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44. 友達選び

 ナガノはニニンドの無事を祈りすぎて、すっかり膝を痛めてしまったので、動くのがますます不自由になった。それでも、若さまが無事で帰って来たので、その甲斐は充分にあった。お顔の傷も跡かたなく消えて、ナガノはほっとした。


「もう二度と、そのお美しい顔に、傷などつけないでくださいませね。もったいないことですから」

「ナガノは何かと美しい顔と言うけど、それは二度と言わないでほしい」

「なぜでございますか。お父さまによく似て、超のつく美男子でございますよ。この世の中に、こんな美しい男子はおられません」

「そういうことも、やめてほしい」

「急にそんなことをおっしゃるなんて、何かございましたか」

「ナガノが見た男子は年寄りだったからで、他人から見たら、ただの平均程度なのだから」

「いいえ、決して平均なんかではございません。上の上の上、てっぺんでございます」

「やめてほしい。恥を掻くのは、こちらなのだから」

 とニニンドが怒ったように言って、出ていった。


 今朝は、また新しい服が届けられた。ナガノは若さまのために、服を注文することを喜びにしているのだった。どんな服を仕立てさせても、想像以上に似合ってしまうのだから、楽しくて仕方がない。毎日もデザインと色を考えている。


 だから、「もう服はいらない」と言われた時には、ついに恐れていた日が来たかと思って、心臓が縮んだ。

「これは私の唯一の趣味でございますから、この楽しみを取り上げないでください。この生きがいのおかげで、身体に力がついて、病気も回復しております。完治するのも、遠い日ではありません」

 ナガノはその場をなんとか切り抜けたものの、何か次の手を考えなくてはならない。


 ナガノは知っている。成功とは大きな声を出せばなせるというものではなく、粘り強くやり続けることなのだということを。若さまに危険なことをさせないで、宮廷にいてもらう方法をあれこれと考えた。

 そんな時、若さまが医者のところへ出向き、ナガノの状態を尋ねたという情報がはいってきた。荷物もまとめだしたようだから、急がなくてはならない。


 ひとつのことを決めたら、ひたすら追いかけるのがナガノだ。クリオリネ姫が宮廷から逃亡した時、何千人という追跡隊が組まれたが、やがて引き揚げた。しかし、あの時も、ナガノだけは諦めしなかったのだ。


 ナガノはまたこっそりと国王のところに行き、ニニンド様は退屈しておられますから、お友達が必要ですと進言した。

 王もそれは感じており、手は打ってはいた。宴を開いて、大臣や貴族の子息や令嬢を招待したりしたのだが、ニニンドはいつの間にかいなくなるのだ。お家来の話だと、彼はラクダ小屋にいるか、そうでなければ、屋根の上にいるのだという。


「友を作るというのは難しい。私にはよくわかる。やはり同じ血が流れているようだ」

「では、学校というのはどうでしょうか。学友をお作りになればよいのではないでしょうか」

「それはなかなかよい考えだ」

 と王が褒めた。ニニンドには学問や礼儀が必要だし、しきたりも学ばせたいと思っていた。


 グレトタリム王はすぐさま、ハヤッタに相談した。するとハヤッタは自分も、学友のことを考えていたところですと答えた。しかし、人選が難しい。


「そこはよろしく頼む」

「はい。探してみます」

「ところで、その学友のひとりに、あのリクイという少年をいれるのはどう思うか」

 ニニンドはこれまで学校に行っていないので、学友が良家の子息とか大学の秀才では、うまくやっていけないのではないか、と王は懸念したのだ。


「ラクダ事件の子ですね」

「クラスにひとりくらいああいう子がいると、ニニンドも安心するのではないだろうか。いの子は誠実そうですし、頭もよさそうだった」

「学校にも行っていないようですから、環境が似ていますね」

「砂漠の学校か」

「ニニンド様は道端の学校でございますな」

「そうだな」

 と王が笑った。


 ハヤッタはさっそく学校のことをニニンドに告げに行った。彼は勉強には乗り気な様子ではなかったが、すぐに拒絶するようなことはなかった。


「優秀な学友を選びますから、よい友達を作ってください。人生で、友達は大切です」

「では、ハヤッタ様の言われるよい友達とはどんな友達ですか」

「ニニンド様のことを理解し、話し相手になってくれるような友」

「そんな人間がいるものですかね」

 ニニンドがふんと笑ったようだった。


「では、ハヤッタ様には友がおられるのですか」

「・・・おりません。前はいたのですが」

「そのハヤッタ様の前におられた友というのは女性ですか」

「・・・そうです。どうして、おわかりに」

「カンです」


 ニニンドは学友が多いのは面倒くさいし、貴族の子息とは同じ場所で一緒に学びたくはないと言った。

「でも、一対一の個人授業では、飽きてしまわれるでしょう」

「それはある。そうだな、あのラクダ乗りのサララなら、学友になってもいい」

「女性はまずいでしょう」

「どうしてですか」

「年頃の女性がそばにいると、何かと問題が起きます。噂が立ちます」

「気にはしません」

「ニニンド様が気になさらなくても、世間とはそういうものではありません。世の中は宮中の動きに耳をそばだてていますし、ここでは若い女官達が、こぞってニニンド様のすることなすことに目を光らせているのをご存知でしょうか」

「では、男子しかだめなら、弟分のリクイはどうか。緑の目の少年だ」

「なるほど。それはよい案かと思います」

 

 王もリクイを学友にしてはどうかと言われていたから、ここで意見が一致したことになる。まずひとりは決まった、とハヤッタは喜んだ。



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