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第十一話 『妖精と子犬と海月のコラボ配信』

「……みなさん、こんひかる! 夢と元気を届ける桜の妖精、桜色ひかるです」

「言うこと聞かなきゃ噛んじゃうぞ! ルーがワンワン・ルー様だぁ!」

「朝からのコラボ配信、最後の歌枠となりました。みんな来てくれてありがとう!」


 時間は夜九時を回り、わたしのマイルームを舞台にコラボ配信夜の部が始まった。

 ルーちゃんと二人で始めた配信だけど、この歌枠だけは注目度が違ってる。


「ここでっ! 知ってる奴は知ってるかもだけど、スペシャルゲストが来てるぞ!」

「みなさんはじめまして。深海から来た戦う姫君Vテイナー、海月カタナです。お邪魔してます」


 海月カタナちゃん。わずか三ヶ月で、ルーキーランク最強との呼び声高いVテイナー。

 つい数時間前にわたしと戦って、なんとか勝つことができた相手。


 でも、その勝利を素直に喜べずにいた。

 バトルの最中の自分はもちろん、最後に見た彼女の涙がどうしても頭から離れてくれなかった。


「いやぁ~、よく来てくれたなぁ。でもまぁ、負けちまったもんはしょうがないもんなぁ?」

「ルーちゃん、嫌な悪役みたいになってるよ」


 わたしたちのバトルが終わってから、ルーちゃんの悪い笑顔が止まらない。

 特に考えず口にしたコラボの提案を「話題性! リスナー稼げる!」と一番喜んでいたのはこの子だ。


「そういえば少しチャンネルを見てみたけど、普段は歌枠とかあまりしてないね?」

「はい。多いのは実写での配信ですから。我が家は剣術道場をしてまして、基本的な型やダイエットに効果のある動きを紹介しています」


 見せてもらった動画では、立派な道場が映っているものがあった。

 律儀で礼儀正しいリスナーさんが多いのも、これが理由だと思う。

 手元やVギアを被った映像ばかりだけど、若くてきれいな女性だということがわかった。


「配信ではない動画も多いので、マニーへの換算もそこそこありますね。正直、コラボへの参加ではペナルティにならないと思うので……ひかる殿、よければいくらか」

「い、いらないよ!」


 関係ないのにもらおうとしたルーちゃんの手を叩き、大草原中のリスナーさんたちのコメントを返す。


「なぁなぁ、歌う前にひとつ聞いていいか?」


 ルーちゃんが椅子の背もたれを抱きしめながら聞いた。


「なんでしょう?」

「バトルの最後なんで泣いてたんだ?」


 いきなり確信を突く質問。

 いや、わたしも気になってたから助かるんだけど、なんというか心の準備ができてない!


「……大切な歌なんです」


 深海の姫君は伏し目気味に答えた。


「私のリスナーは知ってくれていますが、私にはVになった目的があるんです」

「目的?」

「ひとつは、バトル・アリーナ特有の多次元的な戦い。魔法や重火器、スキルなど現実ではありえない猛者との戦いの中で、自分の腕を高めたいという想いです」

「バトルジャンキーかよ」

「ルーちゃんちょっと黙ってて」


 口をとんがらせたルーちゃんはほっといて、真剣な眼差しを見つめなおす。


「もうひとつが、ある人を探すためなんです。昔、未熟だった私を助けてくれた恩人……今は連絡が取れないんですが、Vが好きだという話を耳にしまして。ここで勝ち上がり有名になれば、その人にも見てもらえるんじゃないかと。強くなった私の姿を、どうしても見てもらいたくて」


 悲し気だけど熱い瞳。

 バトル・アリーナに懸ける彼女の覚悟と信念を、言葉以上に物語っていた。


「その恩人もあの歌が好きだったんです。私も辛いとき、何度も救われました。アニメも全話見ましたし……とてもいい曲ですよね」

「はい、そうなんです。本当に」


 無意識に微笑みを交わし合う。胸の奥で温かいものが通じ合った気がした。


「なんだよーなんだよー。ルーをのけ者にするなよー」


 さっきよりも頬を膨らませて口を伸ばし、不貞腐れたルーちゃんがモフモフの足をバタバタさせた。


「の、のけ者なんてそんな」

「罰として一曲目はお前ら二人で歌え。選曲はルーがする!」


 驚いて戸惑ったのも束の間、ルーちゃんは問答無用でウィンドウを操作した。

 そして、流れてきたのはたった今話していた曲だった。


「これって……」

「ルー殿……」

「あんだけ二人の世界に入ってたんだからな。下手だったら切り抜いて笑いものにしてやる!」


 ベッドに飛び移って吠える姿は、尊い以外なんと言っていいかわからない!


『ツンデレで草』

『これはいいツンデレ』

『この子ったら素直じゃないんだから』

「うるさいぞ群れたち! 盛り上げる用意しろ!」


 笑っていると、カタナちゃんと目が合った。

 海のように澄んだ瞳は、とても優しい色をしていた。


「「――――――――」」


 二人で歌った大好きな歌は、初めてとは思えないほど息が合って。

 楽しくて、嬉しくて、心地よかった。

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