祖父の死
梅雨
今日も朝から雨が降っている。
いつもは静かな和歌子の家だがその日は違った。
昨夜から人の出入りが多く皆んな忙しそうにしている。
玄関周りには白黒の垂れ幕が下がっている。
仏間には祭壇が作られており、和歌子の正面には見知らぬ老夫婦が座っている。
「お葬式が終わったばかりで、こんな話をするのは何だけどお爺さんが亡くなったからには貴方を一人でここに住まわせるわけにはいかないのよ。まだ中学生なんだし。」そう話すのは和歌子の父の姉、和歌子の伯母にあたる人だった。
和歌子は俯いたまま返事をした。
「はい…」
伯母は言った。
「この家と土地を買いたいって話がかなり前からあってね。お父さん(お爺さん)が住んでいるから断っていたけど、入院費や介護費用とか、あと相続税を払うためにお金が必要なのよ。だから、思い切って売ろうと思っているのよ」
「え?いつですか?…」
和歌子は驚いて顔をあげた。
「夏休み中には出て行って欲しいの。」
伯母はわざとらしい親切そうな笑顔を浮かべ、まるで幼児に言い聞かせるような口調で言葉を続けた。
「これを機会にお母さんの所に行ったらどうかしら?産みの親なんだから可愛がってくれるわよ。今まで何にもしていないんだから。」
和歌子はすぐに返事ができず、ただ、黙って泣くしかなかった。
和歌子の父親は和歌子が母親のお腹にいる時に亡くなった。
和歌子という名前は祖父がつけてくれた。
保育園の頃に祖父母に引き取られこの家で育った。
母親とは年に数回しか会わない。
和歌子にとって母親は母というよりあまり知らない遠い親戚という感覚だった。




