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37. 意外なお迎え

 その時、テントの幕が上げられたかと思ったら、黒いマントを着た男性と目つきの鋭い長身の家来が入ってきた。


「伯父上」

 ニニンドが毛布で身体を包みながら近づき、彼に抱き着いた。毛布がずり落ちそうになったので、家来がそれを抑えた。


「マグナカリ王弟殿下ですぞ」

 家来がそう告げたので、えっ、誰、だれだって、とサララとリクイがぎょっとした。


「どうしてここがわかったのですか。ナガノですね。来てくださって、うれしい」

 マグナカリはその言葉にうんうんと頷いて、家来に指で何か示した。サララは手話が読めるので、それが、彼の怪我の具合はどうかと尋ねているとわかった。案の定、家来が傷の具合を訊いた。


「お尻がひどいことになっていますが、それ以外は大丈夫です」

 とリクイが説明した。


 マグナカリが毛布をめくってみると、臀部に黒い軟膏がべたべたと塗ってあったので苦笑いをして首を振った。そして、外に待たせていた家来に合図をして、待たせてあった箱のような馬車に運び、自分もそれに乗り込み、砂埃を上げてあっけなく立ち去った。


「あの馬車は朝からずっとありました」

 とリクイが言った。

 みんなのテントから離れて場所に、隠れるようにして止めてあったから、誰の馬車なのかと思っていたのだった。


 馬車の姿が見えなくなると、いつもの祭りの後にくる寂しい風景があった。ここ数時間に起きた大事件も、もしかしたら起きなかったように思えるのだった。

「役者じゃなかったのか、つまらねー」

「どうして王弟殿下が現れたのですか」       

「知らん」


 宮廷にニニンドが怪我をした知らせを届いた時には、ナガノは一瞬世界が凍ってしまい、口がきけなかった。何ということを計画してしまったのか。

運ばれてきた傷だらけの若さまを見た時には抱きついて号泣したのだが、生命は大丈夫だったし、骨折もしていなかったので、仏のところへ行って、饅頭を百個お供えし、涙を流して感謝した。

不思議だったのが若さまを連れて帰られたのが王弟殿下だということ。内向的な殿下が、どうしてラクダ競争のことを知り、そこにいたのかということだった。しかし、彼にとってもたったひとりの甥なのだから、かわいくて仕方がないのだろう。

 本当に若さまは誰からも好かれることだわ、とナガノは誇らしく思った。



ニニンドが三日もすると普通に歩けるようになり、いたって元気なのだった。そんなに早くよくなったのは、その若さと身体に塗られた軟膏のお陰なのだろう。

 ナガノがその軟膏について質問すると、村のリクイという少年が作ったものだが、彼にまだ礼もしていないと申し訳なさそうな様子だった。


 ナガノがお礼の品をたくさん用意して、彼のところに届けさせましょうと言うと、ニニンドが喜んだ。

「何がよいだろう。私がそれをもって行く」

「なにをおっしゃいますか。田舎には人をやりますから、お気にはなさりませんように。ああ、若さまときたら、三国一美しいお顔に怪我などなさって。お気をつけてくださいませ」

 ナガノがため息をつきながら、顔の傷を消毒した。


「ナガノ、そういうことは言ってはならない。ナガノにとってはそう信じているのもしれないが、世間的には平均的なのだから」

「どこの平均ですか。ずいぶんと平均値がお高いことで」


「昨年優勝した娘が、今年も優勝したそうですね」

「もう少しだったのに」

 とニニンドが悔しがった。


「その優勝した娘というのは、どんなお方でしたか」

「驚いた、ああいう女子がこの世にいたとは。これまで会ったことがない」

「あら、まぁ。そんなに魅力的なお方だったのですか。どうりで、若さまがうれしそうになさっていると思いましたよ」

「何を言うか。勘違いも、いいかげんにしてほしい」

「では、かわいらしいお方ではなかったのですか」

「かわいくはない。やさしくもない」


「では、どんなお方ですか」

「言葉が悪い」

「それは田舎の方ですから、仕方ないでしょう」

「性格も悪い。ああいう生意気な女子は見たことがない」

「ラクダに乗る娘ですからね、これまで若さまがお付き合いされた方々とは、違うでしょうよ」


「弟のほうは丁寧な話し方をする」

「軟膏の少年は、その娘の弟なのですか」

「姉さんと呼んでいたが、どうなのだろうか。目の色が違っていた」

 ニニンドは空のほうを斜めに見上げて、よくわからないという表情をした。

 

 ナガノがさっそくふたりの住所を調べさせると、予想外のことがわかって青くなった。サララとリクイのふたりは昨日逮捕されて、宮廷の牢屋に入れられていたのだ。


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