55. ふたりの未来
廊下を歩きなから、ニニンドは右に左に首を曲げて伸ばして、両手を広げた。
「ニニンド、すごくうれしそうだね。ほっとしているの?」
うん。
ニニンドが朗らかに笑って、くるりと回った。
「人生って謎の多いゲームみたいなもんだね。先のことはわからない」
「カイリン様って、本当に王弟殿下の子供だと思いますか」
「そう思う。伯父上がそう言われているのだから、そうなんだろう」
「誰の子かなんて、どうやって証明できるのでしょうか」
「結局のところ、誰が親かなんて、誰にもわからないんじゃないのかい。世の中は、誤解に満ちているのかもしれないね」
「そうかもしれません」
「私はまた自由になれるのかな」
ニニンドは床に片手をついて、一回転した。
「できれば私もキャラバンに加わって、いろんなところを旅したい。はるか東の海の向こうにあるという黄金の国を見てみたい」
「サララのキャラバンに加わって、ということですか」
「入れてくれたらの話だけど。たぶん断られる気がする。リクイは学校が終わったら、どうするんだい」
「ぼくも旅に出たいけど。でも、ぼくにはやりたいことがあるんです。兄さんの帰りを待っていたいし」
「じゃ、リクイの兄さんが帰ってくるまでここにいいて、その後で一緒に旅に行くというのはどうだい」
「そんなことができたらいいけど」
「リクイのやりたいことって、なに?」
「サララのお母さんが住んでいる町に、ハ二カ先生というすごい名医がいて、前に助けてもらったことがあるんです。いつか、あんな先生になれたらと思っています」
「そうか。ちゃんと計画があるのか」
「ニニンドは」
「そうだなぁ。吟遊詩人になろうかな。詩を読みながら、諸国を巡り歩くというのはどうかな」
「えー、不思議なものになりたいんだね」
「父親という人が吟遊詩人だったらしいんだよ。それに、私はダンスもできるし。金を稼ぎながら、詩を詠んだり、踊ったり。これ、いいな」
そうだ、とニニンドが宿題のことを思い出した。
「部屋に来ないかい。一緒に詩を作ろう。急に考えが浮かんだんだよ」
部屋に行くと、ニニンドの頭には詩が出来上がっているようで、さらさらと紙に詩を書いた。
「きみは砂漠の雨
雨が降ると、枯れた大地に花が咲く
明日は雨ならいいのに」
「どうして雨なの?砂漠にはめはなかなか降らないのに」
「リクイにはわからない」
「どうして」
「まだ子供だからさ」
リクイは古い詩を読んだり、暗記したりするのは好きだけれど、自分で詠むのは得意ではない。
何も浮かんでこないから、リクイも「砂漠」を詠うことにした。
「夜のとばりがおりる時、
満天の星輝き、静寂が広がり、
ぼくたちは星の歌を歌う」
「ほく達って、それ、恋の歌?」
「兄さんとのことを思い出したんです。もしかして、ニニンドのは恋の歌ですか」
ニニンドがふふふと笑った。どうも、そうらしい。
「ニニンドは詩作が得意なのは、詩人だったお父さんの血が流れているからかもしれないね」
「かもしれないけど、でも、彼は浮気者だったらしいから、そこは似たくはない」
「そこ、かなり似ていると思うけど」
「どうしてそう思うのさ」
ニニンドの顔が真剣になった。
「冗談だよ」
「冗談なんか言ったことのないきみが、急に言うから、驚くじゃないか。そういうことは言うなよ。絶対に違うから」
「わかった。わかったから、そんなにキリキリするなよ」
「リクイの父親はどんな人なのだろうか」
「全然わからないけど、詩人でも、浮気の人でもないと思います」
「リクイの父親なら、律儀で、堅物だろうな。そして、めったに冗談は言わない」
「そう思う?」
「ははは、すぐに本気になる。リクイのお父さんは、きっとハヤッタ様みたいな人だ」
「ハヤッタ様?」
「ハヤッタ様のことは尊敬しているけど、お父さんじゃないほうがいい」
「どうして」
「一日中、一緒にはいたくはないです。疲れますから」
「それ、言えてるね」




