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『あとひとり』

「チームは最低四人から最大一〇人で組めるキュイ! 有名なとこだと、企業Vがユニット組んでそのままチーム登録してるキュイね。活躍に応じてチームボーナスがもらえるキュイ」

「ブロンズから導入されるチーム戦もやりやすくなる。ゲリラで組むとどうしても連携がとれないからな。また今回の我々のように、チームで声をかけてもらえることも多くなる」


 グーリさんは意外に渋い声をしている。


「あ、あと、マイルームも部屋が増えるよ。大きなチームベースが拠点になるから、それぞれの展示とか、共有エリアでふれあいイベントとか。い、いろいろできる」

「まぁ、ベースの購入はそれなりにマニーがかかるけどねぇ。組むだけならタダだけど、ぶっちゃけベースがないとあんまりうま味はないかニャ~」


 ビビりっぱなしのうさぎさんは、のんびりした子猫さんにまだ頭を撫でてもらっていた。


「ま、いろいろ言ったけどやっぱり一番は、ひとりよりも楽しいことキュイ! みんなとやれば配信にも幅が出るし、チームはいいものキュイ!」

「なるほど。私たちが組むとなると、あと一人足りないわけですか」

「うん、そうなるけど……ルー。きみはどうする?」


 澄んだ瞳がルーちゃんを見つめる。惚気ていた顔が引き締まり、背筋がピンと伸びた。


「アタシがリーダーを務めるチーム・銀の牙の枠はあと一人。ルーを迎える用意はできているよ?」


 胸を掴まれる気がした。

 たぶん、カタナちゃんも同じだったんだろう。驚いた表情でルーちゃんを見ていた。

 当たり前に、これからもルーちゃんはいっしょにいるんだと思っていた。でも、冷静に考えればぜんぜん当たり前じゃない。


 だってわたしたちを繋げたのは、ルーちゃんが抱くユキノさんへの憧れ。

 わたしと出会うずっと前から育んできた、大切な気持ち。

 ルーちゃんと離れるのはものすごく寂しい。けれど、その選択を止めることはできない。そんな資格、わたしにはない。


「……せっかくだけど、お断りします」


 絞り出した声は小さく震えていた。


『マジで?』

『最初は入りたいって言ってなかった?』

『ユキノ様に憧れてVになったのに?』


 群れの人たちも驚いている。

 けれど憧れの人と向き合う目はまっすぐで、とてもかっこよかった。


「いいのかい? 他のVが入ってしまうよ?」

「はい。ルーはお姉さまのチャンネルのリスナー、牙団員だったらそれでいい。ルーはいつか、ユキノお姉さまと戦いたいんです。チームの一員として守られるんじゃなくて、一人のライバルとして。ルーが成長した姿を、強くなった姿を見てもらいたいんです!」


 周りの喧噪がよく聞こえた。

 見つめ合っている二人の間に、どんな想いが交わされているのか。わたしには知りようがない。


「……わかった。強くなったね、ルー」


 優しい瞳から深い母性が滲み出ていた。


「はい! でも、もっともっと強くなりますから!」


 ユキノさんとルーちゃんは固い握手を交わし、お互いをライバルとして認め合った。


 感動的な場面を前に目頭が熱くなった。

 お世話になった先輩たちに別れを告げ、いろんなモフモフの背中を見送った。


「さっ、これから忙しくなるぞ! まずは」

「あの!」


 ルーちゃんの声を遮った。今きっと、気持ちを切り替えようとしたはず。

 でも、言わずにはいられない。


「ルーちゃん、カタナちゃん。わたしとチームになってください! わたしは二人といっしょにもっと強くなりたい。配信もしたいし、もっともっと楽しいことをしていきたい。だから、改めてよろしくお願いします!」


 雰囲気や流れに任せちゃダメだ。

 わたしたちが次へ進むなら、ちゃんと言葉にしないといけないんだ。


「……当たり前だろ。そっちこそ、あとから嫌って言っても遅いからな」


 顔を上げると、気恥ずかしそうに顔を逸らす子犬少女がいた。


「私としたことが礼節を失念していました。こちらからも改めて。チームとして共に歩んでいきましょう、お二人とも!」


 カタナちゃんが手を取って、三人がひとつに繋がった。


「こ、ここで盛り上がっても仕方ないだろ! あと一人入れなきゃ、チームも作れねぇんだから!」


 照れ隠しで大きくなった声がかわいい。


「そうですね。闇雲に誘うわけにもいきませんから、なにか判断基準を設けませんか?」

「うーん、わたしたちの同期はどうかな? 頂上戦のだれかとか」

「それいいな。チームのコンセプトとしても売りにできる」


 三人で近くのベンチに座って、ルーちゃんのウィンドウを覗き込んだ。


「暁明は……既存の中華チームに入ったか。料理系Vのチームみたいだな」

「万丈殿かスターバイン殿はどうでしょう?」

「こんな美少女ばっかのとこにオッサン入れてどうするよ! それにダンナはもう自分でチーム立ち上げてる。銀河警察も入って……だぁー! シャルル・マルル取られたかぁー!」


 名前が上がるVたちは、すでに行動を起こしていた。

 ルーちゃんが頭を抱えてカタナちゃんが唸る中、わたしは小さく手を上げた。


「あのぉ、わたし誘いたい人がいるんだけど……」

「だれだ?」


 ここまで名前が上がらない理由はわかる。

 だけど彼女なら、実力も人気も申し分ないはずだ。


「ルナちゃん」


 カタナちゃんは「おぉ!」と手を叩いて目を輝かせてくれた。

 ルーちゃんは案の定、嫌悪感丸出しの表情になった。


「……ひかるが連絡取れ」


 なんとか絞り出した声は、強い歯ぎしりの隙間から漏れ出ていた。

 ウィンドウを操作して、真新しいフレンドの名前をタップする。


「ごきげんよう、ひかるさん! わたくしになにかご用ですか?」


 響き渡ったテンションの高い声が、通行人の足を止めた。

 同時に、ルーちゃんの歯ぎしりがさらに強くなった。

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