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19. おかしな約束

 ハヤッタが診断してみると、十六人の座員のうち、目に問題があるのは半数、特に問題なのが三人。そのうちふたりは今から治療をすればニ、三ヵ月で治るだろうが、乳母には手術が必要だった。

一夜明けて、ニニンドが約束どおり訪ねてきた時、ハヤッタが計画を述べた。


「あれから解決法を模索しておりましたが、最良の方法は、私が病人をJ国にお連れして、宮廷医院で治療してさしあげることだと思います。三人だけではなく、身体に問題がある方全員の健康を取り戻してあげたいと思っています」

「そのようなお言葉、涙の出る思いです。ありがとうございます」

 ニニンドはそう言って、数度目を瞬いた。


「それで、その条件とは何でしょうか。私がJ国に同行して、国王にお会いすることでしょうか」

「そうしていただけるとありがたいのですが、ニニンド様にはJ国に行ってはいけないというお母上の教えがありますから」

 ハヤッタは額を抑えて、しばらく黙った。


「ニニンド様が気を悪くされるかもしれないということを覚悟で、単刀直入に話してみることにします」

「どうぞ、はっきりと言ってください。どんなことでも、かまいません」

「では、申しあげます。ニニンド様はご自分が王の跡を継ぎたいなどとは思ってはおられない。また私も、あなた様が宮廷生活には向いているとは思いません。万一、国王になられたとしたら、軍隊の指揮を執らねばなりません。これは全く無理ですよね、お母上のことがありますから」

「はい」


「実は、グレトタリム王は、今、東の国から若い王妃を迎えられようとしています。おふたりに、世継ぎがお生まれになり、健康に育ってくだされば、全てがうまくいきます。古代には百人もの子供を残した国王がいたと聞いたことがありますが、全く信じられないような話です。このJ国の王子誕生の件につきましては、正直なところ、とても悲観的な予感がしてなりません。王は五十代ですが、ご心労が多く、年齢より十歳は老けておられます。それで、ここからが私の提案なのですが、あまりに突拍子な話かと思い、躊躇っておりました」


「突拍子な話とは、どんなことでしょうか。かえって、興味が湧いてきました」

「ニニンド様は将来、座員の問題が解決したら、そこそこに気にいった女性と結婚をされて、子供を作ると言われましたね」

「はい、申しました。私は生まれた時から大勢の人に囲まれていましたので、子供はたくさんほしいです。百人は無理ですが、七人か八人か、できれば十人」

「それをお聞きして、喜びが湧いてまいりました。私の力が及ぶかきり、座員の方々の健康問題の解決や引退には協力させていただきます。それで、もしニニンド様が結婚なさった場合、そのたくさんの子供の中から、男子をひとり、国王の養子としていただけないものでしょうか」

 ニニンドは一瞬きょとんとして、頭の後ろを掻いた。


「意味がおわかりでしたでしょうか。まったく変な提案で、申し訳ないですが、私は本気です。どうでしょうか」

 ハヤッタが答えが待てなくて尋ねてみた。


「よろしいです」

とニニンドが言った。

 彼の目は涼しげで、そんな話ですかという響きがあった。


「よろしいのですか」

「たくさん中には、ひとりふたりは変わり者がいて、J国に行きたいという子供がいるかもしれません」

「ありがとうございます」

「でも、嫁が子供をよそにやるのはいやだと反対することも考えられますよね」

「はい」

「その場合には」

とニニンドが続けた。


「その場合には」

「私は揉め事が嫌いですから、その場合には、よそに出してもかまわないという女性と男子を作り、国王にさしあげましょう。これで、どうでしょうか」

「はぁ」

 よその女性と男子を作ったりすれば、妻との間に揉め事がおこるだろうに、そのあたりは考えていないようだ。それに、何人も簡単に子供を作れるという自信は、やはり十代だから言えることなのだろうかとハヤッタは思った。しかし、これは新王妃に子供ができなかった場合の保険なのだから、この承諾は喜んで受け入れることにするのがよいだろう。


「ありがとうございます。では、私のほうの用意が整い次第、健康に問題のある座員の方々をお連れしてJ国に帰り、最善の治療をさせていただきます。全快しましたら、こちらが責任をもってY国にお戻ししますから、約束のほうはよろしくお願いします」

「わかりました。座員のことは、どうぞよろしくお願いします」


 話は思わぬ方向に進んだけれど、一応落着したと思い、その夜、ハヤッタはひとりで祝杯を挙げようとしたが、それは止めた。まだ何か起こるか、わからないからだ。

 それにしても、ニニンドは一見高慢で、泉水のように冷ややかだが、座員には温泉のように暖かい。古風なところがあるかと思えば、ふっきれて現代風の考え方をする。まことに不思議な青年だった。


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