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15. ニニンドは座長

「そうです。先ほどは人を殺す兵士になってはいけないという話をしましたが、人を殺すなと言っておいて、山賊をやっていたのですから、何をか言わんやとお笑いでしょうが、我々はものを奪いはしましたが、人を殺してはおりません。というか、できなかったというのが本当のところです」

「はぁ。なぜでしょうか」

「母上は、猿のように飛び、豹のように走り、熊のように襲えと申しておりました。猿や豹はよかったのですが、熊のようにはできません」

「はぁ」


「それに、年寄りばかりの山賊でしたから」

「はぁ。でも、そもそも、どうしてそういうことに」


「母上は祖国から逃げてくる途中で、連れが大怪我をして、山賊の親分に助けられたのだそうです。母上はこの仕事をとても気にいり、親分のあとを継ぐことになったみたいです。母上は危険なことが大好きな人でしたから、山賊は天職だと申しておりました。呆れた話だとお思いのことでしょう」

「いいえ。うらやましい話です」


「うらやましいのですか。意外なことを言われますね」

「強い意志を持ち、自分で道を選んでいかれた方のことをうらやましいと思います」


 半開きだったようなニニンドの目がそれまで半開きだったが、その目が見開いて、視線がハヤッタをまっすぐに捕えた。

「あなた様はJ国の高官ですが、それは望んだ道ではないのですか」

「違います。偶然が重なり、こういうことになりました」

「人生は、偶然に左右されることが多いと私も思います」


「では、ニニンド様のお父上は」

「父親という人は超がつくほどの美形だったそうですが、苦労が苦手な人で、私が生まれる前に、山を下りていったと聞いています。年寄り達からは、よく似ていると言われていますが、もっとも、容姿のことだけです」

 と彼は平然と語った。


 確かにニニンドは美しい顔はしているが、普通、自分ではそういうことは言わないものではないか。

 彼にはどうも不思議な部分、鈍感で、厚顔無恥こうがんむち、常識のないところがあるようだとハヤッタは思った。しかし、それは上に立つ者の資質なので、彼はもしかしたら、生まれついての大器かもしれないとも思った。


「ですから、私の父親はあの強面の白ヒゲ親分だと言えます。しかし、親分も年寄りでしたから、間もなく母上が親分になり、その後を私があとを継いだというわけです」

「はぁ。では、どうして旅芸人一座を?」

「母上には、三国一の山賊になれと言われていましたが、私にはできませんでした。それに、高齢化問題がありましたし」

 ニニンドがまた顔色ひとつ変えずに言った。


「今日、ご覧になられて気づかれたと思いますが、座員の全員が年寄りです。彼らも若い時には随分と暴れたらしいのですが、それは昔の話。もともとこのY国は周辺の国の中では一番貧しく、畑も少なく、交通量の多い山岳峠で山賊として稼ぐしかなかった人間は大勢いるのです。私が親分になり、この動けない子分達を抱えて、何ができるかと考えた時、私は母上と踊ったり歌ったりしてなかなかの才能があると言われていましたから、それでなんとかなるのではないかと考えました」

「はぁ」


「年寄りに太鼓や笛を教え、町に行って、私が舞ってはどうかと考えたのです。案の定成功し、座員にも、世間並の生活をさせてあげられるようになった次第です。ご存知のように私は人気を博し、今では多くの所から、お声がかかるようになりました。ご婦人の方などは、日夜、宿にまで押し寄せます」

「それはそれは」

「興行は昼と夕方、夜にしておりますが、昼は主に宣伝のため、また座員達の練習のため、座員に暇をもて余させないためです。時間が余り過ぎると、面倒なことがおきますから」

「お若いのに、よくおわかりで」


「主な稼ぎは、ご贔屓ひいきからの夜のご招待です。しかし、夜には招かれても、私と笛と太鼓の少人数でございますから、他の座員にすることがありません。私がいなくては、練習もしませんからね。大勢の者を束ねるのは、若輩じゃくはいの私にはやさしいことではありません」

「いやいや、ご立派な座長ぶりと感心しておりました」

「舞いは好きですので、苦痛ではありません。踊るのは楽しいことです。山賊が母の転職なら、踊りが私の天職でしょうか。ですから、ここを去るつもりはありません」


「もしかして、ニニンド様には思いを寄せる方がいらっしゃるのですか。こんなことを申してなんですが、ご結婚なさっておられますか」


「いいえ、それはないです」

「でも、ずいぶんと、ご婦人たちからおもてになられているのでしょう」

「はい」

「またまた羨ましいことです」

「さてさて」

 とニニンドが首を横に振った。


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