はじめに
「この顔を見てごらん、役者かもしれない」
どこからか少しかすれた女子の声が聞こえた。
「役者を見たことがあるんですか」
こちらは男子で、声が少し高めで幼さが残っている。
「ない。でも、わたしにわかるさ」
「サララ姉さんには、何でも、わかるんですね」
姉弟にしては、弟の言葉遣いがずっとていねいだ。
何やら動きは感じられるものの、声が消えたかと思ったら、
「いやだよ、いやだよ」
男子が何かに抵抗しているようだった。
「すべすべしているから、さわってみろって」
その時、ふたりの会話を聞いていた少年の頬の上を、乾いたナメクジみたいなものが這ったので、彼はびくっとして、目を開けた。
それが、六つの瞳が出会った瞬間だった。
女子はサララ、子供はリクイ、気を失っていた少年はニニンドである。
ニニンドの顔の正面に、四つの目、黒いふたつと緑のふたつの瞳が見えた時、彼は死んで別世界に来たのかと思うくらいおびえた。
こいつは人間なのか。
リクイの瞳はエメラルドのような美しい緑色だったからで、こいつは人間なのか。ニニンドは十七年間生きてきたけれど、こんなビー玉みたいな瞳を見たことがなかった。
「痛い」
ニニンドが起き上がろうとしたら、身体中の骨も血管もずたずたになっているような痛さが走り、身体中から汗が出た。
まずい。
「折れているのか」
と彼がつぶやいた。
もし骨折でもしていたら、大変なことになる。国に逃げ帰れなくなったら、あの十六人の爺さん婆さんはどうなるのだ。
「骨は折れてはいませんよ」
少年のほうがはっきりと答えた。
「打ち身と擦り傷だ」
と姉のほうががらがらと笑った。
ニニンドはむかっとした。傷を負っている人間に向かって、この女子が豪快に笑ったからだ。同情心というものがないのか。だから、彼はせいいっぱい睨みつけた。
「大丈夫ですよ。軟膏を塗りましたから」
と少年のほうが言った。
これが三人の出会いなのだが、この物語はそのニ年前のある日から始めよう。それはリクイがまだ十三歳で、彼が孤独というものをひしひしと感じて、泣いてしまった夜だった。