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8. ハブーブ(砂嵐)の夜

「リキタの家に鏡はないのかい」

サララはこの子は自分の瞳の美しさを見たことがないのかと思った。


「ありますよ。爺さまが髭を整える時に使った鏡が。でも、あれは兄さんが髭を剃る時に必要だから、持っていきました」

「おうおう、ジェッタもついに髭を剃る年齢になったなんて、困った話だ」

「何が困るんですか」

 

 サララは意味深に笑ってリクイの腕をつかみ、人混みをかき分けて、ある出店の前に来た。台の上には、木でできた大小の円形のものが並んでいた。

「ほら、選んでごらん。どれが好き?」

 サララの瞳が笑っている。

 

 リクイがそのひとつを手にとって返してみると、表は丸い鏡で、緑の瞳が映っていた。これがぼくの目、ぼくの瞳は本当に緑なんだ。

 そう思って通り過ぎる人々を見ると、その中に、緑の目の人はいなかった。サララの顔が鏡にはいってきて、リクイの顔に並んだ。


「好きなのを選びな。プレゼントするから」

「いいですよ」

「このサララ姉さんが買ってあげると言っているんだから、遠慮するもんじゃない」

 リクイは鳥と蔦が彫ってある手鏡を手に取ったけれど、それは戻した。サララに決めてほしかったから。

「優柔不断な子、こんなことも決められないの」

 とサララは笑って、その鳥と蔦の鏡を選び、店主に「リキタへ」と彫ってくれるように頼んだ。

「サララ姉さんの名前も彫ってください」

「わかった」

 サララは「サララ姉からリキタへ」と彫るように頼み直した。リクイとしては、「サララからのリクイへ」がよかったけれど、それは言えない。


 リクイは鏡の包みを抱いて、時々、撫でてみた。人混みの中を歩いていても、自然と微笑みがこぼれた。

「リキタは、なにがそんなにうれしいのさ」

「なんか、とてもうれしいです」

「忘れるんじゃないよ。これからどんな辛い日があってもさ、夜が明けたら、別の日が来るってこと」

 

 リクイはあの昨日の続きに、こんな日が待っていたなんて、考えてもしなかった。

「はい」とリクイは頷いた。

 

「苦しみなんて、砂嵐ハブーブの夜と同じさ。そのうちに止む。これまで砂嵐が止まなかったことはなかっただろう。今回は絶対に止まないと思った時もあったけど。運命は変えられなくても、考え方は変えられる」

 はいとリクイがまた頷いた。ものすごいハブーブは何度もあった。でも、やがては止んだ。


「そういう時は、リクイはただ毛布にくるまって、嵐が止やむのを待っていたのかい」

「そうですけど」

「そうかい」

 とサララが少し厳しい目をした。


「それではだめなんですか」

「ただ縮こまって待つだけではなくて、いろいろと対策を考えたり、これからの計画とかを考えることもできるんじゃないのかい」

 

 ああ、そうなのだとリクイは思った。

 我慢して耐えるだけではなくて、そういうこともできるのだった。なぜそんな簡単なことが思い浮かばなかったのだろうか。

 サララがその経験から、ぼくに生き方を教えようとしてくれていることをリクイは思う。ぼくは言われたことは、全部、守る。


「どっちにしても、本人次第さ」

「はい」

 とリクイが頷いた。

 でも、ぼくにはできるのだろうか。

 今、ぼくは朝が悲しくてならないんです。

 それも変えられるのだろうか。それは、どうやって・・・




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