14. 山賊だった?
「そうでござりまする。母上から聞いておりまする」
ニニンドは表情を変えることなく、母親からグレトタリム王が長兄であると聞かされていたとあっさりと言った。まるで、実家が農家ですというような調子で。
「失礼ですが、ニニンド様はいつもそのような話し方をなさるのでしょうか」
「いいえ。お客様に合わせて変えております。では、違う、違います、違いまする、どれがよろしいでしょうか」
「真ん中ので」
「承知いたしました。では、そのようにいたします」
ニニンドという少年は、どうやら不思議なお方のようだとハヤッタは思った。
ニニンドという存在がわかるまでには長い時間がかかったのに、彼を見つけるのは実に早かったと感激した。
しかし、ことがそんなにうまくいくはずがないと思っていたら、やはりその通りだった。
一緒にJ国に来て、伯父王に会ってくださいと頼むと、
「それはできません」
とけんもほろろに断られた。
「国王に、お会いしたくはないのですか」
「私の名前はニニンド、母上がつけてくだされた名前で、自由という意味です。母上はいつも申しておりました。自由こそが、一番大切なもの。J国には行くな、と。母上の教えですから、私はJ国に行くつもりは一切ありません。それに、国王にお会いするだけですむ話ではないでしょう」
彼はなかなかするどいとハヤッタは思う。
ハヤッタはこんなにあっさり断られるとは思ってはいなかったが、これでますますニニンドがクリオリネ姫の息子だと確信した。
「J国には徴兵制というものがあり、十八歳になれば、十年間の兵役があると聞いています。私は今、十七歳です。私がJ国に行けば、うちの座員の暮らしが立ちません」
「徴兵制は、今は五年でございますが」
「そうですか。しかし、五年でも長すぎます」
「あなた様は特別な方ですから、兵役のことはどうにでもなります」
「それに、人を殺す兵士になってはならぬと母上が言っておりました」
「兵士は国民の命を守ります」
「そういう考え方もあるでしょうが、これが母上の教えですから、揺らぐことはないでしょう」
「はぁ」
とハヤッタは額を撫でた。
「ハヤッタ様、いろいろ申しましたが、J国に行けば何が待っているか、私にはわかっています。これ以上の苦労はしたくはありません」
「これまでご苦労をなさってこられたのですか」
「誰にとっても、生きていくのは楽ではありませんでしょう」
と言って、ニニンドが冷ややかな笑みを浮かべた。
「ニニンド様のそのご苦労とは、座員の方々の暮らしのことでしょうか。そのことなら、ご心配無用ですが」
「ここでの苦労とは主にそういうことでしたが、あちらでの苦労はもっと厄介でしょう。縛られながら生きるのは、この性格には、耐えがたいことかと思われます」
「はぁ」
ハヤッタはまた額を撫でた。なかなか読んでおられる。
「では、もうその話はいたしません」
ハヤッタは早々と白旗を上げることにした。声の大きな者が勝つとか、長く話せたほうが勝つとかいう勝負なら、もっと議論を続けようが、ここは引き上げたほうが良策だと判断したのだった。
「お母上は随分と信念のあるお方のようにお見受けします。少しでも、お母上のお話をお聞かせいただけないでしょうか」
ニニンドの口元が少し柔らかくなった。
「母上は私が十歳になろうとしていた春に、ある事故で、この世を去りました。ともに暮らした日々は、毎日が楽しくて、今になってみれば、あのような日々を夢のような日々というのでしょうか」
「そうでございますか。どれほどすばらしい母上様だったことでしょう。すでに亡くなられていたとは、まことに残念なことでございます」
「ありがとうございます」
「お母上はJ国を出てから、どのようにしてお暮しだったのでしょうか」
「山賊をしていました」
ニニンドがしれっとした顔で言った。
「山賊とは、山で人を襲うあの盗賊のことでしょうか」




