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30. ラクダ競争

ここ数年間、ラクダ競争のチャンピオンの座についているのは地元の若い娘で、そのスピードときたら大の男でもかなわないから、絶対王者と呼ばれている。彼女のラクダは豹のように走り、それも僅差きんさではなくて大差で勝つのだとナガノが人から聞いた話を熱っぽく語った。


 ニニンドのほうは最初、ふうん、絶対王者か。それがなんだよ、大げさだなぁという態度だったが、机の上に置いてあったチラシを見て、それを手に取り、じっと眺めていた。チラシにはラクダに乗り、髪をなびかせて走る少女と、その背景にはなぜか稲妻が描かれていた。懐かしい匂いがした。

 

「ラクダで競争というのは、なかなかおもしろそうだ」

「ご興味がわいてこられて、うれしいです」

「ナガノも、私が乗るところを見たいでだろう」

 

 宣伝をしすぎたのか、ニニンドがこの競争に参加してみたいと言ったので、ナガノはあわてた。

「いいえ、いいえ」


「一番で駆け抜けてみせて、私が絶対王者になる」

 ナガノは度肝を抜かれてたわたわした。

「わ、私は若さまと観戦できるだけで、充分でございます。頑張って生きますから、ただ見物に連れていってくださいませ」

「このところ運動不足だし、実は退屈していたのだ。ラクダに乗って、村の者と競ってみたい」

「いいえ、なりません」

「なぜだ」

「危険です。若さまは、ラクダに乗られた経験がありません」

「馬ならある」

「馬とラクダは違います」

「どちらも四本足。それに、馬のほうが速いはずだ。まあ、こぶがあるかないかの違いだろう。私なら四ヵ月もあれば、余裕だ。優勝するところをナガノに見せてやろう。病気が治るかもしれない」


 そうなのだ。若さまは負けず嫌いなのだった。ナガノはわなわなして頭が空白になったが、餅を三個食べて、ようやく落ち着きを取り戻した。


まずは相談しよう。ナガノは国王のところへ行き、計画が思わぬ方向に行きましたと率直に打ち明けた。

「ラクダ競争は危険なので、ぜひやめさせたいのですが、止めることができません」

「止めると、逆効果になるからなぁ」

 王もよく知っている。


「でも、若さまは運動神経が抜群でございますし、これは地方の大会ですから、大丈夫かとは思います。暇をもて余しておられますから、運動をなさるのは、気分転換になるかとは思うのですが」

「よし、わかった」


 グレトタリム王は名ラクダの「旋風せんぷう」を与え、王宮のラクダ調教師長を教育係に任命した。

「あとは、ニニンドの好きなようにやらせなさい。ただ怪我だけはさせぬように」


 田舎の大会だし、名駱駝らくだに乗るのだし、教育係はついたし、これで若さまが怪我をなさることはまずないだろう、とナガノは少し安堵あんどした。


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