第二話 俺は友達ではなく、男である
おい、何だこの状況は。
「ごめん颯真っ、シャワー貸してくんない?」
今日は美代さんが友達と温泉旅行に行ったらしいから、別にシャワーを貸すのはいいけど。
「その血、誰の?」
「ん?相手の。」
うちの学校の制服は白のセーラーに青のスカートだったはずだ。それなのに、赤のセーラーになっている。
それほどに真っ赤なのだ。
「ありがと。」
「部屋出て右、そのまま進んで一番奥のところ。」
「はーい」
部屋をスカートを翻しながら出て行き、しばらくしてからシャワーが流れ出す音が聞こえ、俺は持っていた雑誌に視線を戻した。
「・・・」
あいつ、どんな喧嘩やってきたらあんなボロボロの血塗れになるんだ。
制服だってどうする気なんだ。
「・・・ぃ、颯真ぁ!」
遠くから、かんなの声がして雑誌から目を離した。
「なんだぁ?」
「スウェットかなんか貸してくんない?」
「俺の!?」
おいおい。俺達身長差どれだけあると思ってんだよ。
俺は高校になってからも更に成長して今は180センチ。それに比べあいつは160ってとこか?明らかにサイズ違うだろ!
「いーから持って来いっつってんだよ!!」
切れた。なんだ、あいつ。自分勝手にも程があるぞ。
「はいはい・・・」
文句を言いながらシャワー室まで行き、自分の中では一番小さいサイズのスウェットを洗濯籠の中に放り込む。
あいつ、恥ずかしくないのか。男の家きて、しかもシャワーまで借りて・・・。
自分の中で変な妄想が浮かぶ。が、俺は顔をぶんぶんとふってそれを頭から除外する。
ありえない。うん。まずありえない。
「ふひー・・・」
親父っぽい声をあげながら風呂場から出てきたかんな。
タオルで頭を拭いているが、金髪がキラキラしていてとても綺麗だ。
「お前・・スウェットだぼだぼじゃんか。」
「だから捲ってんの。あんた何食ったらそんなデッカくなんの?」
「富竹も女子の中では背は大きいほうだと思うけど。」
「ちっがうの!喧嘩の時は別に小ちゃくてもいいけど、他の女子と並ぶとみんなでかいの!みんな165とかそれぐらいはあるの!」
んな熱心に相談しなくとも。
背が低くても別に俺には関係ないし、小さいほうがぶっちゃけ俺は好み。
あんまり背がでかいとね、隣にいる俺が背が低く見えるし。
「別にいいんじゃねぇか。その身長でも。」
「そうかな・・かな。」
金髪の毛先をいじりながらこっちを見るかんな。
「まぁ、今日はありがと。あたしはこの辺で失礼するわ。」
「おい、スウェットは!?」
「借りてくわねー。」
どんだけ自分勝手なんだよパート2。
「学校で返す。待ってるから。」
学校・・・?
「マジで言ってんの?」
「じゃーにー。」
だぼだぼの黒スウェットのせいか、いつもより金髪が眩しい。
あいつ。学校で目立つだろうなぁ・・・。
そんなことを考えつつ、俺は窓辺を見つめる。
昨日かんなと会ったばかりなのに、なんであいつはこれだけ俺を信頼しているんだろう。
もしかして俺は男として見られてないのか?
・・・真剣に悩むところだよな、これ。
口の端だけで笑って、窓の鍵を閉めようとした時。
「ちょっと待ったぁあ!!」
下から、そんな怒号が聞こえた。
「と、富竹!?」
「兄ちゃんがこれ見て発狂してんの!匿って!!」
その顔は、いつになく必死だった。
・・・で、前言撤回しよう。
あいつはきっと俺のことを友達と思ってるに違いない。そうに決まってる。
その後、かんなを追い返すのに小一時間かかったことは、言うまでもないだろう。