21. サディナーレ姫
サディナーレ姫の巻
遥か遠い東北の国に、サディナーレという磁器のようななめらかな肌をした黒い瞳の美しい姫がいた。
ザディナーレの父親はH国の国王、母親はすでにいなかったが、兄がひとり。この兄というのがはなかなかの野心家で、今では父の補佐役として活躍しており、かつては大陸を支配していた広大な土地を取り戻そうと、その機会を虎視眈々と狙っていた。そのために。何度か戦争を繰り返したが負けが続き、多くの人材を失い、財政が破綻しかけていた。
H国は昔から火山を神として信仰しており、サディナーレは三歳の頃から、その山麓に建てられた神殿に斎王として仕えていた。
斎王は普通、十三、四歳になれば交代し、十五、六歳でどこかの王子か貴族と結婚するということになっていた。けれど、サディナーレの場合には十七歳を過ぎても、十八歳になっても、そういう話は聞こえてはこず、お付きの女官達の気持ちも落ち着く日がないのだった。
しかし、父王や兄がそのことをないがしろにしていたわけではなく、実はその逆で、美しいサディナーレは彼らのとっておきの切り札だった。
姫が幼い頃から宮廷画家に絹地に肖像画を描かせ、ことあるごとに各国に贈っていた。その姿に心惹かれた国王や王子はいたのだけれど、誇りと野望がありすぎる王家の態度がネックになっていた。この父兄なら、必ずや他国の国政にも割りいってくるだろう。それどころか、乗っ取られる危険性もある。そんなわけで、国々はこの縁談話からは撤退していったのだ。
サディナーレ姫はそんなことなどひとつも知らされず、父親に尋ねることもなく、ただ祈りの日々を過ごしていた。
姫はしぐさに品があり、感情は決して表すことがなく、口数が少ないから、お付きの女官達からは「デニア姫」と呼ばれていた。デニアとは熟しても実が裂けない「クチナシの花」ことだったが、姫がそれを気にしている様子はなかった。
姫にはオキオキンという岩のように大きくて頑丈な女官がついており、姫に関することはこの女官がすべて取り仕切っていたので、姫が自分で指示するというようなことはなかった、
サディナーレ姫は毎朝早くに起きて身支度をさせ、女官たちとともに神殿に向かい、国を守っていれますようにと祈りを捧げるのだった。しかし、姫が神殿に仕えている斎宮だからといって、一日中、堅苦しい生活を強いられているわけではなかった。
長い夜には、オキオキンが集めた才媛の女官たちが、古い詩や自作のロマンス物語をお披露目した。姫にとってはこの時間が何より楽しく、小さな笑い声をたてることもあった。
姫のロマンチックな幻想は東国の空のように広がり、いつかすてきな王子が現れると信じていた。
そして、十九歳の春、ついにもたらされたのがJ国からの申し出だった。
J国は財政が豊かで、戦争にも勝ち続けており、サディナーレが王子を産めば、その子が次の王になるというのである。女官たちはついにきた、大物がきた、これまで待ち続けたか甲斐があったというものだと大騒ぎをした。
ところが、オキオキンが調べてみると、伝えられた話とは違うではないか。
お相手は二十代の王太子だと思っていたのだが、この彼はすでに亡くなっていた。肝心の相手というのはその王太子の父親のグレトタリムで、彼はすでに五十半ば過ぎで、白髪の老人であった。正妃として迎えてくれるということなのだが、実際には四番目の妃だった。
サディナーレ姫 東国の美しい姫 十九歳
オキオキン 姫に仕える女官長




