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『忘れられない景色』

『うおおおおおおおおおお!』

『おめだとう! 間違えた、おめでとう!』

『夢と感動をありがとう!』


 コメントが感動と祝福の嵐になって、見たことない勢いで更新されていく。


「あ、ありがとう、みんな。あの、ほんとうにわたしが?」


 なんだか現実味が湧かない。

 混乱のまま転移すると、お腹まで振動する大歓声に出迎えられた。

 わたしを囲んで、他のVのみんなが手を叩いてくれている。


「ひかるー! よくやった! よくやったあああああ!」

「ル、ルーちゃん!」


 飛び出してきたルーちゃんが、勢いよく抱きついてきた。


「おめでとうございます、ひかる殿! ……いかがしましたか?」


 駆け寄ってきたカタナちゃんが、不思議そうに首をかしげた。


「い、いやぁ、なんだかあんまり実感がなくて」

「なるほど。激戦でしたからね、気が抜けても無理はない」

「いやいや、それじゃあ締まらねぇっての! よしっ、ルーも嬉しいから今だけ特別だ! モフモフしていいぞ!」

「い、いいの! あぁ実感が、特別感が湧いてきた。い、いただきますぅ」

「モフるだけだからな! ってあっ、ちょっ、そこは」

「……お邪魔してよろしいかしら?」


 祝福ムードの中に不機嫌な声が混ざった。

 振り返ると、傷の癒えた薔薇の女王が腕を組んで睨んでいた。


「ルナちゃん」

「……完敗ですわ。あんな戦い方、わたくしじゃ思いつきません」

「で、でも、わたしのパフォーマンスは」

「わたくしはあの場で最善の選択をしました。全力の貴女と全力で戦えたこと、誇りに思いますわよ」


 石を叩くヒールが近づいたかと思うと、優雅な抱擁が体を包んだ。


「このわたくしに勝ったのです。もっと自信をお持ちになって?」

「……はい。わたしも、あなたと戦えて光栄でした!」


 甘い薔薇の香りが疲れた体に染みていく。

 バトルには勝ったけど、女王様に器の大きさは敵わないや。


「おいっ、なんでちょっとづつルーから離れていくんだよ」

「貴女みたいなエロパピィといっしょにいたら、ひかるさんが穢れてしまいます。そうですわ、ひかるさん。よろしかったら、このあとお紅茶をいっしょに」

「いーやっ! このあとはルーとのイチャつき配信で金稼ぐんだよ!」

「お待ちを、お二人とも。お気持ちはわかりますが、ひかる殿にはまだやることが残っています」


 夢だった「わたしのために争わないでっ!」に酔っていると、カタナちゃんの冷静な声が現実に引き戻してくれた。


「そうっすよ。サンちゃんに仕事させてくださいっす」


 見ると、ボーイッシュな女の子が立っていた。

 すっかり声に親しみを覚えた、実況のサン・ライトちゃんだ。


「いやーマジで感動したっす! サンちゃん、ひかるさんの大ファンになりましたよ! あ、もちろん頂上戦のみなさんのファンっすよ? そしてそれは、サンちゃんだけじゃないはず。でしょう、みんな!」


 まるで声の大波が迫ってきているよう。

 観客の大歓声がうねりになって、会場を揺らした。


「さぁ! 大いに盛り上がった五月期頂上戦。勝利者の表彰だぁー!」


 サンちゃんが指を鳴らすと足下の石畳がせり上がり、どんどん視線が高くなっていった。

 小さく手を振るルナちゃんの笑顔は、ほんのちょっとだけ悔しさがこぼれていた。


「一戦目勝者、暁明! 二戦目勝者、ワンワン・ルー! 三戦目勝者、ロード・オブ・グロリア! 四戦目勝者、海月カタナ! そして五戦目! 順位の差を覆し、見事勝利を納めたミス・ジャイアントキリングの名はぁ!」


 ひとりひとりに当たっていくスポットライトが、わたしにも向けられた。

 同時に、大勢の視線が集まっていく。


「桜色ひかる!」


 この先どんなことが起こっても。

 わたしはきっと、この光景を忘れることはないだろう。

 この胸に溢れた感情を、流れた涙の熱さを、いつでも思い出すことができる。

 最高の景色が、目の前に広がっていたのだから。

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