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続 日韓大戦  作者: 独楽犬
第二部 遅滞の章
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七.巡航ミサイル迎撃作戦

岐阜基地

 航空自衛隊岐阜基地は航空自衛隊に配備される様々な装備の開発・研究を進める航空開発実験集団の中で一番重要な航空機に関する研究を行なう飛行開発実験団が置かれているのが岐阜県各務ヶ原市にある航空自衛隊岐阜基地である。

 この基地には航空自衛隊の保有するあらゆる航空機が配備され、各種実験施設が準備され、さらには川崎重工の工場に隣接しているという実験場に相応しい態勢が築かれている。


 この基地の今の主役は4機のF-15であった。それもF-15Jではない新型機である。その機体は公式にはF-15FXと呼ばれ、非公式の愛称としてサイレントイーグルの名が与えられている。次世代F-Xとして自衛隊が導入を開始した最新のF-15である。

 基本的には戦闘爆撃機であるF-15Eストライクイーグルを制空戦闘機として最適化した機体である。レーダーにはアメリカの最新のF-15Cと同じようにAPG-63(v)4を装備し巡航ミサイル探知能力も高い。また尾翼はレーダー反射を抑えるために垂直尾翼が外側に傾けられ、また機体側面に取り付ける専用のウェポンベイ内蔵のコンフォーマルタンクに兵器を収めている。これにより正面限定ながらF-22などと同程度のステルス性を確保しているのだ。

 今、航空自衛隊ではF-4EJ改の後継として導入を進める一方で、ここ岐阜基地でどのように運用すべきか試験と研究が続けられていたのだ。


「出撃ですか?」

 集められた8人のパイロットの代表が実験団司令に向かって言った。F-15FXは複座で、各機にパイロットと兵装士官が搭乗する。特に高い電子戦能力を武器にするF-15FXではレーダーなどの各種操作をする兵装士官は重要である。

「その通りだ。それも実戦のな」

 8人のパイロットの顔が一気に引き締まった。実験部隊を高麗空軍との空中戦に使おうとは考えないだろうが、それでも戦場に派遣されるのは間違いないのだ。




海上自衛隊厚木航空基地

 厚木基地には海上自衛隊の様々な部隊が配置されているが、その1つである第51航空隊は航空自衛隊の飛行開発実験団に相当する部隊で、新しい器材の実験・研究がその任務である。新型の国産哨戒機であるP-1の配備が開始され、第51航空隊ではその派生型の研究に力が注がれるようになった。その1つがXEP-1C空中複合センサー機である。

 XEP-1Cは巡航(クルーズ)ミサイルの頭文字であるCが後ろにつけられている点からも分かるように、巡航ミサイルを主要な目標にして弾道ミサイルやステルス機への探知能力をも併せ持つ空飛ぶ探知機なのだ。

 機体の背部には目標の熱を感知する赤外線センサーを搭載し、下部にはアクティブフェイズドアレイレーダーが設置されている。この2つのセンサーを駆使して敵の巡航ミサイルを探知するのがXEP-1Cの任務なのだ。

「この機体は試験中なんですよ?実戦でどこまで通用するか」

 機長が任務の説明をした飛行隊長に食って掛かっていた。

「そう言うな。実戦テストの機会なんて滅多にないんだぞ。特にこの日本では。それにだ、アメリカだって湾岸で試験中のジョイント・スターズを派遣して大きな戦果をあげたじゃないか」

 ジョイント・スターズとはアメリカ空軍の保有するE-8対地監視機を示す。地上を移動する目標部隊を様々なセンサーで探知、追尾して友軍部隊に的確な指示を与えるための航空機で、対地版のAWACSであると言える。その性能は湾岸戦争時にイラク軍相手に発揮され、多国籍軍の勝利に大きく貢献した。当時は試作機であったが、優れた性能を示したE-8はすぐに正式採用されて量産が開始されたのである。

「それにだ。お前はこの機体の性能に自信が無いのか?」

「いえ。XEP-1Cは世界のどこでも通用する機体であると思っています」

「だったら飛んでくれ」

 そこまで言われたら機長も引き下がらざるをえなかった。




首相官邸

 その日の夕方、再びローゼンバーグ駐日大使が在日米軍司令官を伴って首相官邸を訪れた。

「結局、日本はどうするつもりなんですか?」

 大使はなんの外交儀礼も挟まずに率直に聞いてきた。

「私は決断したのですが、なにぶん議会では少数派になってしまいまして」

「そちらの事情はお察ししますが、貴国が動かない限りは我々も動きようがありません」

 大使は疲れた表情の烏丸首相に向かって冷徹に宣告した。

「ただし現段階では軍の介入はできませんが、いくらかの支援は可能です。これはそのリストです」

 大使は一枚の紙を渡した。そこには英語のリストが印刷されていた。そこには様々な物資弾薬の貸与が提案されていた。

「ありがとうございます」

 その中には巡航ミサイル早期警戒システムという項目があった。




福岡 東平尾公園

 福岡空港の東側にある丘陵地帯に総合運動公園がある。3万人を収容可能な陸上競技場をはじめ広大な敷地とさまざまな設備を有するこの公園が高麗軍千里馬遠征部隊の現地司令部に選ばれたのは当然の成り行きであった。

 広い運動場の中には衛星通信装置などの各種通信装置が偽装されて配置され、林の中には半地下式の塹壕が掘られて司令部が設置されている。チェ・チョンヒ将軍とその参謀たちはそこに詰めて、本国の指示を待ちつつ作戦計画を練っていた。

「次の攻撃目標は飯塚とすべきです」

 首席参謀であるイ・デヨン大佐が指摘した。

「自衛隊の主力を叩き、戦力を粉砕すべきなのではないか?」

 チョンヒ将軍はあくまでも南下して大宰府防衛線を叩くことを主張した。

「しかし、福岡と北九州の連結を確固たるものにするのが最優先であると思います。それに弾薬の補給が十分とは言えません。事態が長引いた場合のことを考えますと、自衛隊の増援部隊との戦闘の可能性を考慮して、敵主力との交戦は控えた方がよろしいかと」

 イ・デヨンは食い下がった。それに補給担当の参謀が続く。

「海軍力では日本側が優勢です。今でこそ物資を搭載した貨物船は自由に行動でき、補給活動を円滑にできますが、朝鮮海峡から中立船舶がいなくなれば日本の海上自衛隊はただちに阻止行動に出るでしょう。補給には限りがあると考えるべきです」

 さらに作戦参謀が続いた。

「自衛隊の攻勢を考えますと、できる限りベストな状態を保つべきです。我々がなすべきことは飯塚を攻略して、確固たる防衛線を構築することです。それは自衛隊を躊躇させることになるでしょう」

 チェ・チョンヒは決して有能ではなかったが、部下の言葉に耳に傾ける程度には無能ではなかった。

「よろしい。本国に飯塚攻略の許可を求める」




鹿児島県 鹿屋(かのや)航空基地

 かつての特攻隊の発進基地として知られる鹿屋飛行場は、現代では海上自衛隊とアメリカ海兵隊の共用する航空基地となっている。アメリカ軍の存在のためか高麗軍はこの基地への攻撃を控えていた。

 この基地の格納庫の住人は海上自衛隊第一航空群のP-3C対潜哨戒機や第72航空隊のUH-60J救難ヘリコプター。それにアメリカ海兵隊のKC-130J空中給油輸送機である。それに新顔が加わった。それが小松の第6航空団から派遣された8機のF-15J改であった。


 1980年代から日本の防空の主力を担ってきたF-15J戦闘機であるが、21世紀に突入すると老朽化が目立つようになった。そして周辺国が空軍力の増強を進めるのに対応するために近代化改修が施されることになったのである。

 第6航空団のF-15J改は改修一型と呼ばれるタイプのものでレーダーとコンピューターシステムが新型のものに換装され、さらに国産の空対空ミサイルであるAAM-4を搭載できるように改良されている。

 AAM-4、正式には99式空対空誘導弾はAIM-7スパローの後継となるミサイルとして開発され、アムラームミサイルのように自らのレーダーで敵機を捜索して追尾、攻撃する能力があり、最後まで母機が敵機まで誘導する必要がない。撃ちっ放し型のミサイルなのだ。このミサイルの存在によって航空自衛隊はアムラームを装備する高麗空軍と互角に戦えることができる。さらにスパローより小型化を進めたアムラームに対して、AAM-4は大きさをスパローそのままで射程をより伸ばし、攻撃能力と電子戦能力を高めることを目指した。それ故に巡航ミサイル迎撃任務に対してはアムラーム以上に優れているとされる。

 かくして航空自衛隊の増援部隊第一陣は巡航ミサイル迎撃任務に就くことになった。



 同様の任務が与えられたのは彼らだけではない。那覇基地に退避している第6飛行隊にも巡航ミサイル迎撃任務が与えられた。彼らが装備するのは、本来は地上や水上の敵を攻撃して陸自部隊を支援する支援戦闘機のF-2であるが、しかし巡航ミサイル探知能力に優れるアクティブ・フェイズド・アレイレーダーを装備し、さらに第6飛行隊のF-2の一部はAAM-4を装備できるように改修されているので、この任務に最適と判断されたのである。



 さて増援としてかけつけたF-15J改部隊が任務に備えて整備を行なっている頃、鹿屋飛行場の滑走路に数機のC-17が着陸した。彼らの任務は同盟国への支援として貸与される物資を運ぶ事である。そしてこれらのC-17に巡航ミサイル迎撃作戦の切り札が載せられているのだ。

 かくして高麗の巡航ミサイルに立ち向かう体制は急速に整えられた。




東平尾公園

 チェ・チョンヒ将軍の司令部には隷下の部隊の指揮官たちが集められていた。半地下式の司令部の中には、九州北部の地図が張られたホワイトボードを前に上級部隊ごとに集まって並んでいる彼らの中には特殊作戦部隊の指揮官の1人としてドン・テヒョン少尉も交じっていた。

「気をつけ!」

 指揮官たちが姿勢を正すと、チェ・チョンヒ将軍が指揮官たちの背後からテントに入ってきた。

「忠誠!」

 前に立った副官が敬礼で迎え、チェ・チョンヒ将軍は答礼する。そして前に立って集まった指揮官たちの姿を見た。

「諸君、いよいよ新たな攻勢を開始する。目標は飯塚市だ」

 チェ・チョンヒは作戦の概要を説明した。

「作戦発動は明日の午前10時だ。巡航ミサイル攻撃を併せて日本に動揺を与えるとともに、福岡と北九州の連絡を確固たるものにする。質問はあるかな?」

 何人かが疑問点を述べて、参謀がそれに答えると会合は終わった。指揮官たちは作戦決行の準備をすべく、それぞれの部隊に戻っていった。最後にドン・テヒョン少尉が残った。チェ・チョンヒはそれに気づいた。

「おぉ。君は!ドン・テヒョン少尉だったな。君の武勇伝は聞いているよ」

 ドン・テヒョンは特殊作戦部隊の中でも最も有能な指揮官として紹介されていて、今回の作戦でも北九州と福岡の占領に大きな役割を果たした。ただ1つの点を除いた。

「少数の敵を逃してしまったのは残念だが、だがそういうこともあるものだ」

 ドン・テヒョンはチェ・チョンヒの言葉に拳を握り締めた。

「逃がしたのは私ではありません。海兵隊の連中です。もう少しで追い詰めることができたのに、あの海兵隊の連中が逃がしたのです」

 チェ・チョンヒはドン・テヒョンの言葉に驚いた。

「南の人間は資本主義に毒され、堕落している。特殊作戦部隊を再編成したい」

「再編成だって?」

「特殊作戦部隊指揮官の許可は得ました。私の部隊を直属の部隊で固めたいのです」

 その瞬間、チョンヒの顔色が変わった。

 千里馬作戦に投入された特殊作戦部隊は旧北朝鮮と旧韓国の軍人から成る3つの混成小隊から成っている。彼は自分の小隊に分散している旧北朝鮮特殊部隊の人員を集めようと言っているのだ。

「直属の部下?元第8特殊軍団の連中か?」

 第8特殊軍団。かつて北朝鮮とも呼ばれた朝鮮半島の北半分を支配していた国家、朝鮮民主主義人民共和国の誇る数十個旅団に及ぶ大規模な特殊部隊だ。人生の半分を38度線で過ごしたチョンヒにとって北朝鮮の特殊部隊は最も恐れる存在なのだ。

 特殊作戦部隊を南北合同にしたのも旧北朝鮮特殊部隊をそのまま実戦に投入することに危機感を覚えたからに他ならない。なにをするか分からない。そういう恐怖心を旧韓国の軍人たちは抱いていたのである。

「はい。彼らは優秀です。必ず日帝の腰抜けどもを叩き潰してくれましょう」

「そうか、期待しているぞ」

 テヒョンは敬礼で返すと、すぐに司令部を出て行った。その瞬間にチョンヒの顔色が再び変わった。

「糞。北の貧乏奴隷が。戦闘に他人より少々長けているくらいで調子に乗りよって」

 チョンヒは、その拳をテーブルに叩きつけた。



 司令部を出たテヒョンは、待ち構えていた韓国軍のジープであるK131多用途車に飛び乗った。運転するのはキム・ヨンス伍長である。

「同志少尉。どうでしたか?」

「部隊を再編する許可をとった。これでやりやすくなる」

 助手席に収まったテヒョンは、後部座席に置いておいて水筒を手に取りながら答えた。

 K131は走り出し、明かりの消えた街を疾走した。

「同志少尉。この戦争が終わったらどうなさるおつもりで?」

「どうなさるって、勝つか負けるかによるな」

「勝つに決まっているじゃないですか!」

 ドン・テヒョンは部下の抗議を無視して水筒の水の口に注ぎ、飲み込んだ。

「うまい。日本の水道水だ。飲んでみるか」

 ドン・テヒョンは水筒を持った手を女に向けた。

「水道水?飲めるんですか?」

「飲めるんだ。水道水が飲めるんだ」

 その言葉にキム・ヨンスは心底驚いた様子であった。

「いいか。日本人は手先が器用な連中だ。我々には無い力を持っている。事実、ヒデヨシが、日帝が、我が祖国を蹂躙したが、我が民族が日本を蹂躙した事は無い。日本はそれだけ強大な国なんだ。簡単に勝てる相手じゃないぞ」

 ドン・テヒョンはそう言って、再び水筒の水を口の中に注いだ。

「で、勝ったらどうするおつもりで?」

「そうだな。東京へ行こう。東京の葛飾だ」

「葛飾?」

「我らが偉大なる将軍閣下が一番好きだった映画の舞台さ」

 2話を感想欄による指摘に基き登場する機体をRF-4EJからRF-15Jに変更しました。

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