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83. ジェットの親友キナン

 一向が第七師団に着いたのは正午過ぎだった。

 その時、多くの兵士は食堂にいたのだが、その出された食事を見て、ハヤッタの表情が厳しさを増した。その食事がかぼちゃのスープに芋だけというあまりにも貧相なものだったからだ。

 

 ハヤッタは馬車に積んできた乾燥肉を与え、兵士から話を聞こうとした。初めはどの程度話してよいものだろうか。裏に何かがあるのではないかという猜疑心があったが、ハヤッタが信用がおけそうなお方で、胸を開いて現状を聞こうとしていることを感じ、兵士たちは唾を飛ばすようにして話し始めた。


ジェットは二月ほど前に、兵士達の困窮を訴えるために宮廷に向かったのだ。給料の減額と遅配、食料の減配、郵便の不配達などの現況を訴えるために出かけたのだった。


「やはりそういうことだったか」

 ハヤッタの眉間の皺が深くなった。

 

 彼はさっそく帳簿や倉庫を調べさせたが、その厳しい現実は予測をはるかに超え、いつもは泰然としているハヤッタの表情にも恐怖のようなものが見られた。

 何かとてつもない策略が密かに企てられていて、これがどこまで浸透しているのかはわからないが、ここままではJ国が滅ぶかもしれないとさえ思った。


「途方もないことを企んでいる狂者がいる」

 ハヤッタはすでに手遅れでないことを祈った。今は一刻も早く真相にたどり着き、手を打たねばならない。


 ハヤッタが食い入るように帳簿に目を通している時、ひとりの痩せた兵士がリクイに近づいてきた。


「きみはリクイくんではないですか」

「はい。そうですけど」

 彼はキナンと名乗り、ジェットの親友だと言った。


「ぼくはジェットの弟です。キナンさんは兄さんの親友なんですか」

 リクイは瞳が喜びで輝いた。 

「ジェットはきみのことをよく話していたから、すぐにわかった。ジェットはきみの瞳が美しい緑だと言っていたけど、本当だね。ぼくは緑の瞳を見るのが初めてなんだ」

 リクイは目が緑でよかったと初めて思った。


「ジェットほどよい人間はいませんよ。いつも人のために頑張ってばかりいた」

 ジェットが最初に組織に不審を覚えたのは、高い切手代を払って手紙を出しても、いつまでたっても返事が来ないからだった。弟は手紙を受け取ったら、絶対に返事をくれる。だから、それが何度出しても返事が来ないということは、誰かが途中で切手代をネコババしているのに違いない。


「ジェットはきみのことをそれほど信じていたよ」

「はい。ぼくも、兄さんが手紙をくれないなんて、おかしいと思っていました。やっぱりそうでしたか」

「それから、都に行った理由はもうひとつ」

 

 キナンはサディナーレ姫のことを話した。ジェットはそのことを親友にだけは話していたのだった。彼女はH国の姫だが、グレトタリム王に輿入れの行列が国境近くで襲われて、河原で倒れているところをジェットが助けたのだった。姫が都まで連れていってほしいとジェットに頼み、彼はそれを引き受けたのだった。


「彼らしいだろ」

 とキナンが言った。

 うん。兄さんならやりそうだとリクイは思った。兄さんは、頼まれたら、断ったことがない。

 

 リクイはキナンを連れてハヤッタのところに行き、姫とのことをもう一度、説明してもらった。

 サディナーレ姫は急襲を逃れ、偶然ジェットに助けられて生きていた。あの四季のストールはやはり姫のものだったとハヤッタは納得した。


「これで話はつながった」

 ハヤッタは家来に命じて帳簿をすべて馬車に積み込ませた。

「さあ、帰ろう」

「着いたばかりなのに、もう帰るのですか」

「そうなのだよ。我々には、もう一刻の猶予もないのだ。ジェットくんの果敢が水泡に帰してしまわないように」


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