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28. 王が規則

 ところがY国へ出発する朝、ナガノが急に病気になったのだ。腹が痛いと転げ回る。医者を呼ぶと腹に腫瘍ができていて、もう余命一ヵ月だという。


「若さま、私をひとりにしないでください」

とナガノが泣きすがるので、このまま残して帰るわけにもいかず、仲間は返したが、ニニンドだけが宮廷に残ることになったのだった。


 ニニンドはそれでは貴賓室を使っていたのだが、

「一ヵ月は長いから、それではクリオリネが住んでいた部屋を使ってはどうか」と提案した。

 ニニンドは母の部屋を訪ねたことはあり、懐かしく思ってしたのだが、そこは館は男子禁制なはずだった。


「そこに男の私が住んでよろしいでしょうか」

「全くかまわない」

 と王が笑った。「ここでは、私が規則なのだから」


「ありがとうございます。とてもうれしく思います」

「王は何でも決めることができるのだよ。王になれば、どんなことでできる。ニニンドは興味がありますか」

 と王が探りをいれてみた。

「興味はありません」

 とニニンドがあっさりと答えた。


「男として生まれたからには、権力を手にしてみたいと思わないかね」

「いいえ。私は年少の頃から、山賊や芸人一座を束ねてきました。でも、長たる者には責任がのしかかります。わずか16人の座員を扱うのにも四苦八苦している私が、多くの人の上に立つことなどは到底できるはずがありません」

「よし、わかった」

 王はそうは答えたものの、実際には手応えを感じていた。


たとえば、自分の場合、側近にはハヤッタ、金庫を守る弟、それにクルム将軍兄弟など数人がいる。ハヤッタの下には信頼できる人物が五人ほどいて、その五人の下にはさらに5人、国家とはそういう仕組みでできている。だから、その若さで十六人の荒くれやら年寄りを訓練し、まとめてきたというのは驚くべきことなのだ。

王はハヤッタからその経歴を聞かされた時には、すぐには状況が飲み込むことができなかったが、ナガノから詳しい話を聞かされて理解できるようになっていた。


 

 実は、ある夜、ナガノは国王をこっそりと訪ねて行ったことがあったのだ。

「昔、シキリという名前で配膳長をしていた者です。その後、願いがかなって、クリオリネ姫にお仕えしていました。覚えておいででしょうか」

 王は「うむ」と頷いたものの、本当は覚えてはいない。王とはそういうもので、日々に会う人数が多いから、いちいち覚えてはいられない。記憶力のよくて気転がきく家来がそばにいればよいのである。

 

 ナガノは配膳長の時代に同僚だった者がまだ宮廷に残っており、上位についている者もかなりいて。医師長もそのひとりだった。ナガノは若さまには苦労のかけっぱなしだったけれど、ここからは自分が活躍する番だと思っていたので、縁故の紐を手繰り寄せ、国王との面会も果たしたのだった。


 ナガノはこんな話をした。今では子犬のように従順な座員も、もともとは荒くれの山賊。姫の死後、彼らを抱えて生活が苦しくなった時、反発するばかりの連中を見捨ててどこかに逃げてはいかがですかと勧めたことがあった。

それはできないことだ。考えてもいけないと彼が言った。私達は運命でつながっている家族なのだから、見捨てるなどということはないのだ、と。


 ニニンドがそう言って、もんなで生きる方法を考えたのだった。その献身的な努力を見て、彼らも次第に従うようになり、今ではみんなが厚い信頼を寄せている。

「私どもは、若さまのためなら、どんなことでもいたします。喜んで死にます」

 ナガノは自分の言葉に酔ってしまって、ぽろぽろと涙を流した。

 

 ニニンドには人を従える才能と責任感があると王は思う。彼は心に何やらの灯を感じて、自然と微笑んでいた。そして、ここまで姫やニニンドに尽くしてくれたナガノに感謝して、望みは何でも叶えてやろうと言ったのだ。

「若さまと同じ部屋で暮らしとうございます」

 とナガノは答えた。

「よし、わかった。しかし、ニニンドがここに残り、それを望むと思うか」

「そこは私におまかせください」

 ナガノは頭の中で計画を反芻はんすうし、ぜったいにやってみせると自分で細かく頷いた。


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