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非の打ちどころのない好青年

東京都世田谷区野毛の閑静な住宅地の中に、あるワンルームマンションが存在する。

1990年代初頭に建てられた二階建てのこじんまりとしたそのマンションは、最寄りの駅から徒歩9分、コンビニや郵便局にも近くて家賃も5万円台とリーズナブル。

都内でありながら落ち着いた生活ができ、大学生が住むにはうってつけの環境だ。

だが、このマンションが建ってほどない頃の今からちょうど30年前、二階の203号室で凄惨な殺人事件が起きていた。

殺されたのは、卒業を目前に控えた大学生。

夢をかなえるために羽ばたこうとしていた矢先の無念の死であった。

1994年(平成6年)2月15日の夜まで、このマンションの203号室はまだ瑕疵物件になっていなかった。


この日まで同203号室に住んでいたのは、青山学院大学4年生の学生で和歌山県出身の松本浩二(23歳)。

松本はこのこじゃれたワンルームマンションの住民にふさわしい好青年だった。


高校時代は、短距離の選手で近畿大会に出たほどの実力の持ち主で、青山学院大学入学後は一転してヨット部に入ったが、運動神経抜群の彼はそこでも実力を発揮。

3年生の時には、全国で3位に入ったほどのスポーツマンだ。

だからと言って松本は体育バカではなく学業もおろそかにしていなかったし、性格もさわやかなナイスガイだった。


進路を決める4年生になると、エアライン・パイロット養成のための公的機関である航空大学校を受験し、頭脳明晰な松本は競争率7~10倍の壁を突破して見事合格。

4月からは、同大学校で国際線パイロットになるための訓練が始まる。

それは、彼の長年の夢だったのだ。


来月に大学の卒業式を終えた後、その夢の実現に向けた第一歩を踏み出すことになる彼は幸福の絶頂だったことだろう。


航空大学校は遠く宮崎県にあるために4月までには引っ越さなければならないが、非常に実り多き四年間の大学生活を送った東京を離れるのは名残惜しいものだ。

実家の母親からは「帰ってきたら?」と電話で言われていたが、松本は残り少ない東京での暮らしをかみしめながら過ごすつもりだった。


だが、後に母親はなぜもっと強い調子で「帰って来い」と言わなかったのかと悔やみ続けることになる。


なぜなら、この日は息子の夢ばかりか、命までもが永遠に絶たれる日となるからだ。


ちょうどこの時、松本の住む部屋の隣室に、その災いをもたらすことになる悪魔たちが、邪悪な企みを実行に移そうとしていたことを、彼はまだ知る由もなかった。



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