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籠の小鳥たち  作者: 猫林かおる
18/21

待ち合わせ

「あの、リリカ、隠すの嫌だから言っとくね。

今日、アリサも来るんだ。」


「え……?そうなの?」

リリカは思わずいつもより少し大きい声で言った。


「うん。なんか、私とリリカに話があるらしい。」


「私、また何か言われるのかしら……何かやったかな。」


「そうじゃないと思う。なんか別の事だと思う。」


「なら……良いけど……やだな。」


「ごめん。気まずいよね。

でも、アリサの話を聞いて欲しい。

アリサは私にとって大切な友達なんだ。」


「うん。わかった。」

ファミレスに着いてから、かなり時間が過ぎたがアリサは来ない。

二人は何も注文せずに店にいるのが気まずくなり取り敢えずドリンクバーを注文した。

飲み物を持って席に戻って席に着くとリリカが言った。


「若君(和歌子)は夏休みに新しい家に引っ越したんでしょう?

お母さんとはどう?優しい?」


「うん。すごく優しいよ。」


「よかった。もう寂しくないね……幸せになれたね。」


「そうだね……幸せになったんだと思う。」


そう答えた和歌子の顔はどことなく寂しげで少しも幸せそうではなかった。


「前よりかなり良い生活になったし、家族はとても優しい。

何をする時でも凄く気を遣ってくれる。

欲しいって言って無いのに服とか物を買ってくれるよ。

でもね……時々、私、あの古い家で一人暮らししていた頃に戻りたいって思ってしまう。

夜、私が塾から家に帰ると家族三人で楽しく話しているんだ。

でも、私が部屋に入ると静かになるんだよね……皆んな話をやめてしまう。

『おかえり』って言ってもらえて嬉しいけど、私がいると家の中の空気変えちゃう。

あ、ごめん。涙が……」


リリカは黙ってポケットティッシュを和歌子に渡した。

リリカはその後、何も話せなくなった。

自分も母親と一緒に暮らしていているのに寂しい気持ちが蓄積している。

和歌子の寂しさの原因はわからないが辛い気持ちは理解できた。


「リリカは?お母さん、帰って来たの?」


「うん。帰って来たよ……

私が一緒にいてほしい時はいなくて、一緒にいたくない時はずっとそばにいるの。

私はママの暇つぶし。心に他の人がいなくなった時のつなぎ。穴埋め。」


和歌子はリリカに、なんと返事をすればいいのか迷った。

リリカにお母さんのことなど聞かなければよかった。


その時、窓の向こうにアリサが和歌子達がいる店に向かって走って来ているのが見えた。

和歌子に手を振って「ごめん!」と言っている。

アリサは息を切らせて店に入って来た。


「待たせてごめんね。あと、岩本さん、お願い!私が来たからって帰らないで!」


「うん。大丈夫。」リリカは笑顔で言った。


アリサはホッとした顔をして話し出した。

「岩本さん、最近、誰かに嫌がらせされてるよね?」


「え?なんで知ってるの?誰にも言って無いのに。」

リリカは驚いて言った。


和歌子も驚いて言った。

「え、それって、どう言うこと?何されてるの?」


アリサは正直、どこまで二人に話すのか迷っていた。

嫌がらせをしていた犯人は幼馴染のマユだ。

それは紛れもない事実。

さっき、掃除ロッカーの中からリリカの上履きを盗もうとしているマユを見た。

マユが犯人である事をここで言えばどうなる?

マユは和歌子のことが好き。

本人から聞いた訳ではないけど、それは、たぶん恋愛感情みたいなマユにとっては、とても大切な気持ち。

犯人がマユだと分かれば、正義感が強く潔癖な和歌子はマユの事を今まで通りには見なくなるだろう。


「なんかさ、最近、上履き見たら、わかった。

履いてなかったり、水で濡れてたり、汚れてたり。な、なんかわかんないけど、

あと、体育の時、保健室で着替えてるよね?多分、靴とか、色々、失くなってるよね?」


どこまで、正直に話すか考えながら話しているせいで言葉がもつれてアリサの話し方は不自然になった。


「佐藤さん、なんか、話し方変だよ。なんで、そんなに必死で心配してくれるの?

佐藤さん、私のこと気にしてくれてたんだね。初めてだよ。いじめに気づいた人。

人って他人のこと気にしてないんだよね。関心無いんだよ……人のこと見てない……違う……

見てても、気づいても、知らんふりするのよ。

面倒なだけじゃない?揉め事とか。

人に『いじめられてる』って言っても、どうせ、『気のせい』って言われる……」

リリカは諦めたように言った。


アリサが何か言おうとした。だがそれより先に和歌子が言った。

「馬鹿じゃないの?

なんで秘密にしてるの?言わなきゃ助けらえないよ!

なんで困ってるって教えてくれないの?『助けて!』て言ってよ。」

いつも優しい和歌子が怒ったことにリリカもアリサも驚いた。


「ごめんなさい。黙ってて。」

「うん。友達なんだから……言ってよ。

大きい声出してごめん。怖かったよね。」

「いいよ。ありがとう。」


黙って二人を見ていてアリサが言った。

「あのね、嫌がらせの件、私に任せてくれない?

必ず、犯人見つけてやめさせるから。岩本さんに謝らせる。

だから、明日から何かあったら私に教えて。」


和歌子は、ちょっと戸惑ったが、リリカが素直に頷いたのを見て了承した。


「うん。わかった。」


「それと、今までごめんなさい。私、岩本さんのこと、アントワネットとか言って馬鹿にしてた。

あれもいじめだよね……。ごめんなさい。」


リリカは微笑んで言った。


「いいよ。気にしないで。佐藤さん、優しいね。良い人だね……

こちらこそ、私が困っている事に気がついてくれて有難う……

私、前の学校でも色々酷いことがあって、もう友達は作らないって思ってたの。

人と距離とって関わらないようにしようって考えてた。

最初から仲良くならなかったら、なんかあってもそんなに辛くないし。」















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