25. ニニンドの到着
ついにニニンドが六人の仲間を連れて、治療を受けていた座員を迎えにやってきた。黄色と白の衣装を着て、黒い髪をなびかせた姿を見て、女官たちが大騒ぎをした。
最近のいつにない国王の機嫌のよさから、女官たちにはだれか重要な人物が訪れるらしいという予感はあった。それが美しい青年の来訪だったので、第一王子の死以来、沈んでいた宮廷の空気が、雨が降った後に、砂漠にぱっと咲いた花のように色がついた。
この青年はいったい、誰なのか、どこの王子なのか、さまざまな噂がシャボン玉のようにと飛んでは消え、消えてはできた。その結論としては、治療院にいる外国人を迎えに来た外国人の貴公子らしいというところで落ち着いたようだ。
ニニンドが到着しての夕方、席巻の準備が進んでいた時、中庭が何やら騒々しくなった。いつもの夕方の喧噪とは違う種類の歓声を聞いて、グレトタリム王とハヤッタが前庭に出てみると、王宮の屋根の上を白い影が走っていた。
「ニニンド様です」
ハヤッタにはすぐにわかった。背中を丸めたその影は、まるで若豹だった。
「紛れもなくクリオリネの息子」
グレトタリム王は感激した面持ちで、拳を丸めて、口元にあててくくっと笑った。あれは、まるで妹の姿だ。
「見よ、あそこで一回転して飛び降りるぞ」
グレトタリム王は、嗚咽の混じった声で、自信をもってハヤッタに言った。
その白い影は屋根の角のところで両手を広げてさらりと跳び、一回転して、髪で円を描かせながら、美しい着地をした。
「見たか」
王が得意げに言った。
女官たちは拍手をし、声をあげながら、ニニンドのそばに駆け寄った。
ああ、あんな危険なことをして怪我でもしたらどうするのか。ハヤッタは背中が冷たくなったが、国王のほうを見ると抜けるような笑顔があった。王のこのような笑いは枯れてしまったと思っていたけれど、今、再び花が咲いた。
ニニンドが謁見に上がった時、そこに招かれていたのは王弟とハヤッタだけだった。王はニニンドが屋根を走ったことについて、全く叱ることがなかった。
ただ「人が見ている昼間は、走らないように」とにこやかに言った。もちろん怪我は心配なのだが、注意をしたところで止めるわけはないし、それは火に油を注ぐことになるということを、過去の経験から学んでいた。
国王は矢継ぎ早に、いくつもの質問をした。今までそういう早口の話し方はされたことがなかったので、甥に会えたのがどれほどうれしいのか、ハヤッタにはそのことが強く感じられた。
国王はニニンドの答えを聞くたびに、微笑んだ。何度も椅子から立ち上がって抱きつきたい衝動を抑えた。
国王が感情を抑えたというよりも、ニニンドがそれをさせなかったといったほうが正しいだろう。その口調は柔らかく丁寧だったが、ニニンドには人を寄せつけない冷ややかな圧があった。
国王は妹の最期が知りたいと言った、その墓はどこにあるのか。こちらに運んで埋葬したいと思うのだが。
「不可能でございます」
とニニンドが静かに言った。
「母上の墓はありません。遺体が見つかりませんので、どこの場所で亡くなったのかも、わかりません」




