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わんにゃんパニック

 俺たち3人(?)は、拠点を目指して平原を進む。

 太陽が地平線の彼方に沈みかけ、日差しに茜色がまじる。

 果てしなく広がる平原は次第に赤く染めり始めていた。


 今日は肉体的な疲労よりも、気疲れした感じがある。

 その原因は、俺の後ろを優雅な足取りで付いてくる少女、ブルーメだ。


 花びらのようなドレスをまとった美しい少女の姿をしているが、彼女の気質はどうにも読めない。それは古い言葉を使うから、だけじゃない。


 テイムで仲間になったが、彼女には明らかに自分の意志がある。


 モンスターと言うより、すごい人間っぽい。だから俺のスキルが本当に効いているのか、彼女が本当にテイムを受け入れているのか自信がないのだ。


 そもそもの話になるが……。

 使っている俺でさえ、テイムのことをよくわかっていない。

 ――うーむ。


< くとぅ! くとぅ! >


「うん?」


 黒いスライムのノワが、足元で鍋を揺らしている。

 何か訴えたいことがあるようだ。


「どうしたんだノワ。何かあったのか?」


「しょごす。そなたも聞こえましたか」


「えっ?」


平原ひらはらは穏やかに見え渡る。されど気配ありし。花も打ち戦慄(わなな)く」


 ブルーメがそう呟き、風に揺れる花びらのドレスをそっと持ち上げた。

 彼女の声は柔らかくも、どこか冷たい響きを帯びていた。


「不自然な気配、ってこと?」


「さなり」


(うーむ……なんか嫌なフラグが立った気がする)


 俺は顔をしかめたが、内心では彼女の言葉に引っかかりを感じていた。

 たしかに異世界に来てからというもの、平穏な日は一日たりともなかった。

 毎日の密度が濃い。なにか作為的なものを感じるくらいに。


 少し気がかりだが、かといって拠点に戻らないと野宿になる。

 そのまま歩き続けると、丘の上にぽつんと立つ簡素なテントが見えてきた。


(ふー。ようやく戻ってこれたか。しかし……少し目を離したことで客観的に見れるようになって思うが、見れば見るほどひっでー拠点だなぁ。)


 俺の拠点はイノシシの皮をタープにして、骨を柱に作られている。

 ちょっと強い風が吹けば、たちまち完全解体されるだろう。

 せめて木造の家……丸太小屋くらいにはしたい。作り方わかんないけど。


(……ん?)


 拠点の周りを見た俺は、唐突に感じた不自然さに足を止めた。

 テントのまわりの草が踏み潰されている。何かがここに来ている。


 周囲の草は乱雑に倒れ、地面には奇妙な足跡が残っている。

 だが、それは人間のものとも獣のものとも言い難い、不気味な形状だった。


「クソッ、また何か面倒なのが来るパターンか?」


 どこからともなく、低いうなり声が聞こえてくる。獣?

 風向きが変わり、草が一斉にざわめく。そして、テントの影からゆっくりとその体躯をさらけ出したものは――なんとも名状しがたい生物だった。


 複数の生物の特徴が無理やり縫い合わされたような不自然な肉体。

 左にはふわふわの毛並みを持つポメラニアン犬の頭が愛らしく首を振っており、右にはハチワレ模様の猫の頭が細い瞳でこちらを睨んでいる。


 そして、双頭を支えているのは、まるで筋肉の塊と化した巨体だった。ゴツゴツとした体躯は筋肉の王国――「マッスルキングダム」とでも呼びたくなるほどの威圧感を放ち、地面を踏みしめるたびに小さな地震のような振動が伝わってくる。


「な……なんじゃぁこりゃぁ!!!」


 異形の肩からのびる両腕は異様に長く地面にまで届いている。手の先端には鋭い爪が生え、背中はひとり大山脈。まさしく筋肉の祭典だ。いや、そんなもん開くな。


「あな。〝きめら〟と見えけり」


「きめら? あ、キメラか!? ファンタジーRPGに出てくるモンスターの……って、キメラはわかるけど、何だよこれ!! 可愛い顔とムキムキボディのギャップが気持ち悪すぎるだろ!」


「左様なことをもうされても。〝きめら〟は〝きめら〟にありけるが」


< きめきめ!! >


 武器も無いのになんでこんなにモンスターがラッシュ仕掛けてくるんだよ!!

 いやまて、モンスターならテイムが効くはず……!


「九頭!!」


「えっ、うわぁ?!」


 ブルーメの警告と同時にキメラが吠えた。


 ポメラニアンの可愛らしい「ワーン!」ハチワレの「ニャーン!」という可愛らしい鳴き声とは裏腹に、その声は大地を揺らし、テントをビリビリと震わせるほどの迫力だった。そして、次の瞬間、キメラが跳躍し、俺めがけて突進してきた。


「――!!」


 鈍く光るキメラの鉤爪が俺に迫る。だが、すんでのところでブルーメが割って入るのが間に合った。


 ピンク色のドレスをひるがえしたかと思うと、突っ込んできたキメラのぶちかましは見当違いの方向に向かい、何も無い地面を掘り起こした。


 キメラの爪は地面を大きく抉り、土と草を天高く撒き上げる。

 その膂力(りょりょく)に俺の背中に冷や汗が流れた。


「さすがの怪力。褒めののしるに(あた)いますね」


「んなこといっとる場合か!!!」


 しかしマズイぞ。ガチで戦っても勝てる気がしない。

 ブルーメなら勝てるかも知れないが、あの肉の泡をここで作られても……

 拠点が血と泡だらけになったらちょっと困る。


 ここは……やはりテイムか?

 俺は深呼吸し、キメラに向かって声を張る。


「かわいいね……。きみのようなペットが欲しかったんだ……。」


 勝手に俺の口から流れ出すいつもの声に、キメラの動きが一瞬止まる。

 ポメラニアンの顔が首をかしげ、ハチワレが目を丸くしていた。


 やったか?! 俺がそう期待した瞬間――ポメラニアンの頭が「ワン!」と吠え、猫の頭が「ニャー!」と鳴く。


 そうして二つの声が不協和音で重なったかと思うと、巨体を震わせ、地面を蹴る。

 名状しがたい筋肉のテーマパークが、再び俺に向かって突進してきたのだ!!


「うそおおおおおお?!」






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