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作者: piyo

一歳を過ぎた娘と家に二人きり。


娘は近頃ようやくおぼつかない不安定な足取りで歩き出し始めたところだった。



興味を示したものに近づき、よく転んでいる。


まだまだ目が離せないが、ときおり一人遊びをするので、

以前の常にこちらがあやす時期よりは少し楽になった気がする。



いまは、おままごとの野菜セットを手に持って、キッチン近くの壁に向かってどうぞをしている。


まだ喃語しか喋れないが、最近はどうぞの真似をするようになった。




「じょ」




かわいい言葉を言いながら、どうぞの仕草をする。




壁に向かって。


「じょ」


何度も、何度も。




「ママはこっちだよ~ほら、こっちにどうぞしてごらん?」


娘はこちらを一度見たが、また壁に向かって同じ動作を繰り返している。


「じょ、じょ!」


ママにあげたかったわけではないらしい。



壁がおもちゃの野菜を貰ってくれるわけはないので、おもちゃは娘の手の中にあるままだ。


「じょ、」


コロン



「あぁ”~・・・・!!!」



手から落ちた。




目に涙をためて癇癪を起こしそうな娘。


慌てて駆け寄って、抱っこしてあやす。




「はいはい、壁さんは貰ってくれなかったね~落としちゃって悲しいね~」




ふと、娘が座ってた位置から壁を見ると、娘が「どうぞ」していた部分に、すすけたようなしみがあるように見えた。


今の今まで気が付かなかった。

娘にはこのしみが人のように見えていたのかもしれない。




それと同時に、さっきの動作に少し違和感を感じていた。


おもちゃは確かに手から落ちたのだが、


まるで外からの力で振り払われたように、転がっていったように見えたからだ。


どこか、なんとなく不自然に。




『ヤめロ』




ボイスチェンジャーのような、低いような高いような歪んだ声が耳元で聞こえ、咄嗟に振り向く。


もちろん、誰もいない。

さっきからなんだか気味が悪い。



すると、

突然、腕の中の娘が、火がついたように泣き始めた。



「ぎゃああああああああああぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁ!!!!!!!!!」


「え、急にどうしたの?!」




私に訴えかけるように、必死で指差しをする娘。


指をさす先には、



壁。



壁のしみが、小さな子供の手の形に変わる。



いくつも、いくつも

ペタ、ペタ、ペタ、と。



次々と現れる手形。



あまりにも奇妙な光景に目が離せない。


娘はずっと指差ししながら、壁を見て泣き叫び続けている。








*************







気付くと、娘と二人でお昼寝布団の中で寝ていた。


どうやら夢を見ていたようだった。


ひどい夢だ、汗で服が湿っている。



娘を寝かせたまま、水分をとりにキッチンに行くついでに、夢に出てきた壁を見てみた。

手形は無かったが、薄いしみはあった。


悪夢に現れるくらいの強い印象なんて無かったはずなのに・・・

拭いたらとれるかな?



夢の件もあり汚したままなのも気持ちが悪いので、ウエットティッシュを取りに洗面へ向かおうとすると、



『ヤメろ』




耳元で声がした。





また、じわりと汗がふき出る。


壁を振り向くと、ひとつ、小さな手形がついていた。




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