118. 財宝発見
ヒマヤラ御殿の中には三十人ほどの警備やら使用人がいたが、宮廷からの軍勢を見ると恐れをなして、四方八方に逃げ去った。
ハヤッタの一行は屋敷の奥まではいり、想像以上に豪奢な部屋を物色した。
どうも、肝心の財宝は御殿の地下にあるらしいとハヤッタは読んだ。
地下に行くと、その扉に付けられて鍵は複雑な仕組みになっており、連れてきた名人と呼ばれる鍵師でも、すぐには開けることができなかった。
ようやく開いたと思っても、奥の部屋には頑丈な南京錠がかかっていた。それは力自慢が、用意してあった大鉄槌で叩き壊した。
その扉を開けると、部屋には、金、銀、銅などの財宝が積み上げられていた。
「ここに、あったか」
宮廷の倉庫から持ち去られた量の半分まではいかないだろうが、ここだけでまだかなりのものが残っていたので、ハヤッタは重荷をひとつ下ろしたように感じた。
すぐに兵士を呼んで運び出させ、荷車に積ませ、積んだ順から、宮廷に運ばせることにした。兵士達は汗だくになって、重い金塊を運び続けたが、もう少しで完遂というところで、スノピオニが戻って来た。
「どういうことか」
スノピオニは激昂して、目が恐ろしいほどつり上がり、玄関の大壺を叩き割った。
「邪魔だ」
スノピオニは兵士達を塵のようにはらい退けて、地下までやって来た。
そこには指揮を取っていたハヤッタがいた。
「けしからん」
スノピオニは憤然とした。「おまえらは、何の権利があって、このようなことをやっているのだ」
「危険ですから、近寄らないでください」
ハヤッタが手で制しすと、スノピオニがその手を叩いた。
「おまえが泥棒の大将か」
ハヤッタは何も言わないから、スノピオニがその胸ぐらをつかんだ。
「私の財産に手をつける権利がどこにあるのか」
「これは全て国の財産でございます」
とハヤッタが言い、スノピオニの手をつかんで、胸元から離させた、
「国のものだと?そんな証拠はどこにあるのか」
「この場に至って証拠ですか?そこいら中、証拠だらけでございますが、それをいちいち説明する必要はないと存じます。これらがどこから運ばれてきたのか、わかっておられるはずです」
「弁護士はどこだ。誰か、ガリイルを呼べ」
スノピオニは金切り声を上げたけれど、ガリイルが駆け付ける様子はない。それどころか、誰ひとりとして、ガリイルを呼びに行く者すらいない。高い給料を払ってきたのに、肝心の時には、誰も役には立たない。
そんなことはわかっていたのに。
ここからはひとりで戦っていくしかない。スノピオニは服の乱れを整え、背筋を伸ばした。
「これらはすべて、マグナカリ王弟殿下が私に下さったものです。誰にも、これに触る権利など、ありません」
「そういう論法は通用しません。急ぎますので」
「この私の話も聞けないというのか」
「その必要はないと存じます」
ハヤッタは兵士に、仕事を続けるように命令した。
スノピオニは通路の中央に立っていたので、若い兵士に片手で荒く押されて、よろめいた。
「なんという侮辱」
「そこにいては危険だと申しあげました」
「このような扱いは、絶対に許さない」
スノピオニがその兵士を短刀で斬りつけようとしたが、腕を掴まれて後手にされ、逃れようとして床に転倒した。胸を打って、呼吸ができなくなったが、誰も、助けにきてはくれない。
スノピオニは悔しくて涙が出そうだったが、そんな負け姿は見せるものかと、涙を噛んだ。 ああ、マグナカリがここにいたら、誰にも、こんなことはさせはしなかったと床を叩いた。
ブルフログはどこにいるのか。私はこんなに苦しんでいるのだよ。
これ以上、雑魚どもに屈辱されるのには耐えられない。私にだって、自尊心というものがある。スノピオニは子供達を引き連れて、自分の寝室に入って鍵をかけた。
スノピオニは両手に子供を抱いて、微笑んだ。
「これから、お父さまのところに行きましょう。ほしいものは何ですか。お父さまに、手に入れられないものはないのですから」
とやさしく尋ねた。
「ロバさん」
とルルビオ二が答えた。
「わかりましたよ。カイリンは何がほしいですか」
「とりさんのあめ」
とカイリンが言ったので、スノピオニは微笑んで、涙ぐんだ。カイリンが病気になった時、マグナカリが珍しいものが手に入ったと白鳥の形をした飴を持ってきてくれたことが あった。カイリンはそのことを覚えていたのだろう。ああ、あの日が、ここにあったらよいのに。
「では、目をしっかりと閉じて、ロバさんをください、鳥の飴さんをくださいとお父さまに頼んでごらんなさい。母がよいというまでは、決して、目を開けてはいけませんよ」
「ロバさんをください」
ルルビオ二が手を合わせた。
「とりさんのあめをください」
スノピオニはその姿を横目に見ながら、壁に隠された秘密の扉を開けた。そこには、二つの把手が隠されていた。 スノピオニはその把手を両手で握り、ええいっと力いっぱい下ろした。
その途端、屋敷に轟音が響きわたり、壁のいたるところから鋭い矢尻が飛び出し、火柱が上がった。兵士達は鎧をつけてはいたのだが、それでも、その間に、矢尻は突き刺さった。 ハヤッタも、腕と足に矢をまともに受けて、ばったたり倒れた。 怪我をした者は、燃えている屋敷から外に担がれて助け出され、すぐに宮廷へと運ばれた。
ハヤッタが外に運ばれてきた時、一番先に駆けつけて来たのがリクイだった。彼は小刀で刺された部分を切り取り、矢尻を抜いて、その血を吸って吐き出して、そこに薬草の軟膏を擦り込んだ。しかし、その傷は十三ヵ所もあった。




