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続 日韓大戦  作者: 独楽犬
第二部 遅滞の章
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八.情報収集

6月27日未明 東シナ海 海上自衛隊潜水艦【こうりゅう】

 海中を巨大な鉄塊が進んでいる。周りを優雅に泳ぐ魚たちの姿と比べると何とも醜いものであるが、それは人類の生み出した幾多のテクノロジーを投入された強力な兵器システムであった。



 海上自衛隊の潜水艦【こうりゅう】は厳戒態勢を維持しながら東シナ海を進んでいた。内戦の続くうえに台湾との緊張状態を高めていた中国に対する情報収集任務に投入されていた【こうりゅう】であるが、高麗との戦争勃発により呼び戻されたのである。


 【そうりゅう】型の第4番艦である【こうりゅう】は就役から3年目の新鋭艦である。葉巻型と呼ばれる独特の船体にはアメリカの潜水艦と比べても見劣りしない最新鋭のエレクトロニクスが詰め込まれ、その戦闘能力は世界有数を言われる高性能艦であるが、その命運はたった一人の男に握られていた。その男は名を山吹義男やまぶき よしおと言い、階級は1等海曹、役職は水測ソナー長であった。彼は今、まだ十分な力量を身に付けていない新人ソナーマンとともに当直に就いていた。

 山吹はソナー画面を眺めながら、様々な水中の音の中から敵を見つけ出そうとしている。ベテランのソナーマンである山吹は解析にかけなくても音を聞けば船の種類を当てることができた。そしてその耳は今回もうまく働いた。山吹は艦内電話の受話器を取ると艦長を呼び出した。

 発令所から艦長である中曽根2佐がソナー室を訪れるまでに15秒ほどしかかからなかった。ソナーは発令所の隣にある。

「敵艦か?」

「まだ分かりませんが、潜水艦です」

 山吹はそう言ってソナー画面の一点を指差した。素人目にはデタラメにカラフルな模様を映しているだけにしか見えない画面だが、山吹はその中に自分が乗っているのと同じような鉄の鯨の姿を見ていた。

「今、抽出して流します。雑音を消去してクリアにしました」

 スピーカーからは明らかに船舶のスクリュー音と分かる音が流れ始めた。

「1軸のスクリュー音。潜水艦です。詳しくは不明ですが、海上自衛隊かアメリカのモノではありません」

「よくやったぞ。すぐに正体を暴いてくれ」

 中曽根はそれだけ言うと発令所に戻った。

「総員戦闘配備、水雷戦用意!これは訓練ではない」

 それを聞くと、乗組員たちがキビキビと動き出した。その顔は誰もが緊張感に満ちている。これは訓練では無い上に、今は平時ではなく戦時である。つまり誰かが戦闘に参加しなくてはならないのだ。それがもしかしたら自分達かもしれない。


 乗組員たちが配置につくと、【こうりゅう】の船内は静寂に包まれた。いくら防音技術が発達したからと言っても、全ての音を遮断できるわけではない。敵に見つからぬために皆が声を潜めているのである。だが、その静寂は長くは続かなかった。

<目標は台湾海軍、海龍ハイロン型潜水艦!>

 山吹の声に続いて、乗組員たちの溜息で船内は一杯になった。

「戦闘配備解除、戦闘配備解除。哨戒配備につけ」

 中曽根はそう命じると、乗組員の中で最後に溜息をついた。

「助かったな。もし正体を知らずに攻撃をしかけていれば、大変なことになっていた」

 日本の周辺国、中国、台湾、ロシア、アメリカはみな潜水艦を保有し海中に配備している。極東は世界有数の潜水艦ホットゾーンなのだ。そして今、自衛隊と高麗軍が戦争を開始している時でも各国の潜水艦隊は不気味に活動を続けており、戦争の当事者は常に敵味方識別の判断を強いられ緊張状態にあるのである、



 それから数時間後、【こうりゅう】はフローティングアンテナを水上まで伸ばして潜水艦隊司令部からの命令を受けとっていた。

「今度は何だ?福岡方面への偵察任務?」

 仮眠中に叩き起こされ、発令所に入っていた中曽根2佐は、哨戒長を務めていた当直仕官から状況説明を受けていた。

「危ない任務だな…」

「しかし、高麗の対潜能力は充実しているとは言いがたいです。不可能ではありませんよ」

 若い哨戒長が語った。

「それもどうだな。前進原速。深度60、針路そのまま。ヨーソロー」

 艦長はあまりやる気がなさそうだった。

「前進原速。深度60。針路そのまま。ヨーソロー」

 哨戒長が復誦した。




対馬海峡 釜山と対馬の中間海域

 【こうりゅう】が偵察任務の命令を受領すると同じ頃、同じような任務を既に実行中の艦があった。ステルスミサイル駆逐艦【マイケル・モンスーア】である。

 低視認性塗装が施されて暗い闇の中に紛れこんでいる【マイケル・モンスーア】では高麗本土と高麗の占領下にある対馬への情報収集活動が開始されていた。

「シースカウトがまもなくツシマに達します」

 主要な将校が詰める【マイケル・モンスーア】CICでは情報士官レモラに皆の注目が集まっている。彼の前の画面には【マイケル・モンスーア】が搭載する無人偵察ヘリコプターであるMQ-8シースカウトの赤外線カメラが捉えた映像が映されている。

「敵に見つかってはいないの?」

 艦長が尋ねると情報士官は首を横に振った。

「レーダー探知を避けるために超低空で飛行しています。ESMも反応していません。高麗軍のレーダーには捉えられていない筈です。まもなくツシマ空港が視界に入ります」

 浅芽湾より侵入したシースカウトは高度を上げて対馬空港の全景を赤外線カメラに収めた。まず目に付いたのは背部に巨大な板を載せたような旅客機型の飛行機である。

「E-737です」

 レモラが説明をした。高麗空軍の早期警戒機である。さらにその奥にはF-15Kが8機ほど並べられているのが見えた。どの機体も爆弾の搭載作業が行なわれている。

「なにかの作戦準備中のようですね」

 副長が指摘した。そしてこんな提案をした。

「今ならまとめて吹き飛ばせますよ」

 距離としては100km程度であるから長射程弾を使えば155ミリ主砲AGSでも十分に届く。連射をすれば駐機している航空機をあとかたもなく破壊できるであろう。

「ダメよ。まだアメリカは参戦していないのだから」

 艦長は副長を窘めつつ、彼の提案を魅力的なものだと考えていた。きっと実行できる時が来るであろう。

電子情報収集(シギント)の方は?」

 艦長が尋ねると部下達と共にコンソールと睨めっこをしていた電子戦担当のストレイヤー大尉が答えた。

「通信量が急速に増えています。それもツシマだけでなく戦線全域で。なにか大規模な作戦を準備しているようです」

「日本に伝えたら喜びそうね」

 【マイケル・モンスーア】の得た情報は傍受されにくい衛星通信をつかってハワイの太平洋軍司令部に送信された。




午前7時 防衛省中央指揮所

 アメリカ太平洋軍司令部が在日米軍司令部を通じて送ってきた情報は中央指揮所に詰める自衛隊の最高首脳部たちを緊張させた。

「各部隊に通達して警戒を高めさせるんだ」

 神谷統幕長が陸海空の幕僚長に指示を出した。

「各自衛隊の増援部隊の展開状況はどうなっているんだ?」

 まず答えたのは剣持陸幕長であった。

「第14旅団が大分への上陸を完了しました。現在は西部方面隊の戦略予備部隊として待機中です」

 第14旅団はそれまで四国の防備を担当していた第2混成団を改編したもので、2個普通科連隊を基幹とする小さな部隊である。その立地から中国地方や九州を守る部隊の後を詰める戦略予備部隊としての正確が強い。

「第7師団先遣隊も今日中には九州に上陸できる筈です。それに加えて現在、第6師団、第10師団、第13旅団の各部隊を派遣する予定ですが、高麗軍の次の攻勢に間に合うかはわかりません」

 続いて笹山海幕長が説明を行なった。

「海上自衛隊は第1護衛隊群が五島列島沖に展開して阻止線を張っていますが、対馬海峡に突入せよとおっしゃるなら空自の援護がないと」

 潜水艦に与えられた特殊任務については説明をしなかった。潜水艦の作戦行動は海上自衛隊の機密中の機密であり、例え中央指揮所の中でも簡単に漏らすわけにはいかないのである。

「空自は巡航ミサイル対策で手一杯ですよ」

 斎藤空将は首を横に振りながら言った。

「今は攻勢作戦はとれません」




モスクワ時間午前5時 ホテルウクライナ スイートルーム

 ドミトリー・ウスチノフはこんな時間に会う約束をしたことを後悔していた。ただでさえ早い時間で、しかも今は夏時間が始まったせいで余計に早く感じる。しかし、これも両者の都合の辻褄をあわせた結果であるから仕方が無いと言う事は、彼自身がアポイントをとったのであるから分かっていた。

 ドアを開けると4つ星ホテルの最高級スイートらしい高級感溢れる豪華な内装が施された広い部屋がドミトリーを待っていた。そしてお目当ての人物も。ドミトリーは連絡員1人を伴なって部屋に踏み入った。

「おひさしぶりです」

 ドミトリーが右手を差し出すと、相手も同じく右手を出してドミトリーの手を握り締めた。

「こちらこそ。それでご用件は?」

 相手は流暢なロシア語で返した。相手は西側でも広く知られた人物であったが実は日本語も含めた数カ国語に精通する秀才であるということはあまり知られていない。

 ドミトリーを迎えたのは、かつて北朝鮮とも呼ばれた朝鮮民主主義人民共和国の中で高い位置にいた重要人物であった。中年を過ぎてだいぶ贅肉がついたドミトリーと比べても横幅の広さが目立つ相手の男は秘密会談の相手としてはどうしても胡散臭さを感じられるが、北朝鮮と韓国、アメリカの開戦から南北統合までの混乱の中からまんまと国外に逃げおおせたしたたかさは本物に間違いはなかった。

「あなたの見解を聞きたいのです。高麗連邦と中国、間をとりもっているのは誰かということです」

 すると連絡員の持つ携帯電話が鳴った。連絡員は2人に断りをいれると背を向けて携帯電話を手にした。

「なんだって。分かった。現地は午前10時だったな?」

 連絡員は黙ってこちらを注視している2人に言った。

「長官。高麗連邦軍が九州で再び攻勢に転じたそうです」

 悪い癖であると思いながら、やってしまうのですよね。やたらとキャラを増やしてしますのは。ただ陸自、空自ばかりで海自もそろそろ活躍させろ!と言われそうなのと、潜水艦戦を書きたいという欲求を押さえられませんでした。すっかり忘れ去られている<ゆきぐも>を使えという声もあるでしょうが、艦長を名無しにしてしまったせいでどうも使いづらい。まぁいずれ第1護衛隊群ともども舞台を用意するつもりです。


(改訂 2012/3/23)

 登場人物の名前を変更

(改訂 2012/7/25)

 艦名、及び一部内容を変更

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