表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/15

サルベージ

 スライムのノワに続き、肉の妖精(なんだよ肉の妖精って)ブルーメを加えた俺たち一行は、静まり返った街の中へと入っていった。


 街をすっぽり包みこんでいた肉の泡は影も形もなくなっている。だが、それが幻ではなかったことを、街路に残った鮮血のような赤い液体が示していた。


(ひゃー……こりゃ大惨事だ)


 あまりにも非現実的で凄惨な光景を前にした俺は、正気を失いそうだった。

 しかし、心を強く持って足を前に踏み出す。

 これからこの異世界で生活をしていくためには、色んな道具が必要だ。

 怖気(おじけ)づいてはいられない。


「さて、まずは何から探そう……やっぱ、ナベとか食器かな?」


 スターターパックのカロリーメイトはそう長くもたない。

 いずれこの世界で手に入れた食材を使って、料理をする必要がある。


 だが、キャンプには料理に使える道具がひとつもない。

 フライパンやナベといった調理器具と、食器が必要だろう。


「よし、そうと決まれば手近なご家庭を探してみよう」


「しからば、みましにご同道さぶらうなり」


< ごかてー! >


 これを幸いと言っていいのかわからないが、街の家々は肉の泡に押しつぶされ、扉や壁がぶっ飛んでる。道具を求めて侵入する俺たちを防ぐすべはない。


 とりあえず、手近な一軒家に目星をつけた俺は、崩壊した玄関から中にはいった。


「おじゃましまーす!」


< おじゃじゃま! >


 まず最初に入った家は裕福そうなご家庭だった。リビングの壁に小ぶりの絵が飾られてるし、テーブルの上にはピカピカの銀食器が並べられてある。


「わ、カトラリーってやつか? アニメでしか見たことないぞこんなの」


 持ち上げた銀のスプーンやボウルには、職人が何ヶ月もかけて作ったような細かい細工がされている。元の世界だったら何十万円もしそう。


「ちょっと豪華すぎて、これでゴハン食べるのは、ちょっと気が引けるな……」


< ひけひけ! >


「さはありけむ。よろしき姿とりけるはしかるべし」


「えーっと……身だしなみは整えるべき、みたいな?」


「げに」


 花びらのような前髪を揺らし、微笑んで頷くブルーメ。

 どうやら合ってるらしい。


「まぁ、ブルーメだったら似合いそうだけどねぇ……」


 ザ・お姫様って感じのブルーメなら、銀どころか金の食器でも似合いそうだ。

 でも、プラスチックと瀬戸物しか使ったことない俺にはどうも……。


「ま、もらってくか。銀ならブツブツ交換にも使えるだろうし」


< ぶつぶーつ! >


 テーブルの上にあった銀食器をつみかさね、ふところに抱える。

 う、結構ずっしりくるな。


「このまま持ち帰るのは大変だな。お家の中に袋とかないかなぁ?」


< くとぅ、なべべー!>


「なべ? おぉっ、でかしたぞノワ!」


 俺が銀食器をかたしてる間に、ノワはどこからか黒鉄の鍋を見つけてきた。

 それもおとぎ話の魔女が使うような、口に取っ手がついた壺状の深鍋だ。


「こりゃいいや、あつめた食器はこの鍋の中に入れちゃおう」


< いれいれ! >


 俺はノワが体を張って支えている鍋の中に食器を入れた。

 だいぶ重いはずだが、ノワは鍋を置こうとしない。

 どうやらそのまま運んでくれるようだ。こりゃ助かるね。


「しかし、まるでヤドカリみたいだなぁ……」


< やどやど! >


 ノワの大きさは鍋の半分くらいだ。だもんで、

 彼(?)が鍋を運ぶとカタツムリかヤドカリのような見た目になる。

 ちょっとかわいいかもしれない。


「よーし、あとはキッチンで使う道具をいくつか拝借していくか」


 ダイニングからキッチンに場を移し、俺はその場にあった道具を回収する。

 野菜や肉を切るためのナイフ。鍋をかき混ぜるためのお玉。

 そういった料理に使えそうな道具を取っては鍋に入れていく。


< むぎゅぎゅ! >


「ごめんノワ、ちょっと入れすぎたな……これくらいにしておくか」


「さてありぬべし。夜しづかなれば、あやうし」


「うん……? 夜、静かになると危ないって?」


「そよや さることありきこえしもの、いかでか知らん。

 月光(つきあかり)なかりし夜は、闇より(あやかし)来たりてはばかるなり」


「ふむむ? よくわかんないけど……月のない夜は、暗がりから何かが来る?」


「げにさなり」


「なるほど。夜になる前に帰ったほうがいいってことか。なんか大事なことを言ってるのはわかるんだけど、ブルーメの言葉は分かりづらいなぁ……」


「わが主にはかたじけなし」


「気にしなくていいよ。ブルーメがこうやって人と話すのは数百年ぶりなんだろ? 今風の喋り方は、そのうち覚えてくれればいいさ」


「げに心馳(こころば)せ人」


< くとぅ! やさし! >


 ブルーメは着物(?)の袖を目元にやって、およよと泣くフリをする。

 むぅ。主といいつつ、俺のことをからかってるな。 


 ま、多少は大目に見よう。

 ブルーメはこの異世界で初めて出会った会話のできる相手だからな。

 機嫌を損ねても仕方ない。


 それに彼女はこの異世界のことをよく知ってそうだしな。


 ……あ、そうだ! 古語をあやつるなら、昔のことも知っているはず。

 となると、キャンプにあった奇怪な建物(モノリス)のことも知ってるかも。


 拠点に戻ったら聞いてみるか。


「よーし! 遠征はここまでとして、キャンプに帰還するぞ!」


< かえるる! >



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ