精霊泥棒
夜が明け、クロノが署に出勤すると署内は大騒ぎであった。
「クロノ!来たか!」
マイル上官が声をかけてくる。
「おはようッスね、たいへンですよ!」
栗色の髪をした部下、ブランも慌てた様子であった。
「マイル上官、これはどうしたのですか?」
クロノは落ち着いた様子で聞き返した。
「ああ・・・」
マイル上官は神妙な顔で黙り込んだ。
「精霊の密売だ」
精霊達それは、このアンダーワールドに生きている生き物たちの中でも、世界の始まりからいると言われる存在だ。殆どの生き物たちは時間の流れの中で進化を遂げてきたが、精霊は世界の始まりの頃のままの姿をしているという。
天敵となる生き物がいなかったのであろう。
しかしながら、その数は少なく絶滅危惧種とされている。
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マイル上官、ブラン、クロノは、パトカーに乗り込み署を出発した。
「原始の森に向かうンすか?」
ブランは車を運転しているマイル上官に尋ねた。
車内での役割は、ブランが地図の確認、補佐、クロノは指示があったときいつでも動けるよう待機、マイル上官は、全指揮を持ち、目的の場所にむかうべく運転席に乗っていた。
「いや、じつはもう数名の者が原始の森に送られている。怪しい者がいないかさぐるために捜索中だ。」
マイル上官は前を見据えながらそう答えた。
精霊は原始の森という、この世界が出来た頃から変わらないと言われる森にのみ存在している。
おそらく、そこに密売に関与している者が現れるはずだ。
「むやみな精霊の乱獲はとめなければいけない。私たちは、都市で怪しい動きがないか聞き込み作業だ。」
上官はそう話した。
「ええ!この広い都市を自力で聞き込み作業っすカ!俺たちとんでもない外れくじを引き受けさせられたんじゃ・・・」
ブランは驚いたように叫び、そう言った。
「なにはともあれ、俺たちは出来ることをするだけだ。」
マイル上官の言葉の元、クロノ達は都市を移動した。