤くした(ように見えた)。


『んだとぉ!?『何やってんだ?』


俺っちに向かってきた燕木君が、俺っちの背後からの声に固まった。


『え、』

『……大島さん?』


振り向くと大島さんが腕組みをしながら仁王立ちしていた(ように見えた)。

雰囲気的に怖い顔してるだろうなって思ったら、なんだか口元がひくひくしていた(気がした)。


『……ったく、麻理がよ、ここに来たら相原絡みで

おもしれぇもん見れるっつーからよ、

来てみたらなんだこりゃ?

ケンカでもすんのかよ?』


ハイ。アナタを取り合ってケンカするところでした。


とかもしかしたら明日香は思ってるのかもしれない(と思う)。


『いや、俺っちはそんなつもりなかったんだけど。』


余計なことは言わない事にした。


『んー、まぁいいや。

オイ燕木(ツバメ)、もう用事は済んだか?

もういいよな? したら相原、帰ろうぜ!

アンタのカバンも持ってきといたしよ!』


『あっ、うん。ありがとう大島さん。』


『わりーな燕木(ツバメ)

ウチ今日は相原と予定あんだわ。

そんじゃまたな。』


『あっ! おい!! 待てよお前ら!!』


まだなんかごちゃごちゃ言ってた燕木君を置いて、俺っちたちはその場を立ち去った。


明日香から自身のリュックを受け取り、そのまま駐輪場でそれぞれ自転車を押して校門を出た。


『…………………………………………。』

『…………………………………………。』


いつもは弾む会話もなぜか2人して無言だった。

2人並んで、黙って自転車を押しながら産業道路を歩いていた。


なんだろう。

いつも明日香がリードしてくれて色々話してくれたから、この時はだんまりな明日香にとまどって、自分からは何話していいか無駄に考えて頭の中グルグルしていた(と思う)。


『……………………なぁ、相原。』


やっと、明日香が口を開いた。


『ん? な、なに?』


『ちと土手行かん?』


『……え?』


ここから自転車で20分程南下すると、東京との県境の大きな川が流れている。そこの土手を差してるんだろう(と思う)。


『決まりな! っし行くぞっ!!』

『あっ、うっうん!』


明日香がニカッと気持ちいい笑顔を見せて自転車にまたがったので、俺っちも置いてかれないように慌てて自転車に乗って明日香を追いかけた。


季節も7月に入り、だいぶ夏めいてきてけっこう暑かったけど、風を切って自転車で走ってると思いのほか気持ちよかった。


――なんか、鎌倉を思い出すな。


そんなことを思いながらペダルを漕いだ。


そういや、テストも終わって一学期の授業も終わって、学校も午前中までになってるけど、昼飯どうしようか?

明日香とモックとか行けたら嬉しいな、とか思ってるうちに、俺っち達は土手に着いた。


車用のスロープを自転車を押しながら登ったあと、下りの坂道を一気に駆け下りる。


そしてそのまま河川敷の野球場の横を通り、俺っちたちは川岸までやって来た。


『……ふぅ。あっちぃな。』


自転車を停めた明日香が、フェイスタオルでひたいを拭っていた。


『もう7月ですもんね、って思う。』

『ハハッ』


俺っちの返事に笑った明日香が、そのまま川べりに向かって歩き出した。


『……。』


なんだろう。

なんか話でもあるのかな?


俺っちも黙って明日香の後を追った。


『ウチ、ガキん頃とかよくここら辺で遊んでてさ。』

『あ、大島さん、飯原中(出身)だもんね。』

『ん。そゆこと。』


ここら辺が学区の中学校だ。

俺っちの並本中とは隣の学区だ(と思う)。


ふと、立ち止まった明日香が足元の小石を拾った。


『―――――よっ!』


そしてアンダースロー気味にその小石を川に向かって投げた。


ちょん。ちょん。とぽん。


明日香が放ったその小石は2回ほど水面を跳ねて、水に沈んだ。


水切り、上手いなぁ……。


俺っち、たぶん人生で水切り成功させた事ない(と思う)。


『――――なぁ、、、』


明日香が、背中を向けたまま俺っちに語りかけてきた。


風になびいている明るい茶髪のツインテールに目を奪われた。


『……ん?』


明日香の背中から醸し出されている柔らかい空気と裏腹に、俺っちは緊張しながら言葉を返した。


『さっき、燕木(ツバメ)と話してるの、

ウチ、実は聞いてたんだけどよ……。』


『………………え??』


いつから? どこから聞いてたんだろう……。

いやでも俺っち変なこと言ってないはず(だと思う)。

燕木君の熱い(暑い)想いは聞いてたんだろうな(たぶん)。


『相原、アンタさ……

"ウチはモノじゃない"って

燕木(アイツ)によ、言ってくれたじゃん?

アレ、なんかウチ、嬉しかったんさ。。。』


明日香が目を伏せながら振り返った。

その視線は俺っちの足元あたりに向けられていた(気がした)。


『あっ、うっ、うん……。』


7月の熱気を帯びた風が、2人の間を駆け抜けた(気がした)。


俺っちは言葉を続けた。


『えっと、なんていうか、その、

大島さんにも考えてることとか、人格とか、

意思とか、そういうの絶対あると思うのに

そんなのとか無視して、誰のものとか、

なんか、そういう考え方、面白くなかった、

気がして……。』


『そっか。』


事実、渡さないとか男らしいって思う人もいるかもしれないけど、どうしても人間性を考えない"モノ"扱いしてることにどうにも拒否感があった……、、、


……んだけれど、、、、


『………………。』


俺っちの様子に明日香が気付いた。


『……でもよ、本音もあったんだろ?

相原のさ。』


『………………え?』


―――もしかして、この時の明日香は、俺っちの本心を見抜いていたんだろう(と思う)。


『―――――もし、ウチが、

燕木(ツバメ)のモンになっちまったりしたら、

とかも考えたりしてたか?』


『…………。』


そうだ。

そうなんだ。


"お前みたいな冴えないやつに大島は渡さないからな"


そう言った彼の言葉がどうしても気に食わなかったのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。


『もし、そうなっちまったらよ、どうす『嫌だ!』


考える前に、言葉が出ていた。


『え?』


俺っちは左手にはめていたゴムで自分の前髪を結った。


世知辛い世間から自分を護っていた前髪を取っ払い、真っ直ぐ明日香を見つめた。


明日香も戸惑いながら、顔を少し赤らめながら、意外そうに俺っちを見つめていた。


両の足に力を入れて、踏ん張って気合いを入れてみるも、俺っちのヒザは少しカクカク震えていた。


『嫌だ、って、アンタ、ウチのこと、、、』


『う、うん、、、』


もう突き進むしかない。


流れでこうなったとは言え、今更引けない(気がした)。


たとえ明日香が俺っちを友達としか思ってなくて、この先ぎこちない仲になったとしても、、、


それでも、俺っちは、、、、、、、


グダグダ考えたって、答えなんか出ない(気がする)!


誤魔化すとか、頑張れば出来るかもしれないけど、

そんなん俺っちしたくないし

なんか、もう、行くしかないんだ!!(と思った)


―――俺っちは、覚悟を、決めた。




『いやほんと申し訳ないと言うか、

こんな俺っちみたいなキモい陰キャが

なに勘違いしてんだって自分でも思うんだけど

何と言いますか最近というか結構前から実は

身の程知らずで本当に気持ち悪いんですけど

俺っちどうしても大島さんが他の男と

付き合うのとかすんごく嫌に思ってしまう

というか、いや、大島さんの友人の1人で

しかない俺っちがこんなこと思ってたり

言ったりするの本当におこがましいんですけど

俺っち『待て待て待て待てっ!!!』




早口でまくし立てていた俺っちの言葉を、明日香が大声でさえぎった。




『ちとなっげぇし、何言ってっかわかんねぇってw


……つまり、相原はよ、ウチのこと、

どう思ってるん?


…………それが聞きたい。簡潔によw』




俺っちは生つばを飲み込んだ。


なのに、ノドがカラカラだ。


さっきより、自身の足が震えている。


それでも俺っちは、明日香から目を離さずにいた。


明日香も真っ直ぐ俺っちを見つめていた。


ポケットに突っ込んでいた両手を出して、


軽く自分の胸の前で手を組んで、


明日香は真っ直ぐ俺っちを見つめていた。




『……お、俺っちは、、、』


『………………おう。』


『俺っちは、大島さんのこと、、、』


『……………………ん。』




『大島さんのこと、が……


―――――すっ、好き、なんだ。』




言った。

言ってしまった。

ついに言ってしまった。


もう後戻り出来ない(と思う)。


もしかしたら今までみたいに楽しく一緒にいることが出来なくなるかもしれない。


いや、最近勘違いしてたけど、よくよく考えたら明日香クラスの美少女が俺っちとどうこうなるとか想像出来ないし想像つかない。


やっぱり勘違いだったんだ。

そうに違いない。


人生初の告白だったけど、

このまま俺っちは振られる!

間違いない! 間違いなく振られる!

そんで明日香とは気まずくなって疎遠になるんだ!

短かったけど楽しい日々だった!

俺っちはこの思い出を胸に一生――――




『かハッ!!!!????』




軽くトリップして突っ立っていた俺っちは、突然身体的衝撃を受けて、尻もちを付いた。


『……相原っ! あいはらっ…………!!』


我に返った俺っちは今度は脳内に衝撃を受けた。


明日香が、

俺っちの首筋に抱きついていた。

俺っちの頭を明日香が自身の胸に抱きかかえていた。




『……おっ、おっ、、、おおしまさんっっっ??』




『ウチも……! ウチも…………っ!!

ウチも、相原が好きっ!!!!


だいすきっっっっ!!!!!!!!』




『―――――へ?』




俺っちの脳が思考停止した。


ぱたん。と後ろに倒れ込む。


地面が芝生(野球場だからだと思う)で良かった。


流れで明日香も倒れ込む。


俺っちに抱きついたまま倒れ込む。




『だからぁ! ウチも! 相原のことが!

好きだっつってんの!!!』


言いながら、明日香が俺っちを抱く腕に力を込めた。


『おっ、大島っさんっ!

当たってる! 当たってると思うう!!』


『あああああああああ~~!!!

聞こえねえ~!! なーんも聞こえねええええ!!!』


俺っちにしがみつきながら頬ずりする明日香の声に、耳がキンキンした(気がした)。


――――へっ?


俺っちの頬になにか水分が触れて濡れたような、そんな感覚がした(と思う)。


――――な、泣いて…………る?


今思えば、明日香は嬉し泣きをじゃれつくことで誤魔化してたんだろうなって理解出来るんだけど、こん時の俺っちはそれどこじゃなかった(と思う)。




―――いや、待って。待って……

匂いが……、、汗?だけじゃないと思う、、、

女の子って、こんないい匂いするの……??


てかてか! やわらかい……!

どこがどうでどうなってるのかとか

全然わからないけど、


全部やわらかい……


―――脳が! 脳が焼かれる!!!!


てか! 酸素! 酸素足りない!!!


息がっ、、、たすけ……




『……くっ、くるっ、、、し……』


なんとか捻り出した俺っちの言葉を聞いて、慌てて明日香が身体を起こした。


『……っと、わりぃ相原、苦しかったか……?』


途端に新鮮な空気が鼻腔を通して体内に流れ込んで来て、脳内が少しスッキリし始めた(と思う)。


『…………………………………………………………。』


改めて自分の視界が映し出す状況に、俺っちの脳内は再び焼かれた(確定)。


常日頃、自分が憧れていたちょっと粗雑だけど超絶可愛いギャルが、自分に馬乗りになっていたんだ。


汗と涙でメイクは結構乱れていたけど、明日香はそれでもその整ったアイドルみたいな表情のまま熱っぽい視線を俺っちに降り注いでいた。


少しだけ開いた胸元は、これまた汗でとんでもなく肌が湿っていて、まるで別の物質みたいに光沢を放っていた。




…………まるで、騎〇位の体勢でっ!!!!




(うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!)




自身の血液が一気に下半身に集中しそうな気配を感じて、俺っちはすぐさま息を止めた。


呼吸を止めると、そういうアレがなんとか抑制出来るってどっかで読んだ気がしたからだ!!


上手く行ったか行かなかったか、もうわからないけど、俺っちはあまりの恥ずかしさで思わず口に手を当てて、明日香から目を背けた。


『―――!!!

わっ、わりぃ!いっっいま!いまどくからよ///』


『……う、うん……。

俺っちも、なんか、その、ごめん…………。』


事実を確かめる勇気もないまま、俺っちもふんわりと明日香に謝ることしか出来なかった(と思う)。


『……へへへっ♪』


振り向いた明日香の笑顔が、真夏の太陽より眩しく見えた(確信)。




とは言うものの、想いが通じあった嬉しさよりも、戸惑いや気恥しさのほうがきっと大きかったんだと思う。


そしてきっとそれは明日香も同じだったんだろう(と思う)。


俺っちたちは川べりのコンクリートレンガの斜面に無言で並んで腰掛けていた。


『……っ!』


どぽん。


明日香が川に向かって石を投げた。


水切りじゃなくて、普通のスローイングで。


うーーん……。。


嬉しいのにどうしていいかわからない。


気まずい、とはちょっと違う(と思う)。


さすがに、この状況をずっと続けるのは、なんか明日香に悪いって思った。


『…………あのっ』


覚悟を決めて口を開いた。


『その、なんていうか、なんで?

なんで俺っちみたいな地味でキモくて、

挙動不審で全然男らしくない『違う』


自己肯定感最底辺の俺っちの自虐を明日香がさえぎった。


『……確かに、相原はさ、まァ、少し

うじうじしてるっつーかよ、

イマイチはっきりしねーとこあるかもしれんくて、

そんな目で見られやすいかもしんねーけどよ、、、

その、なんだ、、、

言う時はちゃんとしっかりモノを言えるしよ……。』


『……え?』


『中身は、ちゃんと考えてっし、判断力とか

決断力とかあるしよ、スムーズにスマートに

ウチをリードしてくれたりとか

いっぱいあるしよ。』


『えっそんな『いいから聞けっ!』


またさえぎられた。

と言うか人生でこんなに異性から認められたり褒められたりしてるの生まれて初めてだ(と思う)。


『そのよ、かっ、顔だって、可愛いっつーか、

ウチのけっこう好みだしよ、、、

服とかだって、トガっててイケてるしよ、、、』


『…………………………。』


と言うかこれは褒め殺しなのでは??

別の意味で逃げ出したくなるレベルで俺っちムズムズする(気がした)!


『なにより、趣味とかめっちゃウチと

話が合うしよ!!!

…………要するに、だな、、、

ウチはそんな相原が良いって思ったんさ。

そんなイケてるウチの好きな人を馬鹿にする奴は

たとえ相原自身でも、ウチは許さねえからな?』


『おっ、大島……さん……。』


明日香が俺っちにはにかみながら笑顔を向けて来た。

ニカっと太陽みたいな笑顔で。


『だからよ! 今日からウチが、

相原のカノジョな!!!』


『へっ?』


『……なんだよ? "好き"っつってくれたのによ、

付き合わねーのかよ『違う違う!』


俺っちも明日香に身体ごと向き直った。


『大島さん、俺っちと、いや、、、

俺と、付き合って下さい。』

『ふふん♪ ウチからも言いたい!

相原、ウチと付き合わん?』


『………………………………。』

『……………………………………、なんだよ///』


また気恥しさがぶり返して来た(気がした)。


『『ははっ!!』』


『お願いします。』

『こちらこそよろしくなっ!!』


照れくささと嬉しさがごっちゃになった俺っちたちは、しばらくの間 肩を寄せ合いながら川の水面のキラキラした反射を見続けていた(と思う)。




それから2人して空腹なことに気付いたので、駅前まで戻ってヨイゼリアで昼食を食べたあと、ドリンクバーで何時間も居座って、色んな話をした(気がした)。


実は明日香はバイト面接の時に、先輩の俺っちに半分一目惚れしかけていたこととか、バイト先での客への落ち着いたあしらい方とか燕木君への毅然な態度とかで俺っちの人となりを気に入ってくれたこととか、色々恥ずかしそうに話してくれた。


なんというか、俺っちが好きになる前に、明日香は俺っちを気に入ってくれていたっていう事実にまたまた衝撃を受けた(ホントに)。




とは言うものの、お互い異性関係の経験値が低いという点と、恋愛初心者なウブという事もあり、当面の間は学校では今まで通りにしようって決めたんだけど、

そんな事を露知らず、燕木君が球技大会で明日香に良いとこを見せようと頑張るも空回りしてクラスで戦犯として吊るし上げられたり、浮かれモードな明日香が菱浦さんの前で匂わせぶり発言したりと、たぶん二学期にはオープンな交際になるんだろうなって思いながら一学期が終わった(気がした)。




―――うーーん。


回想とは言え、思い出しても恥ずかしい(気がする)。


「…………フフっ」


明日香は俺っちの肩にもたれて、すーすーと寝息を立てている。昨日の夜遅く、やっと課題が終わったって言ってたもんな……。

もう少し寝かせておいてあげたいな(って思う)。


目的地まであと何駅かな?


スマホを立ち上げて、乗り換え案内のアプリを開いた。


「……ん、うん……。あっ、ウチ、寝てた?」


俺っちの動く気配で明日香が目を醒ましてしまった(と思う)。


「あ、明日香ごめん。起こしちゃった?」


「いやっ、ウチこそわりぃ……。

真司にもたれてたらなんか安心するっつーか、

気持ちよくなっちまって…………。」


「安心してくれてるんだ。」


「そそそそ!! ウチ、真司といる時の

空気感が大好きでよ!」


空気感。嬉しいことを言ってくれる(気がする)。


「俺っちも明日香と一緒の時間、好きだよ。」


明日香に笑顔を向けながら返事すると、彼女は少し恥ずかしそうに視線を逸らした。


「あっ、アハハハハ……

なんか照れるな今更なんだけどよ……。

あっ! つかここドコだ?」


照れ隠しに明日香が話題を変えた。

ちなみに手はずっと繋いだままだ。


「えっと、今 秋葉原過ぎたから、、、

神田、東京、、の次かな?って思う。

だからあと3個で着くと思う。」


「そっか! ハハッ

ウチ楽しみだわ!!!!」


アプリを見ながら答えた俺っちに、明日香が微笑み返してきた。


今日は8月30日。

花火を見たり他にも色々デートしたり楽しかった夏休みも明日で終わってしまう。


そんな宝物みたいになった今年の夏休みだからこそ、最後に1番楽しかった思い出が、忘れられないくらいの一生の思い出が欲しいって、俺っちは思ったんだ。




時間も16時前と、まだまだ暑い中だったけど、ちょうどいい予定通りの時間に俺っちと明日香は有楽町駅で降りた。あらかじめ念を入れてお互い駅構内でお手洗いを済ませて、2人揃って西口に出た。


「うへっ! 外はやっぱあっちーな……。」


明日香がピンクのニューエラを脱いで、うちわ替わりにあおぎ出した。

俺っちも自分の黒いニューエラを脱いで、明日香をあおいであげた。


「えっと、日比谷公園は……

うん。こっちだと思う。」


ニューエラを被り直して、明日香の手を引いて歩き出す。


「~~~~♪♪♪♫」


鼻歌混じりに俺っちに着いてくる彼女が可愛すぎる(確定)。


「……着いた。思ったより駅から近かったね。」

「おうっ! やべぇウチ、クッソ楽しみなんだけど!」


開演1時間前ということもあり、すでに結構な人で賑わっていた。


「明日香、チケットの座席確認したら、

少し物販見てみようよ。」

「うんっ!!! 見る見るっ!!!!」


入場の列に並びながら、俺っちたちは2人してスマホを開き、チケット画面を表示させた。




ライブチケット:相原 真司 様


アーティスト:WIN-HAZARD

会場:日比谷公園大音楽堂

202✕/08/30 (土)

OPEN 16:00

START 17:00

座席:9列18番

6500円




ウィハザがメジャーデビューしてから初のライブ。

それも野外ライブ!

チケットをこうして取れたのは本当に奇跡だったとしか言いようがない(と思っている)。


「真司! しんじ!! ウチ、やばい!!

アガり過ぎてなんか泣きそうっっ!!!

ウィハザが!! WIN-HAZARDが!!!!

生で観れるとか聴けるとかっっっ!!!!!

どうしよどうしよめっちゃ楽しみで死にそう!!」


明日香もスマホでチケットを表示させながら、顔をキラキラさせて俺っちに抱きついてきた。


「あははっ。明日香、死なないってw」


ぽんぽん、と、

明日香の頭と背中をたたく。


(当たってる! 明日香、当たってるって!!)


って思ったけど、いつもの事なのでもう俺っちはなんにも言わなかった。




座席を確認したあと、2人で物販をめぐって、それぞれお揃いでタオルとリストバンドとTシャツを購入した。


事前に決めていた通り、2人とも上着を脱いでタンクの上から買ったばかりのTシャツを着込む。

そしてそれぞれ左手にリストバンドをはめて、大きなバスタオルを肩にかけた。


ニューエラキャップ以外の身につけたグッズはこれですべておんなじお揃いになったわけだ。


「~っよっし! 臨戦態勢オッケだなっ!!!」

「うん! 明日香よく似合ってる。と思う!」


俺っちと明日香はめっちゃ笑顔で腕をクロスタッチさせた。


「バッバカっ! 照れるやめろしw

つか真司こそどちゃクソ似合ってっからよ!」

「ホントに? ありがとう明日香!!

んじゃ、行こっか!!!」


さぁ、これから夢のような時間が始まる(確信)。


大好きな彼女と一緒に過ごす、極上の時間が。




時間通りに開演したWIN-HAZARDのLIVEは、期待しすぎてハードルを上げまくった俺っち達の想像をも、遥かに超える最高のLIVEだった。


オープニングから、メジャーデビューを飾ったナンバー【Spark】から掴みに入り、続けてインディーズ時代の【Express】【advanced】【Generations】と名曲が続いた。


「AKIRAくーーん!!!」

「RYOさーーーん!!!」


夢中で声援を送る。

会場のオーディエンスと一体になって歌う。

あらん限りの力で右腕を振り続ける。

何度も何度もその場で飛び跳ねる。


俺っちの大好きな【Beauty Honey】から【biburionn】の楽曲コンボには、さすがに感極まって涙が出てしまった。


「……ハハッ♪」


肩にかけていたタオルでそれを拭っている俺っちを、明日香が嬉しそうに見つめていた(と思う)。


「真司! ウチ、いま最高だわっ!!」

「俺っちも!! きっと明日香と一緒だから!!!

だから最高なんだっ!!!と思うっっ!!!!」


そんな、夢のように死ぬほど最高な時間も、やがて終わりに近づいていた。


【MY STAR】で通常セトリを締めたあと、会場のボルテージ渦巻くアンコールで、追加ナンバーを残すのみになってしまった。


『お前ら、今日は俺達のLIVEに

来てくれてありがとう!!』


AKIRAくんが叫んだ。


「俺っちこそありがとーーーう!!!」

「まぢありがとーーーーー!!!!」


2人して泣きながらお礼を返す。


『きっと、永遠なんてないって、

みんな知ってる。俺だって知ってる。でも!

ここでお前らと過ごした瞬間は!

俺の中に"永遠"に残る!!!』


ウァァァァ……


会場の熱気が頂点まで高まった。


『だから、だから最後にこの曲を

お前らに贈りたい。

聴いてくれ、【Mebius】……!』


まだ未発表の新曲……!


まさか、まさかこのタイミングで聴けるなんて……!!


俺っちと明日香は、強く強くお互いの手を握り締めながら、LIVEが終わるその最後の最後の瞬間まで、"永遠"を胸に刻み込んでいた(と思う)。




夢のような時間は、あっという間に終わった。


時間的に帰宅ラッシュの時間なので、事前にリサーチした通り、いつもの水色ラインの電車ではなく隣の新橋駅から緑とオレンジのラインの電車で地元近くの駅まで帰るルートを選ぶことにした。


「あ"あ"あ"あ"……、、、喉が枯れた……w」


明日香のキュートな声がガラガラ声になっていた。


「……っ、んんっ!! 俺っちも、だ、と思う、、」

「ヒャハッw 真司そっちの声も

けっこイケボじゃね??www」


2人でじゃれ合いながら、駅前のSLがある広場のベンチに腰を下ろした。


まだ熱気冷めやらないのか、すぐ帰ろう!って気には俺っちも明日香もならなかった(んだと思う)。


「いやぁ、なんつーかよ、、、

もうっ、最高だったよな……!!?」


明日香がうっとりした顔で語りかけてきた。


「いやもう、ほんとそれ……!

生のAKIRAくんやばすぎたと思う!!」

「それなそれな!!まぢ声良すぎ!!

つかよ、【Express】ウチまぢ好き!!」

「あのサビの疾走感とかほんと

ウィハザ!!って感じする!気がする!!」

「わかりみわかりみ!!!あと真司が泣いてるの

なんかウチきゅんと来ちまってよwww」

「あっ待って明日香それ忘れてっ///」


晩ご飯代わりにさっき買ったモックをつつきながら、ひとしきり感想を言い合いつつじゃれついていたら、あっという間に小一時間経ってしまった(気がする)。


「そろそろ帰ろっか、明日香。」

「おうっ! 真司と帰るるる♪」


帰りの電車はまだそこそこ混んでたけど、なんとか明日香を開かないほうのドアに誘導して、自分が明日香と向き合い空間を作り壁になる。


「ヒャハッ♫ これ壁ドンじゃね??」

「いや、、、ドアドン?だと思うw」

「えっwwwwwwwww 待っwwwwwwwww

待ってwwwwwwwwwwwwwww

ツボっwwwwwwたwwwwwwwwwwwwwww」

「いや明日香笑いすぎwwwだと思うwwwwww」


笑い転げる明日香も可愛い(確信)。


……んでも、周りからは「リア充爆ぜろ!」とか思われてるのかな?


どうでもいいけど。


ほんで他愛のない話を明日香としてたらあっという間に地元に帰って来れた。


明日香を先導させて改札をくぐる。

そして駅前駐輪場で料金を払って自転車を回収した。


「明日香、家まで送ってくから。」

「おう♪ 真司サンキュ♫」


明日香の家は駅から徒歩15分くらいなので、俺っちたちは自転車に乗らず、並んで押しながら歩いた。


「いやっ、今日はホントまぢで楽しかったっつーか

感動したっつーかよ、とんでもなく

ウチ幸せだった~~~☆

真司、今日はホントサンキュなっ!!!!」


明日香が弾けんばかりの満面の笑顔で俺っちに語りかける。


「うん。また一緒に行こ?って思う。

俺っちまた頑張ってチケット取るから!!」

「へへっ^^ 期待してるっ♡

あっ、でも無理すんなよ?」


リー、リー、リー


ふいに聞こえた虫の声に、俺っちたちは思わず会話を止めて耳をすませた。


「あー、もう秋なんだ、なぁ、って、思う……。」

「…………夏が、終わっちまうな……。」


なんだろう。

さっきまで凄く賑やかで楽しかったから?

それともこの夏が楽しかったから?


俺っちはなんとも言えない一抹のさびしさに、急に襲われた(気がした)。


明日香を見ると、彼女も少し物憂げな顔でちょっとだけうつむき加減だった(ように見えた)。


「なんつうかよ、しんみりしちまうな……。」


やっぱり明日香もそう感じていたんだ……。


「夏休み、すごく楽しかったと思うから、

なんかもう終わっちゃうのかって、思うと、

なんか、ね……。」


俺っちの返事を聞いて、明日香が立ち止まった。


「ゴメン、真司。

ウチ、まだ帰りたくない……。」


やばい。俺っちの彼女、ガチで可愛い。


普段あんなオラオラ系ギャルなのに、なにこれ?

『これでもか!』っほどのギャップで

俺っちをねじ伏せてくる明日香の攻撃力は

きっと俺っちの脳内ではカンストしてるんだろう(と思った)。


「んー、、、」


冗談はさておき、俺っちはスマホで今の時間を確認した。


「まだ21時過ぎだね。バイト終わりよりもまだ

時間早いから、少し公園とか寄ってく?」

「寄ってく!!!!!」


かぶせ気味に返ってきた明日香の返事を聞いて、俺っちたちは飯原公園に入った。2人して入口あたりに自転車を停める。

こっからなら明日香ん家もかなり近いし、なんかあったらすぐ送り届けられる(と思う)。


「あっ、ちと待ってて。」

「?」


明日香を待たせて、自販機で缶コーヒーを買った。


「はい、明日香!」

「あっ、サンキュ真司、嬉しい。」


彼女にブラックコーヒーを渡し、自分はカフェオレ(甘いやつ)のプルタブを開けた。


「んじゃちと座ろ。」


明日香をうながして、並んでベンチに腰掛けた。


リー、リー、、、リー、リー、、、


飯原公園(ここ)でも虫が鳴いていた。


「……なんか、落ち着くな…………。」

「―――うん。。。」


きっと、明日香の横にいるから俺っちも落ち着くのかな(と思った)。


まだまだ夜でも外気は暑かったけれど、空気はうだるような湿気はあまり感じられず、少しずつ秋が近づいて来ているのを感じさせた(と思う)。


「………………。」


夜空を見上げると、ペガサス座の秋の四角形が俺っちの目でも見て取れた。


あぁ、俺っち、幸せだなぁ。


大好きな彼女と楽しい時間を共有出来て

大切な明日香と落ち着いた時間を過ごせている。


こんな日が、こんな時間が、こんな一瞬が、、、


永遠に、続けばいいのにな―――――




「…………AKIRAくんがさ、

永遠なんてないって言ってたけどさ、、、」


ぽつりぽつりと俺っちは明日香に語り始めた。


「―――。おう。」


「俺っち、いや、俺は、この時間が

永遠に続けばって、今思ってる。

明日香と永遠にいたいって思ってる……。」


「し、しん……じ?」


明日香が俺の目を見つめてきた。


「うーん、上手いこと言えないんだけど、

永遠なんてないんだろうけど、

俺はこういう風に明日香といられるように、

その時間が永遠に少しでも近づくように

努力して行きたいって今思ったんだ。」


「―――――!!

ウチも、ウチも!!

ウチも真司と永遠にいたい!!

永遠に近づけるよう頑張りたいっ!!!」


俺は明日香にほほ笑み返した。


明日香は少し涙目だった。


「…………よくわかんないけど、

たぶん、こういう感覚が、

"恋"じゃなくて、"愛"なのかなぁ……?」


行きの電車で、明日香が岸川さんと話してた話題を持ち出してみた。


「…………ハハッ!

真司、ちょっとクセーんじゃねーの??///」


そうちゃかす明日香の右頬を、一筋涙が伝った。


公園の電灯が白く涙に反射して、彗星のようにまたたいて見えた。


「フフッ、んじゃークサイついでに、

もっとクサイ話してもいい?」


意味ありげに含み笑いしながら、俺は言葉を続ける。


「…………ふふふっ、聞かせてくれよ。」


晩夏の魔法か、初秋の魔力か。


普段なら絶対に恥ずかしくて言えない言葉が出てくる。


「いつだったか、ネットで読んだのを

今、思い出したんだけど

あ、さっきの"恋"と"愛"の違いの続きね。」


「………………おう。」


「"恋"って漢字は、"心"が下にあるから

"下心"なんだって。」


「――――ほう……。なるほ。」


「んで、"愛"って漢字は、、、」


「…………うん。」


「"心"が、字の真ん中にあるから……」


「………………。」


「"真心(まごころ)"なんだって……………………。」


「――――ま、ごこ、ろ……………………!!」


「―――うん。」


俺は、ここで身体ごと明日香に向き直った。




「だから、俺、、、

この気持ちが"恋"なのか、"愛"なのかまでは、

こんな気持ちになったの初めてだからまだ

よくわからないんだけど、

俺が明日香のこと大好きな気持ちは変わらない。

この気持ちは適当なんかじゃなくて、

真剣で本気な気持ちだと思ってる。

だから、この気持ちを、

俺は明日香に捧げたい。

大好きな明日香に捧げたい。って思ってる。


まごころを、君に………………。」




今の、嘘偽りのない思いのままを、

俺は明日香に伝えた。




「――――――――しんっじ…………!!」




明日香の両目から大粒の涙があふれて、そして明日香は俺に抱き着いてきた。


「えっ、あっ、あすかっっ??」

「しんじっ! すきっ!!

ウチもしんじ好き! 大好き!!!

真司ウチの真司愛してるぅわぁぁぁぁぁん!!!」


そして俺っちにすがり付きながら大泣きし始めてしまった。


俺っちは自分の黒いリュックから、今日物販で買った小さめのWIN-HAZARDのフェイスタオルを取り出して、明日香の顔をぬぐってあげた。


「うん。明日香、愛してるよ。」


自分でも信じられないくらいキザになってたと思う。


「――――しんじぃ……。」




濡れた瞳で俺っちを見上げる明日香に、

俺はキスした。




付き合ってひと月半だけど、

これが俺たちのファーストキスだった。




軽く触れ合う程度だったけど、

ほんの10秒くらいだったと思うけど、


その10秒は、まぎれもなく、

俺たちにとって、"永遠"だった。




「…………………………………………………………。」

「…………………………………………………………。」




そして、どちらからともなく唇が離れると、お互い気恥しさのせいか、うつむいてしまった。




「………………………………なァ、、、」


「………………………………はい。」


「………………ウチ、これ…………………………、

ファースト、キス、だったんだけど…………。」


「あ、お、俺っち、も………………………………。」


「そ、そっか……………………………………………。」


「う、うん………………………………………………。」


俺たちは、向かい合ったまま、

両手で両手をつないだまま、

少し戸惑ってうつむいたまま、


しばらく固まったままだった。


この、嬉しくも恥ずかしい、

誇らしくも照れくさい、、

そして、狂おしいほど、たまらなく愛おしい、、、


"永遠"を、感じながら……………………。


お疲れ様でした…………。

なんとか、今月中に幕間をお届けすることが出来ました…………。

真司くんと明日香ちゃんのスピンオフ、

いかがだったでしょうか。。。。

この2ヶ月間、魂を込めて執筆しました(大袈裟)

うっかり前日に誤爆してしまいましたが、もし見ちゃった人いたらごめんなさい……。


でも、なんて言うんですかね、

2章が終わった時点でも、こんななるなんて全く考えてなくて、

相原くんの下の名前が"シンジ"って決まってたのも深い意味なかったんですけど、

趣味というか思いつきで書いた人物紹介で、ギャル子ちゃんの下の名前を、ちょっとした遊び心で"アスカ"に決めてしまったら、もう止まらないですよねw

3章に入ってから、話が進むたびに

脇っちょで仲が進展してて、

行間を読ませるつもりもなかったんですけど、

悪ノリでくっ付けちゃいましたよね^^


ほんで、せっかくだから幕間で、

2人の馴れ初めでも書いてみるか~とか

軽い気持ちで書き始めたら

これまた、修羅の道でしたwww


前編:明日香編で46000字オーバー、

後編:真司編で23000字オーバー……!!


合わせて70000字を超える大長編になってしまいました…………!!!!


前編明日香編は、SNS形式なとこもあって、見た目より文字数行ってますが、

後編真司編のほうが、ぎゅぎゅっと詰まっていて、体感後編のほうが長く感じましたね~


おまけに、更新日時を、どーーしても!

WIN-HAZARD (架空のロックバンドです)のLIVE時間と合わせたかったので、

終盤はソシャゲとか我慢して一気に書き上げました………………!!

3章各話と内容もリンクしてるので「この時はこれくらいのフェーズだったのか!」とか見比べてみるのももしかしたら面白いのかもしれません。

だから、もしかしてですが後で読み直して

気になるところ改稿するかもしれません…………。


まぁ、なにはともあれ、相原君と大島さんの物語も、こうやってひとつの形に出来たことが本当に嬉しく思います。

もしかして自分、いちゃラブの才能あるんですかね…………

(当初はマリさんからのNTRとかも構想してたけどwwww)

そんでアレです。

世知&亜里紗と違って、この2人はめちゃめちゃピュアというか清い交際です(やっとファーストキスでしたから)

また違った鉄板カップルって感じで、作者もお気に入りだったりします♪


4章に入ったら、こんな空気、

微塵も感じなくなる予定なんですけどね。


でも、その最終章に至るまで、

まだ3個?ほど幕間の原案を用意しております。

いつになるかわかりませんが、マイペースに少しずつ書いて行きたいと思っておりますので、更新された際もしよろしければ、どうかよろしくお願い致します(⊃﹏⊂)


最後に、もし少しでもいいなとか思っていただけましたら、いいねとか評価ポイントとかブックマーク登録とかして頂けると、

個人的にすごく励みになりますし、もっと他の方の目に止まって読んでもらえるかな、と思いますので、可能でしたらご協力をどうかよろしくお願い致します。


(2025/08/29)



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