表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/133

47. 授業の開始 

リクイとニニンドの巻

 秋の初めに授業の準備が整ったという連絡があり、リクイは宮廷に参上した。

入学の祝いに、サララのお母さんとタンタンが服を用意してくれた。上は長袖の白シャツで、襟とその周辺には茶色と赤のふちどりが縫い付けられている。下は茶色の短めのゆるいパンツで、サララが自分で編んだ赤い紐を首にかけてくれた。


 宮廷では第一王子が住んでいた宮殿が改築され、ニニンドがそこの新たな主人になったのだった。それまで同じ部屋に同居していて、入口で目を光らせていたナガノだったが、今度は同じ宮殿の一室を与えられ、不満顔で引っ越しをした。


 リクイが宮廷につい、門番に学校の場所を訊くと、王宮に学校などないと言われた。

 やっぱりそういうことか。たくさんの給料をくれて、勉強させてくれるなんてありえない話だ、と心のどこかで思ってはいた。

 しかし、王宮事務局からの手紙を見せると、その教室は王子の宮廷内にあると言って案内してくれた。

 あったのか。

 一瞬でも村に帰れると思ってうれしかったから、がっかりしたような、ほっとしたような気分がした。


 学校がちゃんとあっただけではなく、リクイは王子の宮殿の中に個室を与えられた。その部屋ときたら、村の爺さまの家よりも広かった。

 

 宮殿の主であるニニンドの部屋に挨拶に行った時、リクイは彼を遠くに感じた。以前とは住んでいる場所も、衣服も違っただけではなく、王子らしい風格を感じさせていた。

 リクイは今、自分がすべきなのは、しっかり勉強すること。この与えられた仕事を務めあげようと思った。

 

 ニニンドの宮殿には学習室があり、そこで授業が行われるという。毎朝、専門分野の先生がやってくるのである。

 リクイは本を読むのは好きだが、勉強は自己流で、大体学校というところで学んだことがないのだった。だから、先生の講義が理解できるかどうか、とても不安だった。選抜された優秀な生徒と並んで、うまくやっていけるのだろうか。


 初日に、リクイが学習室に行くと、そこには誰もいなかった。リクイは三十人の生徒がいると聞かされていたのだが、部屋に用意されている生徒用の机はたったふたつで、それがたてに並んでいた。

 これって、王子とふたりだけで学ぶということなのか、と思ってすくみ上がった。


 リクイが後ろの席に座っていると、ニニンドがおもむろにやって来て、あごで前の席に移れと合図した。それでリクイが前の席に座り、先生を目の前にして講義を受けることになったのだ。


 歴史、哲学、天文学、数学など、その内容は難しかったので、リクイは毎晩、遅くまでかかって宿題を終わらせ、予習をした。三年間、なんとしても落第しないで、授業についていかなければならないのだ。

 サララがくれた赤い紐は落第しないためのおまじないで、それにすがる日々が続いていた。


 リクイは懸命に学業に励んだ。宿題は忘れたことがなかったし、積極的に質問もした。

 ところが王子ときたら、いつも余裕の様子で、毎日のように遅刻をしてきたし、時には居眠りをしたり、落書きをしているようなのだった。


 王子が学習室にふらりと入ってくる時、先生に向けて二本の指を上げると、それは「昨夜は会議で多忙だった」という意味で、宿題は免除された。


 彼は毎晩、宮廷の会議に出ているようで、課題などやって来たことがなかったし、試験は意味がないと拒否した。それでも、彼は王子だから、なんでも通るのだ。

 リクイはこの高貴な学友に、何度か話しかけようとはしたが、声をかける勇気がなかった。

 

 ニニンドが毎晩忙しいのではないことに、リクイは気がついた。夜には宮殿の屋根にいて、笛を吹いていることが多かったから。

 

 ある夜、リクイは思い切って屋根に上がってみた。屋根というところは思ったよりも高くて、足がひとりでにがくがくと震えた。

「お邪魔してよろしいですか」

「いいけど」

 

 リクイは高いところが得意ではないので、屋根に手をつきながら、ぎこちなく近づいて行った。

「今夜は会議はないのですか」

「ない。用事はなに」

「それが」

 

「屋根を案内しようか」

「それは、遠慮します」

「私に何か用事か」

「殿下、あのう」

 呼びかけるリクイの声が少し震えた。


「そういう呼び方はなしだったろう、リクイ」

「いいんですか」

「ちょっとこっちにおいで」

 とニニンドが手招きをした。

 

 リクイがそばに行くと、顔をくっと近づけて、

「本当に緑色なんだ」

 と両手で顔を挟んだ。

「やめてください。物ではないのだから」

「物でないは、よかったな」

 とニニンドが笑った。


「ぼくは、ラクダと鳩のお礼を言おうと思って来ました。直接、言っていなかったから」

「そんなことは、いい。私が用意したわけではない。サララはラクダが気にいったかい」

「とても」

「それはよかった」


「あのう、ラクダパンツと軟膏は役に立っていますか」

 えっ。ニニンドが不思議な反応をした。


「送ってくれたの?」

「もうずうっと前です」

「ずうっと前?」

「ラクダや鳩が届く前です。サララ姉さんがキャラバンの途中で届けました。ニニンドは狩りに出かけていていませんでしたけど、メモを残したと言ってました」

「ちょっと待ってて」

 ニニンドが屋根から飛び降りて、駆けて行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ