あの日のこと
「和歌子ー。おはよう!生きてるー?息してる?」
早朝、数日ぶりに登校して机で寝ていた和歌子にアリサが話しかけた。他の生徒はまだ来ていない。
「アリサ、お葬式来てくれてありがとう。アリサが代表でよかったよ。もしも他にたくさん人が来てたらキツかった。あの日のことあんまり覚えてないんだよ。今も夢の中にいるみたい。」
あの日、和歌子は祖父の葬儀の間中ずっと泣いていた。
綺麗な顔はぐちゃぐちゃになり目が腫れていた。
アリサは真面目な顔をして言った。
「和歌子、これからどうするの?お母さんとこに行くの?もしも一緒に暮らしたらあんた殺されるよ。」
「どうしようかな…考えたくない。」
和歌子はほおづえをついて窓の外を見ている。
「あたし達が保育園の頃、あんたのお母さん、あんたのこと殺そうとしたんだよ。私とお母さんが見てたから助けられたけど。」
和歌子とアリサが保育園のころ。
アリサ親子は和歌子の家によく遊びに行っていた。
ある日、二人が訪ねると何か様子がおかしいことに気がついた。家にあがると和歌子の母が和歌子に馬乗りになり首をしめよとしていた。
その後、いろいろなあり、和歌子の母は入院し和歌子は祖父に引き取られた。
和歌子は窓の外を見つめたまま表情を変えずに静かに
「うん。わかってるよ。でもお母さんは、わざとやったんじゃないんだよ。あれは仕方なかったんだよ…」と言った。
アリサは何も言えなかった。
そうしている内に他の生徒たちが登校してきた。