表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/133

105. サララは思う

 砂丘の刃物できったようなてっぺんをめざして、ニニンドがサララを抱いて登っていった。


 白い砂の上 に、右側に人の影が伸びた。砂は慣れない者には歩きにくく、足が流れて、埋もれてしまう。ニニ ンドは前につんのめって、砂の上にサララを落とし、自分も倒れてしまった。


「ごめん」と二ニンドが言うと、サララが愉快そうに笑った。

「よし」と、背負って上がることにした。今度はうまくやりたい。


 ニニンドが腰をかがめて待っていたので

「こういうの、ホンモノの恋人みたいで、いやだ」

 とサララが躊躇ためらった。


「ホンモノの恋人じゃないのかい。プロボーズだってしただろ」

「ああ、そっか」

 サララはその背中に乗った。ニニンドはその振動にちよっとぐらついたが、まぁ、うまくいった。


「わたしがニニのことを好きなのは知っていた?」

  背中で、サララが首に回した手に力を入れた。

「少しね。でも、嫌われているとも思っていた」

「どうして」

「不甲斐のないところばかり、見せているから」

「そんなこと・・・・・・」


サララはそんなことない、と言いかけたが言葉が止まった。そういえば、わたしはニニンドの かっこいいところは見ていない気がする。それなのに、なぜ好きなのだろうか。容姿?その雰囲気?そんなことで好きになっているとしたら、安っぽすぎないだろうか。


 そして、このわたしも、 自分のよいところを全然見せてはいないのではないだろうか。ニニンドはわたしの何を知っているのだろうか。 サララは突然、不安になった。不安になる時ではないのに。


 わたしはなぜニニンドが好きなのだろうか、とサララがまた自問する。これまで、何度も諦めようとしてきたけれど、好きなことは何より確か。答えが必要でない「なぜ」だってあるはず。そう、ただ好きというだけで、充分。そう思うことにしたい。


「ニニの心が見えればいいのにと思っていた」

「同じだよ」

「ニニにも、不安なんてあるの?」

ニニンドが立ち止まって、よいしょとサララを背負い直した。

「不安ばかりだよ」


「でも、人の心は見えないのは、いいことなのかもしれない」

「なぜ」

「世の中の、みんなの心が見えたら、大変なことだと思う。たとえば、ニニのことを好きな人はたくさんいるから、その人達の心がいちいち見えていたら、どうする? ニニの心の誰かが見えたら、うろたえちゃうだろうし」

「変なこと、考えるなよ。いないから、そんな人」


  砂丘の上について砂に降りた時、「ここに来てみたかったの」とサララがわーっと空に両手を広げた。


「いつも見ている砂漠なのに、ここはこんな風景なんだ。砂を歩くのは難しいから、わたしには遠かった」


「これからは、見たい時にはいつでも頼んで。ここ、空けて待っているから」

 ニニンドが自分の背中を指さした。


「ニニ、ありがとう。大好き」

 サララも魔法の言葉を言ってみた。 大好き、そう声に出して言えた自分に、サララは驚いていた。言ってみると、思っていたより簡単で、気分がよくて、何度も言えそうだった。世の中の恋人は、こんなふうに愛を叫ぶのだ。


「サララ、大好きだよ」

 そう言ってくれるニニンドの笑顔はなんてすてきなんだろう。

 わたしは今、どんな顔をして笑っているのだろうかとサララは思う。


「ニニが芸人か山賊ならよかったのにと思っていた」

「どうして」

「王子と付き合うのは荷が重いから」

「私も、そう思っていた。でも、そうでなくても、このままでもやっていけるだろ」

 うん、そうだね、やっていけるねとサララが頷いた。


ふたりは砂丘の上に座った。砂ばかりの世界。 大きなお椀のようになめからな砂の窪み、日の当たっているその二つの窪みの間に、陰になって いる場所があり、そこは蛇が這ったようなぎざぎざ模様になっていた。空はどこまでも、薄い水色 で、煙のような白い雲が漂っていた。 ニニンドがサララの肩を引き寄せ、サララがニニンドの肩に頭を乗せた。


サララは砂の中に手を入れてみた。砂の上は冷たいけれど、中は暖かい。今日の昼間、暑かったということだ。夏には、砂が触れないほど熱くなるけれど、中は冷たい。砂漠の人間なら、誰でも 知っている。そういうことを、ニニンドは知らない。でも、それは重要なことではないし、自分が 知らないたくさんのことをニニンドが知っている。そんな知らない何かをひとつでも知った日は、 幸せな日だと思うことにしよう。


 そして、そういう日をたくさん積み重ねていきたいとサララは思った。 わたしの心には愛がたくさんある。それを誰かに投げてみたいといつも思っていた。でも、それ が誰なのか、わからなかった。でも、今はわかった。いいえ、初めからわかっていた。ただ。認め たくなかっただけ。愛したい人がニニンドだとわかっても、叶うはずがなかったから。


ニニンド、あなたが今、わたしを大好きなことに嘘はないことはわかる。でも先のことはわからない。わたしには特別な魅力はないのだから、あなたの熱が冷めてしまうことはあるかもしれない。わたしは弱気なのではない。ただ暑い夏が永遠ではないことを知っているだけだ。 でも、わたしは今を生きる。

 ニニンド、あなたと行けるところまで、行ってみよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ