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79. サンクリカンド様ですか

「ブルフログはどこだ」

 ハヤッタは部下のひとりを宮廷に帰し、ブルフログが戻ってきたら捕獲しておくように命令した。


「その女性がH国の姫だとしたら、一緒にいた男性は誰なのでしょうか。リクイのお兄さんは国境の兵士でした。姫は国境近くで襲われています。何か関係があるのでしょうか」

「とにかく、もっと松明を用意させて、今夜は捜査を続けよう。朝になれば、カヌンからの知らせがあるはずだから、彼がジェットかどうかがわかる」

 とハヤッタが言った。


 鬼ヶ岳の大きな松明がいたるところに設置され、宮廷からのさらなる応援隊も次々と到着し、知らない人が見たら、まるでお祭り騒ぎのようである。一般人の野次馬が増えて、捜索隊から捜索の邪魔だと怒鳴られていた。

 その見物人の中に、小枝拾いに来ていたきこりがいて、首を伸ばすようにして様子を伺っていた。その目は吸い付くようにしてリクイに向けられていた。リクイが近くに来た時、背中の背負子を地面に降ろして、頭を何度も下げながら手招きした。


 リクイが近づくと、彼はリクイの顔をまじまじと見つめた。

「あなたはサンクリカンド様ですか」

「いいえ。リクイと言います」

「そうですか」

「サンクリカンド、とはどなたですか」

「失礼しました」

 その男は質問には答えなかったが、がっかりしたような表情を浮かべた。「悪いことは言いません。どうぞ、ここから逃げてください」


「なぜですか」

「あなたのその瞳が緑色だから」

「緑色なら、なぜ逃げなければならないのですか」

 樵はそれはと口ごもり、話題を変えて、自分は馬車が谷に落ちる瞬間を近くで見ていたのだと言った。男女がふたり、手をつないで、微笑みながら飛び降りたのだと。


「ふたりで手をつないで、飛び降りたのですか」

「はい。私が谷の傾斜のところで薪を拾っていたところ、すぐ上をふたりが飛んだのです。それを変な目つきの男がじっと見ていました。だから、早く逃げたほうがいい」

 リクイには彼の言っていることがわからない。

「その飛んだ場所はどこですか」

「あそこ」

 

 ここで待っていてくださいと言って、リクイはニニンドを呼びに行った。しかし、ニニンドを連れて戻ってきた時、その中年の樵の姿はなかった。


「あれは兄さんではないことは確かだ」

 リクイには、ジェットが女性と手を繋いで谷に飛び降りるなんて考えられない。だから、あれは兄さんであるはずがない。

 だとしたら、馬車に連れ込まれたのは誰で、小枝拾いの男は誰なのだろうか。樵はどうしてぼくをサンクリカンドと呼んだのだろうか。

「ニニンドはサンクリカンドって、知っているかい」

「サンクリカンド? どこかで聞いたことがある名前だ。ああ、国王の二番目の王子だったと思う。子供の頃に亡くなっている。どうして?」

「いいや。別になでもない」


 空が白くなってきた頃、松明が燃え尽き、次の捜索隊が到着した。ハヤッタは宮廷に戻ったが、王弟の姿は宮殿から消え、ブルフログも見つかってはいない。ハヤッタは身体を洗い着替えて考えを整理し、方針を考えてから、国王に報告に行った。

 もしかしたら、サディナーレ姫が生きていて、宮廷を訪れたのかもしれないと伝えた。国王はどういうことなのかと驚きを隠せなかったが、すべてを彼に託すと言った。


 ハヤッタは国境の師団に関する厚い出納長や行動記録をもって来させた。簿記上は不審なところは一切なく、順調に動いている。兵士からの苦情も、何も届いていない。

「すべて円滑にいっているようですね」

 とニニンドが言った。


「全く問題が何もないというのがあまりにも不自然だ。なにかおかしい」

 ハヤッタは今まで見せたことのない形相で帳簿をめくり、眼鏡を外した。

「殿下、しばらくひとりにしていただけませんか」

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