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籠の小鳥たち  作者: 猫林かおる
12/21

マユの片思い

 夏休み初日。お昼前の中学校。

 

 和歌子は剣道の練習を終えて道場横の手洗い場で顔を洗っていた。

 そこへ、マユがやって来た。

 

「若君、お疲れ様。これ……どうぞ!」

 マユは剣道着姿の美しい若君の姿に、うっとり見とれながらタオルを差し出した。

 

「あ、マユ。ありがとう。でも、自分のタオルがあるからいいよ。」

 

「そ、そう。そうだね。あ、あのね、今日、これからランチ一緒に食べない?お弁当作ってきたんだ。」

 

「あ、ゴメン。今日はこれから出かけるんだよ。」

 

「そうなんだ……」


 マユがあまりにもがっかりした顔をしたので和歌子は戸惑った。

 

「あ、ごめんね……せっかく作ってくれたのに悪かったよ。ゴメン。」

 

「気にしないで!仕方ないよ。用事があるなら。ホント気にしないで!」

 

 そう言った後、マユは思い切って昨夜からずっと気になっていたことを和歌子に尋ねた。

 

「あの、あのね……若君は昨日アントワネット(リリカ)と会ったの?私、お母さんから聞いたの。」

 

「うん。会ったよ。昨日、リリカの家で一緒に晩御飯食べた。」

 和歌子は隠すこともなく当たり前のように笑顔で返事をした。

 

「え……?あ、そうなんだ。」マユは動揺した。

 

「うん。それでさー、マユ、リリカのこと『アントワネット』ってあだ名で呼ぶのやめない?なんか嫌なんだよね。普通に『リリカ』て、名前呼びにしようよ。」

 

「……若君がそうしたいなら。」

 

「よかった。ありがとう。」和歌子はマユに笑顔を向けた。

 

「あの、もしかして……若君はアントワネットのこと好きなの?」

 マユの声は微かに震えていた。

 

「ん?嫌いじゃないよ。普通に好きかな(友達として)」

 そう答えて微笑む若君はとても綺麗だった。

 

「そうなんだ」

 

「ゴメン。急ぐから。部室にもどるよ。またね!」

 和歌子は笑顔で手を振ると部室に行ってしまった。

 

「うん……またね……」

 そう言ったマユの声は和歌子には聞こえなかった。

 

 たった一人、手洗い場に残されたマユは泣きたいのを必死で堪えていた。


 マユは思いっきり蛇口をひねって水を出し激しく顔を洗った。顔を洗いながら思いっきり泣いた。

 

「私はこんなに若君が好きなのに……頑張っても頑張っても、中々、距離が縮まらないのに。なんであの子なの?アントワネットなんて!ギロチンで処刑されちゃえばいいに。」


 マユは自分の心の中に良くない感情が湧いてくるのをどうしても抑えられなかった。

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