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45. 王宮の学校

 ある日、リクイはアカイ村の役場に呼び出された。兄からの手紙が届いたのか。それとも、悪い知らせかと思って、どきどきしながらサララと出かけていったら、リクイに宮廷で働く気はないかという打診だった。


「ありません」

 とリクイは即答した。

 宮廷の仕事といっても、何かの見習いか小間使いかと思ったし、今は村での仕事が軌道に乗ってきたところなのだった。


「ジェッタからの手紙じゃなかった」

 とサララがものすごくがっかりしていた。

「でも、怪我をしたとかいう悪い知らせではなかったから、それはよかったです」

「リキタはとうして、いつも、そんなに前向きでいられるんだい。わたしは食欲がない」

 と言いながら、ふところから高級な菓子を出した。


 それから二ヵ月くらいした時、今度は村長がリクイの家まで手紙を持ってわざわざやって来た。何事かと驚いたら、宮廷に新しく学校が開設されることになったので、その生徒の候補に選ばれたというのだ。

「どうしてぼくが」

「リクイの頭のよい評判が都まで伝わったのだろう。なんでも、王宮に王子のための特別学校ができるようだ。その学友候補が、この村から選ばれることは名誉なことだ」

 と市長は喜んでいた。

 

 リクイは王宮の学校で勉強ができるのはうれしいけれど、今、村を離れることは考えられなかった。

 伝書鳩の訓練は順調だったし、野菜もうまく育っていた。鳩の糞が効いたようで、ナツメヤシも少しではあるが、実をつけるようになっていた。

 前のようにたくさん実るようになったら、生で売るだけではなく、蜂蜜漬はちみつづけにしてはどうかと考えて、そのために蜂を飼ってみようかと計画していた。また市場では自家製の軟膏がよく売れていた。

 それに、キャラバンサライから飛んでくる鳩の連絡係の仕事もあったし、サララのそばにいて役に立ちたかった。


「学校に行くのは悪い話ではない」

 とサララが言った。

「でも、ぼくはこの村を離れたくはないです」

「こんないい話、めったにない。授業料はいらない上に、給料が出ると書いてある」

 手紙にはリクイが一ヵ月に稼ぐ十倍の給料がでて、三年勤めれば兵役は免除してくれると書いてあるのだった。


「ヤシと畑は、その給料で人を雇ってやらせたらいい。わたしが面倒をみてやるから」

「それはうれしいですけど、でも、勉強についていけるでしょうか。王宮の学校なんかに行ったら、ぼくは落ちこぼれになると思います。落第点を取ったら、追い出されると書いてあるじゃないですか」

「村長は王子のための学校と言っていたけど、王子って、ニニンドのことじゃないのかい。あそこには、ほかに、王子と呼ばれるような人がいないだろ。あいつがいるのなら、大丈夫だ。そんなに利口そうには見えなかった」

「利口そうでしたよ。運動もできるし」

「そうかい。いやかい」

「いやではないけど、ぼくが授業についていけるとは思えないんです」

「ついていけるように、頑張ればいいさ。リキタはたくさん本を読んでいるから、大丈夫だ」

「でも、爺さまの本は限られているから、知らないことも多いです」

「リキタなら、できるって」


 リクイはなかなか決心がつかなかった。クラスのみんなについていけるかどうかも心配だけれど、それより、三年間もこの村を離れて暮らさなければならないことを考えると、ためらってしまうのだ。


 その夜、リクイはロバのスマンに話しかけた。

「ねえ、どうしたらよいと思う?」

「ぼっちゃん、今、とてもうまくいっているから、離れたくないのはわかります。でも、目先のことにとらわれてはだめですよ。坊ちゃんが十八歳になって兵役に行ったら、五年も離れることになるんですよ。それが三年で済むという話ですよ。ジェットさんが帰ってきたら、すぐに一緒に住めるというものじゃないですか」

「それは、そうなのだけれど」

 このままでいたい。この日常がかわってほしくない。でも、うまくいっている時にかぎって、変化が降りかかってくるのだ。


 リクイは期限ぎりぎりのところで都に行く決心をして、サララのところに報告に行った。

「サララ姉さんは、ひとりで大丈夫ですか」

「何言ってんの? わたしは子供の時からひとりでやってきたんだ。時々、会いにいくから」

「会いに来てくれるんですか。絶対ですよ」

「うん、リキタのことは心配していない。頭もいいし、勉強は好きだし、クラスで一番になるだろう。でも、あいつの頭の程度はどうなのだろう。性格も悪いし」


「ニニンドは親切な人じゃないですか。この間、姉さんがラクダパンツを届けた時、会えなかったんですよね」

「あいつは国王のお供で、狩りに出かけていた。そういうのは、得意らしい。わたしはキャラバンの途中で寄っただけだから、別に会えなくても、それはいいんだ。あいつはいなくても、ナガノという乳母がいて、高級菓子までもらった。あのおばさんはよくしゃべって、おもしろい。あいつの話をいろいろと聞かせてもらった。あいつは、ほんと、馬鹿だ」

「サララ姉さん、これからは言葉を慎んだほうがいいですよ。ニニンドは王子なんですからね」

「あいつ、王子じゃないと言っていたのに。すぐにS国に帰るようなことを言っていたのに、気が変わったのか」


「王子って、いつかは国王になるんでしょうか。ニニンドって、国王になるタイプではないですよね」

「ない。あいつが国王なら、リクイのほうが向いている」

「姉さん、急に変なことを言わないでください」

「キャラバンの仲間が言っていたけど、なんでも、近く、国王が新しい妃を迎えるようだ。そこに生まれる男子が、次の王になるらしい。だから、ニニンドが王になることはない」

「グレトタリム王って、もうお爺さんじゃないんですか」

「年をとっても子供は生まれるんだよ。爺さんの本に書いてなかったのかい」

「うちには、そういう本はないですから」

「まっ、ないだろうな」


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