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38. 逮捕

  ニニンドが足を引きずりながら、国王の宮殿に急いだ。まだ急いで歩くと、体中のあちこちがじりじりと痛い。


「どういうことですか」

 国王の執務室に着くと、ニニンドは重い扉を押しあけ、顔を真っ赤にして叫んだ。

 ハヤッタが近づいてきて、まあまあ、落ち着いてくださいと手でなだめた。

「一体どういうことですか。あのふたりは私と旋風を助けてくれた恩人なのですよ。逮捕したって、どういうことですか」


「あの事故は、警察の調べではあのふたりの仕業ということになっています。しかし、ニニンド様を殺そうとした犯人が彼らだと決まったわけではありません。疑いがあるので連れて来たまでです」

「私を殺そうとしたって、どういうことですか」

「どうぞ落ち着いてください。調べればすぐにわかることですから」

「すぐっていつのことですか。今日ですか。明日ですか。今すぐに確かめて、釈放してください。王宮とはそんなに理不尽で、恐ろしい所なのですか」

 

 グレトタリム王はニニンドがあまりに憤っているのを見て、心配になった。このままでは、こんなところにはいたくない。もうY国に帰ると言い出しそうだ。

「それでは、すぐにはっきりさせよう」

 と国王が言った。


「お願いします」

「ニニンドよ、ここが不条理な場所かどうか、自分の目で見ることだ」

「はい」

 

 王はハヤッタにすぐにふたりをこの部屋に呼ぶように告げた。ここまで春風のように順調にきたのに、ここで帰ると言われては元も子もないのだ。王はどんなことをしても、ニニンドをそばにおいておきたい。

 間もなくマグナカリ王弟にも連絡がつき、関係者が王の会議室にそろった。

 

 暗い牢屋にいれられていたサララとニニンドだが、突然部屋から出されて、長い廊下を歩かされ、明るい会議室に連れて来られた。ここはどこなのか。ふたりは見たこともない豪華な天井を見上げ、互いに顔を見合わせた。

「カノーラの旦那さんの金歯よりもすごいじゃん」

 とサララが小声で言った。

 

 サララは国王の隣りにニニンドが座っているのを見ると、顎をあげてぐっと睨みつけた。これは、あんたの仕業か。恩を仇で返す奴かとその瞳が責めたから、ニニンドは申し訳なさすぎて心が怯えた。

 

 ふたりは大理石の床に座らされたが、ニニンドが家来に言って、壁に並んでいた大きな椅子をもってこさせた。サララが床から立ち上がる時、ニニンドはそばに行って腕を貸そうとした。

 サララはその手を払って、ニニンドの顔を睨みながら、「見たからね」と声を出さずに言って自分の臀部を叩いたので、ニニンドの顔に色がついた。


 国王もハヤッタも、それぞれにニニンドのいつもとは違う態度を興味深く見ていた。ハヤッタはこのふたりが犯人ではないことは直感していた。


「どうして逮捕されたか、わかりますか」

 とハヤッタが尋ねた。

「王宮の誰かをからかったからだろう」

 とサララが言った。

「言葉を慎め」

 と王宮警察の役人が口をはさんだ。

「王宮の方だとは知らずに、いじめたりしてすみません」

 とリクイが謝った。

 

 ニニンドが立ち上がった。

「私はからかわれてもいないし、いじめられてもいない」

「では、ぼく達はどうして逮捕されたのですか」

 とリクイが言った。


「理由を述べよ」

 と国王が訊き、役人が前に出て、書類を読み上げた。

「こちらの厳密なる調査の結果、サララという娘がラクダ競争に優勝するために、王子を妨害しようとして、鉄の矢を放させたという結論がでました」


「どこの調査だ。わたしが優勝するために妨害したと聞こえたが、言い間違いではないのか、この能なしが」

 とサララが憤慨した。


「女のくせに何だ、口を慎め」

 と役人が戒めた。

「男ならよいのか。言葉が悪いのはわたしだけではないだろ」


侮辱罪ぶじょくざいで逮捕しましょうか。むち打ち三十回」

と役人が言った。

「いいや。そんなことはさせない」

 とニニンドが言った。

 この阿保はいったい誰の味方なのだとサララは思った。

「わたしはラクダ競争では五連勝の完全王者だ。こんな新米がわたしに叶うわけがない。なぜ妨害をする必要がある。全く話にならない」


「私は」

 とニニンドが立ち上がった。「今年は残念ながらこんな結果になりましたが、来年は勝ちます」

 

 グレトタリム王は、ということはニニンドが来年までいてくれるというのかと内心小躍りした。ハヤッタはサララを凝視ぎょうししながら、このようにニニンドをあおることのできるこの女子とは、いったい何者なのだろうかと思った。


「あんたには無理だ」

 とサララが鼻で笑った。

「王子に向かって、あんたとはなんだ」

 と役人が棒を振り上げので、王が制した。好きなように言わせなさい。

「あんたは王子なのか何かは知らないが、このわたしに勝てるなんという日がくることは、この砂漠に太陽があるかぎり決してない」

「私は王子ではない。でも、まだ砂漠に太陽がある日に、私は勝てるだろう」


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