9 お掃除する人
会社のきれいに清掃された手洗いを利用するたび、日本の社会について不思議に感じることがある。
手洗いの掃除をしているのは、ビルと契約している会社のクリーンスタッフだ。
年齢は見たところ、若い人でも70前後、中には80くらいに見える人もいらっしゃる。
私は家の掃除は結構重労働だと思っている。
トイレ掃除にしても、かがんだりのぞき込んだり、ごしごし磨いたり、中腰の作業が結構堪える。
なのになんでこれは高齢者の仕事の定番みたいになっているんだろう?
高齢になると掃除がうまくなるというわけでも、好きになるわけでもなく、高齢になっても働かざるを得ないとき、採用される職種がそういう職種しかないから仕方なくだと思われる。
うちのビルみたいにきれいなトイレで蛇口からお湯が出るところはまだましだ。
通勤途中に通り抜けている地下街の清掃室が開けっぱなしになっているとき、中はコンクリートの愛想のない洗い場になっていて、ヘンゼルとグレーテルに突き飛ばされる寸前の竈をのぞき込む老婆のようにかがみこみ、バシャバシャと飛沫を飛ばしながら素手で雑巾かモップを洗っている高齢の女性の後ろ姿(ほとんどおしりと丸まった背中)がある。
夏はともかく冬は手が凍るに違いない。かがみこんでの作業から体を起こすとき、きっと体がぎしぎしと痛むに違いない。
高齢者に向いている仕事とは、とても思えない。
うすうすは感じていたが、日本は低賃金の労働者にとってとても過酷な国である。
過酷な労働にはそれなりの対価が支払われるのでないと報われない。
国会議事堂の清掃を、一度議員の皆様で全部やってみられてはいかがだろうか。