ちょっと好きになる ──ふれんず
「バレンタイン恋彩2」参加作品です。
「ほい、菅野くん。チョコレート」
「あ、ありがとうございます」
同じ部署の二つ上の先輩、笹森さんにチョコを貰った。他の人が外回りに出てて二人きりの時だったので少しばかりドキリとしたものの、帰ってきた人たちにも同じようなものを配っていたので、やはり義理だと確信した。
それから定時を越えて笹森さんと残業。同時に終わったらしく、一緒に会社を出た。20時近かったし、食事も兼ねて飲みに行くことにした。
「そんなに怖がらなくてもいいじゃん。私、そんなに怒ってるかなあ?」
「そんなに?」
「はあ!?」
「ごめんなさい。ウッソでーす」
とは言うものの、飲みながら説教を食らった。
「あのねぇ、私は二つも上だし、あーたより大人なんだからね!?」
「はい、そーですよね」
「もー、菅野くんが失敗するからじゃん。私だって怒るのつらいんだから!」
「ごめんなさい、すいません」
そんな感じで笹森さんはガブガブやっており、帰る頃には真っ赤な顔してフラフラになっていた。
「大丈夫ですか? 歩けます?」
「歩けなあ~い。ねえ、おぶって?」
「おぶるんですか? もー、なにが大人だよ」
「は? 菅野。お前さあ」
「はいはい。おぶればいいんでしょ?」
「もー、最初から素直にしろっ! てーの」
笹森さんを背負って、指示通りに進む。やがて彼女のマンションへと到着。七階の部屋へと連れていった。
「こっちですね? 703でいいんですね?」
「うぉい菅野!」
「なんスか。酒癖悪いなあ」
「部屋入ってけー」
「ダメでしょ。女性の部屋に」
「け。真面目だなぁー、お前は」
「はいはい」
「好きだぞ。そーゆーとこ」
「え?」
「ぐー、ぐー、ぐー」
「ちょっと、笹森さん?」
「ぐー、ぐー、ぐー」
「ちょっと起きてくださいよ。カギは?」
「カギ?」
「はい」
チャラリと音を立てて出したカギを受け取ると、笹森さんはまたもや寝息を立ててしまった。
このままにするわけにもいかず、彼女を部屋に抱き入れて、ベッドへとそっと置いた。
「カギ……、どーしたらいいだろ?」
「くーくー……」
「オートで掛かるんかな? 試しにやってみよう。おじゃましました」
「かん の くん……」
「はい?」
「好き……」
「え?」
「くーくー」
な、なんだこれ。俺はドキドキしながら彼女の寝顔に「おやすみなさい」を言って部屋を出た。ドアは自動でロックがかかったので、そのまま自身の家へと帰った。
次の日、会社。俺は笹森さんよりも先に出社していた。昨日のことを思い出すとドキドキが止まらない。やがて笹森さんが頭を押さえながらやって来た。
「うー、おはよう」
「あ、おはようございます。さ、笹森さん」
俺はなぜか立ち上がって彼女と顔を合わせた。しかし彼女は気だるげだ。
「ごめん。二日酔い。なにも覚えてない」
「だ、大丈夫ですか?」
「ダメ。話かけんな」
「すいません」
俺は席へと座る。彼女も席へと座り、だるそうに仕事を始めた。なんともない、いつもの日常だ。
しかし、俺の回りには桃色の景色が流れ、少しばかりハッピーな気分だった。
来月のホワイトデー。もう一度彼女を誘ってみよう。