48. ラクダパンツ
ニニンドが急に部屋に現れたので、ナガノが手にもっていた餅を袖の下に隠した。
「若さま、こんな時刻に、どうなさいましたか」
ナガノは夜のおやつを食べている現場を、ついに見つけられてしまったかと慌てた。痩せようと食事を減らすと、夜になって空腹になり、逆効果の連鎖が止まらないのだった。
「食べようとは思いましたが、まだ食べてはおりません」
「前に、サララが訪ねて来なかったか」
ニニンドはナガノの心をのぞき込むような目をして訊いた。
「ああ、そのことでしたか。ずいぶん前のことですが、一度ありました」
「どうして言わないんだ」
「サララさんは、足の軟膏をもって、このナガノに会いにこられたのですよ」
「私にも、何かもってこなかったか」
「ええ。そのことはお伝えしましたけど」
「聞いていない」
「言いましたよ。贈り物は、すべて届け物部屋にいれておくようにと言われているではないですか」
ニニンドのところに届けられる贈り物は多いのだ。特に、王子になってからは、倍に増えた。食べ物以外の贈り物はすべて一部屋に集められているのだが、彼は興味がないから、ひとつも開いていない。興味がないのではなくて、実はチャンスがあれば逃げ出そうと思っているので、どうせ返すことになるのだから、あけないほうがよいと思っているなのだ。
ニニンドがその部屋に行くと、届け物が山のように積まれていた。
すごいな。
こんなに届いているのか。
この宮殿に引っ越しする前の届けものは、下のほうにあるはずだ。
これだ。
ニニンドは茶色の包みを見つけて引っぱりだした。こういう粗末な包みはこれだけだったから、目立った。
麻の紐に小さな紙がはさんであり、「屋根は危険だ、狙われるから注意せよ。サララ姉」と書いてあった。
「姉か。サララらしい」
とニニンドが笑った。
ニニンドがラクダパンツと軟膏をもって、屋根に戻ってきた。
「あったよ。贈り物が積まれている部屋の、下のほうにあった。ありがとう」
「よかったです。届いているとばかり思っていました」
ニニンドはふたりが目の前に現れて、手渡してくれるところを想像していたので、そんなに早く届いていたとは思ってもしなかった。
「あんな約束、忘れてしまったかと思っていた」
「どうしてですか。約束を忘れるわけが、ないじゃないですか」
「リクイが言ってくれてよかった。でないと、ずうっと気がつかないでいるところだった。悪いことをしたなぁ」
「ぼく、伝書鳩を連れてきているんです。今、訓練中です」
「ありがとう。ラクダパンツが届いているとは知らなかったなぁ。言ってくれて本当によかった」
ニニンドが繰り返した。
「じゃ、もうひとつ。こんなことを言ったら、ニニンドは気を悪くするかもしれないけど」
「なに?サララのこと?」
「いいや。授業のことですけど、宿題くらいはやって来たほうがいいですよ」
「それかい」
ニニンドは目を盃型にして下を向いたが、顔を上げた。「それはそうなんだけど」
「ニニンド、きみには授業がやさしすぎて、やる気が出ないのかい?」
「それは、違うよ」




