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102. 鳩の伝言

「サララさんは殿下のお気持ちを知っておられるのですか」

「いいえ。口も聞いてくれませんから」

「それは確かめてみる必要がありますね。向こうにその気がなければ始まりませんから。おふたりがその気持ちでしたら、私はできる限り、お力添えをいたします」

「ありがとうございます。でも、望みは薄いです。サララはとても頭が切れるので、こんな問題ばかりの私を、好いてくれるはずがありませんから」


 ハヤッタが少し腰をあげた時、「滑りますから、気をつけてください」とニニンドが手を添えた。


「こんな場所でなんですが、ハヤッタ様に、一つお訊きしたいことがあるのですが」

「何でしょうか」

「ハヤッタ様が大切に思っていらっしゃる女性とは、どんなお方だったのですか」

「そうですね。彼女は活発で、おもしろくて、・・・・・・正直に申せば我儘、それは自分勝手すぎるじゃないかと思う時があります」

「それは、意外でした」

 ニニンドが何度か瞬きをした。


「ハヤッタ様の性格から考えて、とても 静かで、しとやかで、奥ゆかしい女性かと思っていました」

「私は殿下が思っておられるような人間ではないのですよ」

 

 ニニンドは、自分も、たぶんハヤッタが思っているような人間ではないだろうと思う。人の本当の姿とはなんだろうか。本当の姿なんて、そういうものは、あるのだろうか。どれもが本当で、どれもが虚なのか、誰にもわからない。   


 ニニンドは遅くまで屋根の上にいたが、わかったのは、このままではいけないということだった。

 それで、次の朝、意を決して、サララのもとに、伝書鳩を飛ばした。

 そして、急いで仕事を片付けた後、旋風を飛ばして、昼前にアカイ村に向かった。


 夕日がオレンジ色の光を出し放ち始めた頃、瓦礫の道の向こうから、砂ぼこりをあげながら、ラクダがすごい勢いで 走ってきた。

 あれは、カリカリ。

 サララが、カリカリを走らせてきたのだった。鳩が運んだ「会いたい」という伝言を受け取って、会いにきてくれたようだ。


 夜旭町から帰ってからずっと無視され続けているので、サララはまだ怒っているのかもしれない。サララがどういう反応をするのだろうか。

 罵倒されてしまうかもしれないが、とにかく会いに来てくれたんだと思うと、心臓が小太鼓のような音を立て始めた。


 何度もサララに会いに行こうとして、その度にどんな思いでその気持ちを押し戻していたことか。でも、今日は会いに来られたから、また殴られたとしても、ここまで来られたから、それでいいことにしようと思った。

 

 ニニンドが旋風を下りていつもの歩き方で、ゆっくりと近づいていった。

 しかし、サララはカリカリに座ったままで、下りてはこなかった。 


「何のために、あんなに苦労してラクダの乗り方を習ったのか、今、分かった」

 とニニンドが口を開いた。

 会えたら言おうと考えていた言葉はいくつもあったのに、別の言葉が出てしまった。

 ニニンドが、サララがラクダから降りるのを助けようと手を差し出すと、彼女はその手を払った。


「まだ怒っているのかい」

「怒ってない」

 そう言いながら、サララはそっぽを向いた。そして、くっと振り向いた。


「よく聞きな。わたしはどんな時でも、人の手は借りない。降りたい時には自分で降りる。乗りたい時には、自分で乗る」

「わかった」

 サララはカリカリから飛び降りたが、足が砕けて、砂地に落下して尻餅をついたので、ニニンドが助け起こそうとした。


「話を聞いていたのかい。だから、何でもひとでできるって言ってるじゃないか」

「ひとりでできることは知っている。何でも、ひとりでやればいい。でも、私にだけは、私がいる時だけは、助けさせてほしいんだ」

「どうして。あんたにだけに、そんなことをさせなくっちゃならないのさ」

「特別に思っているからだよ。だから、サララにも、特別に思ってほしい。私はサララを助けたいんだよ。助けてもほしい」

「そんなこと、これまで、何回、言ったんだ」

「誰にも、言ってはいない」

 ニニンドの目から涙が流れていたけれど、サララはそれに気づいていないことにした。


「わかった。起き上がりたい」

 とサララが手を伸ばした。


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