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86. 夜中の爆発

 夜中に、宮廷に爆音が響いて、大地が揺れた。

 眠っていた人々は何かの祟りで大地が張り張り裂けたのかと思い、寝間着のままで、前庭へと走り出た。黒い煙が出ていたから、爆発場所は銀倉庫だとすぐにわかった。


 ハヤッタはローブを羽織ったまま国王のところに走ったが王は落ち着いており、そこへ警備長が報告にやって来て、ふたりを現場に案内した。

 倉庫の横の壁が破壊されていて、ギザギザの丸い穴があいていたまだ煙が漂っており、火薬の酸っぱい臭いがした。


「何を盗られたのか」

 と王が訊いた。


「いいえ、まだ何も。門から外へは、何も持ち出した者はおりません」

 と警備長が胸を張った。

 

 警備長が中にはいろうとしたが、ハヤッタがそれを止めて、自らが腰をかがめて中に入った。この中には王と王弟殿下の許可がなくては、誰もはいるこができない場所である。


 ハヤッタは中の安全を確かめた後、穴から顔を出して、国王にはいってくださいと促した。

 銀のはいった箱が並んでいた。数はちゃんとある。

 ハヤッタは持ち上げてみて、箱が異常に軽すぎることに気がついて、警備長にエンマを持ってこさせ、そのくぎ抜きで中の木箱のひとつを開けた。


 箱は空だった。

 それを見て王とハヤッタは絶句し、青くなった顔を見合わせた。


 ハヤッタが木箱を次々と開けていくと、なんと三分のニの箱が空で、そこにはいっていたはずの銀塊が消えていた。


「昨今に盗まれたとは考えられません。長い時間をかけて、運び出されたと思われます」

「うむ」


 もう王弟が気分を害することを心配している場合ではなかった。国王は部屋に戻り、頑丈な鍵箱を開けて、ハヤッタに鍵の束を渡した。


 ハヤッタはニニンドを呼び、朝までかかって、ふたりで金と銅の倉庫をも調べた。銀庫と同じく、そこにあるべきものが半分以下しかなかった。


「殿下、これは国家の危機です」

「はい。どうすればよいでしょうか」

「まずは誰にも知られないようにすることです。この状態が敵国の耳にはいったら、おしまいです」


 翌日の午後に、マグナカリ王弟が疲労困憊した様子で、宮殿に戻ってきた。爆破事件のことを知らされたとたん、彼は呼吸困難に陥り、医師が呼ばれた。


 少し落ち着くと彼は震える手で「ブルフログを呼べ」と紙に書いた。しかし、いつになってもブルフログが現れることはなく、王弟は高熱を出して意識朦朧となり、また医師が呼ばれた。彼の王宮の入口には「面会謝絶」、「物音厳禁」の張り紙が貼られた。


 ハヤッタが師団に送った部下達が報告書を持参して、次々と戻ってきた。都に近いほうはまだよかったが、僻地の師団はどれも、給料の遅配、食料の減量などに苦しめられており、ハヤッタが危惧していたことが、現実に起っていたのだ。


 ハヤッタは驚いたり、嘆いたりしている場合ではないと覚悟を決めた。この国家の一大事を、どうにかして乗り越えなければならならない。

 

「ジェットよ、きみはこのとこを伝えようとしていたのだな」

 とハヤッタは拳を強く握った。何をどうすれば、きみの果敢に行動に応えられるのだろうか。


 今、J国の倉庫には充分な資金がなく、兵士には約束した給料が支払われておらず、充分な食糧さえ与えられていない。このことを敵国が知ったら、時機到来とばかりに攻めてくることだろう。その前に、何とか手を打たねばならない。ハヤッタは一晩考えて、王に進言した。まずは金庫に残っている金塊で、兵士に給料を払い、食料を送るべきである。

 

「金庫が空になるということだな」

 と王が言った。

「はい。その間に、この金庫の状態が敵国に知られたら、万事休すです。これは一か八かの賭けです。とういたしますか」

「躊躇している時間はない。進むのみ」


 そして、国の財産が、誰により、どこに流れていったのかを追及し、できるかぎり奪還する。剥奪された額は膨大で、外国にでも流れていないかぎり、まだ国内に残っている可能性が大である。あるかぎりの資金を各地に投資して、産業を興す。


 王はハヤッタの肩に手を置いても「頼む」と言った。

 わかりました、とハヤッタは答えたが、目の前には、解けるかどうかわからない謎がたくさんあった。まずはブルフログを捜さなければならない。王弟殿下自身がそんな大それたことを考える人物でないことは知っている。その裏で暗躍しているのはブルフログだろう。しかし、思いつく限りの手は尽くしてはいるのだが、ブルフログはどこにもいない。



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